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第二章 アイリス三歳『魔力診』後
その11 サヤカとアリスの学園生活(完結編1)
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11
「ようこそ、アリス・ツキミヤ。まあ、らくにして、好きなところに座ってくれたまえ」
瞬きをして、あたしは息を呑み。
目の前にいる銀髪の中年女性に、引き込まれた。
実際のところ……彼女は、
中年なのか、老女なのか、若いのか。判別がつきかねたのだ。
どうして、そう感じるのだろう。
引きつけられたのはその、神秘的な目の色。
アクアマリンよりも明るい、ごく淡いブルー。
少しばかり不思議なアクセントで、この言葉を紡いだ。椅子に浅く腰掛けているだけなのに、圧倒的な力と威厳を感じさせる姿。
そして、どこからどう見ても日本人ではあり得なかった。
「落ち着かないのかな? 私は君に興味があったのでね。このような場をもうけてもらったのだ」
「あたしに?」
「そうだ。アイドル『サヤカとアリス』ではなく個人のアリス・ツキミヤに」
高級そうなホテルのラウンジ、VIPルーム。
窓からは新宿の夜景を臨める。本来は地上に星をちりばめたように華やかなはずだが、レストランがほんの一部分しか見えないのはここが六十階に及ぶ高層ビルの最上階にあるレストルームだからだ。
ちなみにホテル・リバーウェーブ新宿という。並河グループの一つである。
あたし、月宮アリスは、なんでこんな状況になっているのかわからない。
マネージャーに連れてこられて、VIPルームに入ったら、銀髪の外人女性がいたのだ。
紅茶とケーキが置かれたテーブル。椅子がいくつか。
シンプルなのにすごく高級そうな室内。
「自己紹介がまだだったね。初めまして、私はネリー・エマ・オブライエン。この子の祖母。……いや、曾祖母くらいかな」
上機嫌そうに、中年の婦人は行って、傍らに立っている美少女に、ちらと目をやる。
「ひいおばあさま。ねえ、彼女は、アリスは、お……わたしの言ったとおりだったでしょう?」
まっすぐな長い黒髪。夜のように黒いつややかな瞳。
今すぐにでもスーパーモデルになれそうな長身と素晴らしいプロポーションを、飾り気のない純白のシルクサテンのロングドレスに包んだ、清楚なたたずまい。
ほんとうに、なんてきれいな人だろう!
この、並河香織さんという存在は。
あたしより一つしか歳が違わないなんて、信じられないくらい、大人っぽい美人。
婚約者までいるのだから。同級生の男子で、美少年だったなぁ。
「アリスは『鍵』です。彼女の中には純粋無垢な『力』がある。ただ、まだ方向性や使いどころを図りかねて、解放することができないでいる。本人も気づかぬままに」
「そうさね。まったく、そのとおりだ……間違いない。アリス。尋ねるが、きみの周囲で、何かしら不可思議なことが起きてはいまいか」
「不思議って。そりゃあ、ふしぎなことばっかりですっ!」
置かれた状況も忘れて、あたしは声をあげた。
「そもそも、あたしがアイドルだなんて、そこからもう、あり得ないです!」
中学生のとき、親友の紗耶香と原宿を歩いていて、並河社長にスカウトされた。もともと、子どもの頃からファッションモデルをやっていた香織さんのために立ち上げた事務所で。
夢みたいにどんどん話が進んで、レッスンを重ねて、歌手デビュー。
コンサートもしたしTV出演もしたし。
そして高校は並河社長の奥さまがオーナーをしている私立旭野学園高校に入学。
順調だったけど、一年生になってしばらくして、ストーカーにつけられている気がして。紗耶香に話したら同じ悩みを持ってるってわかって。
二人でマネージャーに相談したら、並河社長のお嬢さまの香織さんと、生徒会のみなさんが『趣味で』やってる『よろず相談室』と、学園専属のスクールカウンセラー、ルリアさんに紹介された。
そこからは、解決は早かった。
香織さんの飼っている二頭の大きな犬が捕まえてきたのは、ストーカーの手がかりを持っていた二人の男子。
あたしが駅で出会っていた、最上キリコさんと、紗耶香と知り合っていたジョルジョ・カロスくん。
彼らが突き止めはしたけれど手を出せなかったストーカーを、カウンセラーの瑠璃亜さんが、どうやってかはわからないけれど、問題なく対応してくれて。
ストーカーを気にしなくてよくなったの。
「こんな平凡なあたしが、いろんなことに出会ってるってことがもう、不思議で!」
「自分を平凡だと信じているのか。驚いたな」
オブライエンさんが、にやりと笑った。
あれ?
