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第1章
その25 セラニスの武器、『魔天の瞳』
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青白い真月(まなづき)と、暗赤色の魔月(まのつき)が中空に在って光を投げかける真下で、血のように赤い髪と暗赤色の目をした、すらりとした青年、セラニス・アレム・ダルが佇む。
しかしながら、その姿は幻影だ。
セラニスの実体は天空にあり、地上には存在しない。
だからこそセラニスは降臨するための『器』を欲しているわけなのだが。
月下の荒野は決闘の場。
並河香織、すなわち闇の魔女カオリと、彼女を拾って育てていた精霊レフィス・トールとラト・ナ・ルアが、精霊火(スーリーファ)と共に在る。
カオリと精霊たちの後ろには『欠けた月の一族(アティカ)』の村長の娘カントゥータが、全身に闘気を纏って立っていた。
クイブロ同様、コマラパもじっと見守るだけではなく加勢に行きたかったのだが、彼はレフィス・トールに止められていた。
この戦いの場に、ただの人間は加われない。かえって邪魔になる。同行を許された人間は、骨の髄まで戦士である脳筋系美女カントゥータだけだった。
セラニス・アレム・ダルと闇の魔女カオリは月光の下で相対する。
精霊の兄妹は、二人から少し距離をとった。
「すまないが、わたしたち精霊は、立ち会うだけだ」
レフィス・トールは告げる。
「世界(セレナン)は、誰の味方でもなく敵でもないから。わたしたちにも、どちらかに肩入れはしないようにと命じられているの。それが、世界の立ち位置なの」
申し訳なさそうに、ラト・ナ・ルアも言う。
「でも、わたしは、わたしはカルナックに勝ってほしいわ!」
世界の意思の分身であり、精霊の身でありながら、領分を越えた発言だ。
そうしてはならないことは、ラト・ナ・ルアにも、カルナックにもわかっている。
「了解。姉さんは、応援してくれているということね」
カオリは不敵に笑う。
その笑顔には、凄みさえ感じられた。
「もちろん、わたしもだ! 心情は、わたしたち精霊は、きみの味方だ!」
苦しげに、レフィス・トールも言い添えた。
彼が苦しいのは、世界の意思に抗っているからだ。
本来なら、大いなる世界の意思に、年若き精霊である彼ら兄姉は従うしかないのだった。
その様子を、面白くなさそうにセラニス・アレム・ダルは見ていた。
『いいねぇ。優しい兄さんと姉さんがいてさ。ぼくは構わないよ。どうだっていい。きみがぼくの器になれば楽しいなって、思っているけど。拒否するなら、この村を焦土にするよ。この山、この高山台地ごと』
どうでもいいと気のない様子だが、その実、物騒なことを口にするとき、セラニスは終始、楽しげに笑っている。
「そうはさせないわ」
カオリはセラニスを睨み、長い髪がほつれてくるのを、後ろになでつける。
「まず名乗っておくわ。いつまでも昔の名前を呼ばれるのも、うざったいし。今の私は、自分で付け直したのだけど。『黒の魔法使いカルナック』よ。この世界に、魔法という新たな概念を、もたらすことにしたわ」
『魔法だって? 今まで呪い師や魔力持ちはいたけど、どいつもこいつもたいして力もなくて、聖堂に捕まって火刑になるのがオチだった。きみは、それをどうにかして変えるというのかい』
セラニスは、興味を引かれたようだ。
「私は魔法使いをまとめ上げて、あなたの息がかかっているレギオン王国と、その国教である『聖堂』組織を、弱体化する。コマラパを異端審問にかけて拷問して火あぶりにするつもりだったなんて絶対に許さない。大陸全土に権勢を誇っているようだけど。なにさまのつもりかしら。身の程を知るがいいんだわ」
