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第二章 アイリス三歳『魔力診』後

その27 キノコ栽培キット

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         27

 魔力を糧に育つキノコ。
 初耳です。
 びっくりです。
 さすが剣と魔法の(?)異世界だわ!

 ベッドの下には色とりどりのキノコが、50センチ四方くらいの絨毯みたいに生えていたの。
 ちょっと、引くわー。

 ところで。
 ここでエルナトさまが驚きの発言をしたのです。

「ああそれ。わたしが仕掛けておいたんだ。キノコ栽培キット」

「エルナトさま?」
 あたしは耳を疑った。
 前世の日本で大人気だった、可愛い茶色いキノコのことを思い出したから。
 ……まさか、ねえ?

「サイテーよ! エルってば!」
「ほんとだよ! 懲りないな!」

 サファイアさんとルビーさんからの非難を思いっきり浴びせられたのは、隠し部屋の所有者であるエステリオ・アウル叔父さまではなく、エルナトさまだったのです。

「この前来たとき、魔力吸収キノコ栽培キットを仕掛けておいて正解だったよ。どの種類もまんべんなく育ってる。思った通りだ」

 エルナトさまったら、二人の非難をものともせず、満足げに頷く。

「親友だと思ってたのに」
 エステリオ叔父さまは衝撃を受けている。

「わたしは『ちょっとコレ持ってて』って渡されたポーチの中で『毒』の結晶と毒キノコを栽培されてたのよ!」
 と、サファイアさん。

「あたしは『火の結晶』『筋力増強キノコ』を育てられてた!」
 興奮してるルビーさん。

「おかしいかな? どうせ魔力は常に体の中で生成され続けている。使いきれなければ外へ溢れて垂れ流されるだけなんだから、貯めておいて有効利用したほうが」

 意外だけどエルナトさまって、もしかして……

「このマッドサイエンティスト!」
 ルビーさんの鋭い蹴りが瞬時に炸裂。
 けれどエルナトさまはほんの少しの動きでルビーさんの蹴りをよけたのです。

 こういうのは確か『攻撃を見切る』っていうのよね?
 実はすごい格闘能力に優れた人なのかしら!?

 ……え?
 マッドサイエンティスト?
 って英語? 日本語の外来語?


「エステリオ・アウルは全属性の魔力を持っているから、いい感じにキノコが育つと思っていたんだ。予想通り豊作だったよ」
 欠片ほどの悪意も感じられない爽やかな笑顔でエルナト・アル・フィリクス・アンティグアさまは言い切った。
 ……そういえば、この方のおうちは、大貴族だった~!
 きっと平民とは常識が違うのだわ。

「余剰魔力は活かしてこそだよ。たとえばアイリス嬢なら……花かな? ドライフラワーにしたら」

「それはダメだ!」
 間髪入れず。
 エステリオ叔父さまがきっぱりと断ってくれたのです。
(すてき!)
 ちょっぴり頼もしく感じたのは、ないしょ。

 ついにルビーさんが、
「いい加減にしろ!」
 どこからか取り出したハリセンみたいなものでエルナトさまの頭を思いっきり、はたいたのでした。
 そういえば以前にもコマラパ老師さまがカルナックさまに使ってたような気がするわ!

         ※

「さて、ここなら誰に話を聞かれる心配もない。まずは、自己紹介といこう。本当の、な」
 にかっと笑って、指をこきこき鳴らした、ルビーさん。

「あたしはルビー=ティーレ・トリグバセン」
 金髪にペリドット色の目、透き通るような白い肌をした、外見は十四、五歳の、北欧系美少女。

「サファイア=リドラ・フェイ」
 挑戦的に微笑むのは、
 腰まで届く長い黒髪に黒い目、長身で、ミルクティー色の肌をした、二十歳くらいの美女。

「彼女たちは、今回はエルナトの助手としてやってきたわけだけど、本来は魔道士協会に所属するフリーの冒険者なんだよ」
 エステリオ・アウル叔父さまの笑顔、ちょっと引きつってるような。
 
「ぼうけんしゃ、さん? すごいです!」
 あたし、アイリスは、素直に感嘆しています。
 冒険者って。ますますファンタジーな異世界なのね!
 
「うふふふふ! いい子ねえ。気に入っちゃったわ!」
「そうだね。エステリオ・アウルが自慢するわけだ!」

 叔父さまったら。

「サファイアとルビーは、ここ最近、カルナック師匠の護衛をしているんだよ」
 エルナトさまは、楽しそうな満面の笑顔です。

「ここが肝心なんだけどさ」
 ルビーさん、さりげなく口にした。
「サファイアとルビーっていうのは役職名だからね」

「え?」

「うふふふっ。驚いた? サファイアはこの世界では『スーリア』ルビーは『フェードラ』と呼ばれている宝石のことよ。そして、何代にもわたってカルナック様の護衛を受け持つ者が名乗るコードネームってわけなのよ~」

「この世界、セレナンからすれば、サファイアとルビーは、異世界で使われていた宝石の名称なんだよ。アイリス嬢は、知ってるようだね?」
 エルナト・アル・フィリクス・アンティグアさまが、笑みを消して、真顔で言った。


 どこまで?
 どこまでバレてるの?  

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