そのときあたしは、気づいた。
このひとは、『本人』じゃ、ない。
『おや驚いたね! なんの訓練もしていないのに、察したよ! この子は』
声は。
部屋の隅の、暗がりから、聞こえた。
「だから言ったでしょう、ひいおばあさま。アリスは『本質を見透かす』者なの」
『面白い。長生きも悪くはないね、たまにはこんな、わくわくすることに出会う』
楽しげな声とともに、現れたのは。
十歳にもならないような少女だった。
真っ黒な長い髪を二つに分けて三つ編みにしている。淡い青の目と、白い肌をしていた。
『正しく《月宮》の血を継ぐものが、ついにあらわれたとはね!』
「あ、あなたは」
『おや、今さら? 我を《視た》のはアリス、おまえだろう? 私は、もともとは名前などに縛られることなどない存在だったが。私も、まあ、遠い昔だが、とっ捕まったのさ。あんたみたいな、《見える》子にね』
美少女は、手を差し出して、笑った。
『私はネリー・エマ・オブライエン。こちらが本体だ』
あたし、アリスは。
よくわからないままに、ネリーさんと、握手していた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
このエピソード、完結編その1です。次話でほんとに完結します。
以前、違う時代の話(カルナックの幼い頃)をやったら長くなりすぎて
しまったという。その反省から、少し、はしょった部分もありますが
本来の、異世界に転生した幼女アイリスに話を戻しますので!
それまで、あと1話。どうかおつきあいくださいませ。
ところで香織(カルナック)の口調は、ネリーに似てます。
「ようこそ、アリス・ツキミヤ。まあ、らくにして、好きなところに座ってくれたまえ」
瞬きをして、あたしは息を呑み。
目の前にいる銀髪の中年女性に、引き込まれた。
実際のところ……彼女は、
中年なのか、老女なのか、若いのか。判別がつきかねたのだ。
どうして、そう感じるのだろう。
引きつけられたのはその、神秘的な目の色。
アクアマリンよりも明るい、ごく淡いブルー。
少しばかり不思議なアクセントで、この言葉を紡いだ。椅子に浅く腰掛けているだけなのに、圧倒的な力と威厳を感じさせる姿。
そして、どこからどう見ても日本人ではあり得なかった。
「落ち着かないのかな? 私は君に興味があったのでね。このような場をもうけてもらったのだ」
「あたしに?」
「そうだ。アイドル『サヤカとアリス』ではなく個人のアリス・ツキミヤに」
高級そうなホテルのラウンジ、VIPルーム。
窓からは新宿の夜景を臨める。本来は地上に星をちりばめたように華やかなはずだが、レストランがほんの一部分しか見えないのはここが六十階に及ぶ高層ビルの最上階にあるレストルームだからだ。
ちなみにホテル・リバーウェーブ新宿という。並河グループの一つである。
あたし、月宮アリスは、なんでこんな状況になっているのかわからない。
マネージャーに連れてこられて、VIPルームに入ったら、銀髪の外人女性がいたのだ。
紅茶とケーキが置かれたテーブル。椅子がいくつか。
シンプルなのにすごく高級そうな室内。
「自己紹介がまだだったね。初めまして、私はネリー・エマ・オブライエン。この子の祖母。……いや、曾祖母くらいかな」
上機嫌そうに、中年の婦人は行って、傍らに立っている美少女に、ちらと目をやる。
「ひいおばあさま。ねえ、彼女は、アリスは、お……わたしの言ったとおりだったでしょう?」
まっすぐな長い黒髪。夜のように黒いつややかな瞳。
今すぐにでもスーパーモデルになれそうな長身と素晴らしいプロポーションを、飾り気のない純白のシルクサテンのロングドレスに包んだ、清楚なたたずまい。
ほんとうに、なんてきれいな人だろう!