闇の魔女カオリ、改め『黒の魔法使いカルナック』は、穏やかな口調で、さらりと、恐ろしいことを言う。
『面白い。きみも、たいがい物騒だね。さすが闇の魔女カオリ。いや、カルナックだっけ? まあ、どっちでもいいけどさ。酷い目に遭わされているのに、まだ人間が好きだなんて、相当な変態だよ』
呆れたように肩をすくめる仕草をする、セラニス。
『そうだ、きみは、ぼくが地上に降臨(ダウンロード)していないから物理攻撃をできないだろうと思っているね。そんなことはない。ぼくにも手駒(ツール)はある。それに、きみを壊してから『器』にすることもできるんだよ』
セラニスが両手を高く掲げる。
と、そこに、人が拳を握ったよりも二回りほど大きな、暗赤色の球状の物体が、一つ、二つ、三つと、音もなく飛来してきた。
その数は最終的に十数個にもなったのだ。
金属めいた光沢を持った球体は、セラニスの周囲にふわふわと浮いて、やがて彼を取り巻き、ゆっくりと回転しはじめた。
『ほら、こいつらが、ぼくの可愛い下僕だ』
「しもべ? そんな無骨なものが?」
カルナックが疑念を抱き、ぶつけると、セラニスは少し、むきになる。
『ひどいな。こいつはなかなか面白く使えるんだよ。母さんが僕のために造ってくれたんだ。『魔天の瞳』さ。きみの精霊火みたいなものかな』
人間の力を借りずに『魔月(セラニス)』を組み立てた、彼の生みの親である『真月(まなづき)』が、自分のために造ってくれたツールだというのである。
『けど、もっと役に立つんだ。情報も集めるし、炎や雷も放てるし。それに、上空にあるぼくの本体ともリンクしてるから。ここから指令を出せる。たとえば、こんなふうにね』
セラニスが一方の手を少しばかり上げ、指を、まるで空中にあるキーボードに入力でもするかのように動かせば。
急に空がかき曇り、黒雲が集まってきた。
帯電した雷雲が、妖しい小さな稲光を孕んで、何度もぴかぴかと光ったかと思うや。
突然、天空から、地上に向かって巨大な雷が放たれたのだった。
青白い真月(まなづき)と、暗赤色の魔月(まのつき)が中空に在って光を投げかける真下で、血のように赤い髪と暗赤色の目をした、すらりとした青年、セラニス・アレム・ダルが佇む。
しかしながら、その姿は幻影だ。
セラニスの実体は天空にあり、地上には存在しない。
だからこそセラニスは降臨するための『器』を欲しているわけなのだが。
月下の荒野は決闘の場。
並河香織、すなわち闇の魔女カオリと、彼女を拾って育てていた精霊レフィス・トールとラト・ナ・ルアが、精霊火(スーリーファ)と共に在る。
カオリと精霊たちの後ろには『欠けた月の一族(アティカ)』の村長の娘カントゥータが、全身に闘気を纏って立っていた。
クイブロ同様、コマラパもじっと見守るだけではなく加勢に行きたかったのだが、彼はレフィス・トールに止められていた。
この戦いの場に、ただの人間は加われない。かえって邪魔になる。同行を許された人間は、骨の髄まで戦士である脳筋系美女カントゥータだけだった。
セラニス・アレム・ダルと闇の魔女カオリは月光の下で相対する。
精霊の兄妹は、二人から少し距離をとった。
「すまないが、わたしたち精霊は、立ち会うだけだ」
レフィス・トールは告げる。
「世界(セレナン)は、誰の味方でもなく敵でもないから。わたしたちにも、どちらかに肩入れはしないようにと命じられているの。それが、世界の立ち位置なの」
申し訳なさそうに、ラト・ナ・ルアも言う。
「でも、わたしは、わたしはカルナックに勝ってほしいわ!」
世界の意思の分身であり、精霊の身でありながら、領分を越えた発言だ。
そうしてはならないことは、ラト・ナ・ルアにも、カルナックにもわかっている。