この、並河香織さんという存在は。
あたしより一つしか歳が違わないなんて、信じられないくらい、大人っぽい美人。
婚約者までいるのだから。同級生の男子で、美少年だったなぁ。
「アリスは『鍵』です。彼女の中には純粋無垢な『力』がある。ただ、まだ方向性や使いどころを図りかねて、解放することができないでいる。本人も気づかぬままに」
「そうさね。まったく、そのとおりだ……間違いない。アリス。尋ねるが、きみの周囲で、何かしら不可思議なことが起きてはいまいか」
「不思議って。そりゃあ、ふしぎなことばっかりですっ!」
置かれた状況も忘れて、あたしは声をあげた。
「そもそも、あたしがアイドルだなんて、そこからもう、あり得ないです!」
中学生のとき、親友の紗耶香と原宿を歩いていて、並河社長にスカウトされた。もともと、子どもの頃からファッションモデルをやっていた香織さんのために立ち上げた事務所で。
夢みたいにどんどん話が進んで、レッスンを重ねて、歌手デビュー。
コンサートもしたしTV出演もしたし。
そして高校は並河社長の奥さまがオーナーをしている私立旭野学園高校に入学。
順調だったけど、一年生になってしばらくして、ストーカーにつけられている気がして。紗耶香に話したら同じ悩みを持ってるってわかって。
二人でマネージャーに相談したら、並河社長のお嬢さまの香織さんと、生徒会のみなさんが『趣味で』やってる『よろず相談室』と、学園専属のスクールカウンセラー、ルリアさんに紹介された。
そこからは、解決は早かった。
香織さんの飼っている二頭の大きな犬が捕まえてきたのは、ストーカーの手がかりを持っていた二人の男子。
あたしが駅で出会っていた、最上キリコさんと、紗耶香と知り合っていたジョルジョ・カロスくん。
彼らが突き止めはしたけれど手を出せなかったストーカーを、カウンセラーの瑠璃亜さんが、どうやってかはわからないけれど、問題なく対応してくれて。
ストーカーを気にしなくてよくなったの。
「こんな平凡なあたしが、いろんなことに出会ってるってことがもう、不思議で!」
「自分を平凡だと信じているのか。驚いたな」
オブライエンさんが、にやりと笑った。
あれ?
そのときあたしは、気づいた。
このひとは、『本人』じゃ、ない。
『おや驚いたね! なんの訓練もしていないのに、察したよ! この子は』
声は。
部屋の隅の、暗がりから、聞こえた。
「だから言ったでしょう、ひいおばあさま。アリスは『本質を見透かす』者なの」
『面白い。長生きも悪くはないね、たまにはこんな、わくわくすることに出会う』
楽しげな声とともに、現れたのは。
十歳にもならないような少女だった。
真っ黒な長い髪を二つに分けて三つ編みにしている。淡い青の目と、白い肌をしていた。
『正しく《月宮》の血を継ぐものが、ついにあらわれたとはね!』
「あ、あなたは」
『おや、今さら? 我を《視た》のはアリス、おまえだろう? 私は、もともとは名前などに縛られることなどない存在だったが。私も、まあ、遠い昔だが、とっ捕まったのさ。あんたみたいな、《見える》子にね』
美少女は、手を差し出して、笑った。
『私はネリー・エマ・オブライエン。こちらが本体だ』
あたし、アリスは。
よくわからないままに、ネリーさんと、握手していた。
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このエピソード、完結編その1です。次話でほんとに完結します。
以前、違う時代の話(カルナックの幼い頃)をやったら長くなりすぎて
しまったという。その反省から、少し、はしょった部分もありますが
本来の、異世界に転生した幼女アイリスに話を戻しますので!
それまで、あと1話。どうかおつきあいくださいませ。
ところで香織(カルナック)の口調は、ネリーに似てます。
応援ありがとうございます!
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