「了解。姉さんは、応援してくれているということね」
カオリは不敵に笑う。
その笑顔には、凄みさえ感じられた。
「もちろん、わたしもだ! 心情は、わたしたち精霊は、きみの味方だ!」
苦しげに、レフィス・トールも言い添えた。
彼が苦しいのは、世界の意思に抗っているからだ。
本来なら、大いなる世界の意思に、年若き精霊である彼ら兄姉は従うしかないのだった。
その様子を、面白くなさそうにセラニス・アレム・ダルは見ていた。
『いいねぇ。優しい兄さんと姉さんがいてさ。ぼくは構わないよ。どうだっていい。きみがぼくの器になれば楽しいなって、思っているけど。拒否するなら、この村を焦土にするよ。この山、この高山台地ごと』
どうでもいいと気のない様子だが、その実、物騒なことを口にするとき、セラニスは終始、楽しげに笑っている。
「そうはさせないわ」
カオリはセラニスを睨み、長い髪がほつれてくるのを、後ろになでつける。
「まず名乗っておくわ。いつまでも昔の名前を呼ばれるのも、うざったいし。今の私は、自分で付け直したのだけど。『黒の魔法使いカルナック』よ。この世界に、魔法という新たな概念を、もたらすことにしたわ」
『魔法だって? 今まで呪い師や魔力持ちはいたけど、どいつもこいつもたいして力もなくて、聖堂に捕まって火刑になるのがオチだった。きみは、それをどうにかして変えるというのかい』
セラニスは、興味を引かれたようだ。
「私は魔法使いをまとめ上げて、あなたの息がかかっているレギオン王国と、その国教である『聖堂』組織を、弱体化する。コマラパを異端審問にかけて拷問して火あぶりにするつもりだったなんて絶対に許さない。大陸全土に権勢を誇っているようだけど。なにさまのつもりかしら。身の程を知るがいいんだわ」
闇の魔女カオリ、改め『黒の魔法使いカルナック』は、穏やかな口調で、さらりと、恐ろしいことを言う。
『面白い。きみも、たいがい物騒だね。さすが闇の魔女カオリ。いや、カルナックだっけ? まあ、どっちでもいいけどさ。酷い目に遭わされているのに、まだ人間が好きだなんて、相当な変態だよ』
呆れたように肩をすくめる仕草をする、セラニス。
『そうだ、きみは、ぼくが地上に降臨(ダウンロード)していないから物理攻撃をできないだろうと思っているね。そんなことはない。ぼくにも手駒(ツール)はある。それに、きみを壊してから『器』にすることもできるんだよ』
セラニスが両手を高く掲げる。
と、そこに、人が拳を握ったよりも二回りほど大きな、暗赤色の球状の物体が、一つ、二つ、三つと、音もなく飛来してきた。
その数は最終的に十数個にもなったのだ。
金属めいた光沢を持った球体は、セラニスの周囲にふわふわと浮いて、やがて彼を取り巻き、ゆっくりと回転しはじめた。
『ほら、こいつらが、ぼくの可愛い下僕だ』
「しもべ? そんな無骨なものが?」
カルナックが疑念を抱き、ぶつけると、セラニスは少し、むきになる。
『ひどいな。こいつはなかなか面白く使えるんだよ。母さんが僕のために造ってくれたんだ。『魔天の瞳』さ。きみの精霊火みたいなものかな』
人間の力を借りずに『魔月(セラニス)』を組み立てた、彼の生みの親である『真月(まなづき)』が、自分のために造ってくれたツールだというのである。
『けど、もっと役に立つんだ。情報も集めるし、炎や雷も放てるし。それに、上空にあるぼくの本体ともリンクしてるから。ここから指令を出せる。たとえば、こんなふうにね』
セラニスが一方の手を少しばかり上げ、指を、まるで空中にあるキーボードに入力でもするかのように動かせば。
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