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第2章
その2 おれの嫁は身体が弱い(気は強いけど)
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カルナックの影の中に静かにひそんでいた従魔獣ノーチェ(夜)は、出てきてクイブロを「軽く」撫でて吹っ飛ばした後、そのまま、カルナックの傍らにとどまっている。
低いうなり声でクイブロを威嚇しつつ、膝に乗るのを狙っているふしがあるが、いくらなんでも小さな膝に全身はおさまりきらない。頭を乗せるだけでせいいっぱいだ。
続いて、呼んでもいないのに大牙のスアール(牙)まで影から出てきて、ノーチェと争うようにしてカルナックの膝に頭をのせた。
「影に戻らないの? ノーチェ、スアール。いいけどさ。さっきはありがとう、助かったよ」
カルナックは二頭の毛並みを撫でてやる。
やがて気持ちよさそうに喉を鳴らす音が聞こえてきた。
そのとき、斜めがけにしているポシェットの蓋が持ち上がり、白ウサギのユキが顔を出し、もぞもぞ、這い出して、膝に乗り、そのまま肩へ移っていき、柔らかな毛皮を、カルナックの頬に押しつけた。
精霊の姉ラト・ナ・ルアが作ってくれた小さなカバン……ポシェットの中には、水晶の結晶をくりぬいた水さしに、カルナックの飲み水が入っている。
同時に、精霊の森へ繋がっている空間でもある。
精霊火で命を繋いだユキは、日中はよくカバンに入っているのだった。
穏やかな午後だ。
クイブロもカルナックも、魔獣除けの香炉『エストラカ』に薬草を詰め込んで腰に提げている。
よほどの大物でない限り、魔物が寄ってくるのを避けられる。
もっともカルナックに従属する獣となった夜王、ノーチェと「大牙」のスアールが側に居れば、魔獣などは寄ってくるはずもなかった。
スアールとノーチェ、二頭の魔獣は、彼らの好きな時にやってきてはカルナックに懐き、おやつに干し肉をもらったり、のんびりくつろいだり遊んでいったりしている。
カルナックから魔力を供給される従魔になってからは食事をする必要もなくなったらしく(おやつは別腹)、主の危機というとき以外は、ずいぶん落ち着いて、どっしりと構えている。
周りにいる、放牧されているパコの群れも、スアールとノーチェには、もう馴れてしまって怯えないのだから不思議なものだ。
「あいたたたたたた! 加減しろよ! って魔獣に言っても無駄だな」
さっき吹き飛ばされたクイブロは、すぐに起き上がり、パンパン、と衣服をはたいて草の葉や土を払った。
何度、カルナックに飛ばされても、ノーチェやスアールにはたかれても懲りない。
嬉しそうに駆け寄ってくる。
クイブロから見れば、大きな二頭の獣に懐かれ、白ウサギが肩に乗っている美少女の姿は、たまらなく愛くるしくて。いとおしさがこみあげてくる。
(少し無理をさせたかな)
ふと考える。
ついこの間まで、精霊の森で外界とは隔絶した生活を送ってきたカルナックは、強い日差しには弱いし、身体も、細っこくて小さくて。
すごい魔法も遣うし、戦えば誰より強いことも知っている。
けれど、守ってやりたくなる。
どこか、危うい感じがするのだ。
「クイブロは元気だな」
カルナックはため息をついて、まぶしそうに見上げる。
「おれは丈夫だけが取り柄だって、母ちゃんも姉ちゃんもよく言うよ」
隣にクイブロが腰を下ろすと、急に、カルナックは落ち着かなくなった。
もぞもぞと動いて、心持ち、身体が逃げようとする。
「どうした?」
クイブロは、わざと、さらに近づく。
「……さっきのは、おれの気の迷いだから」
横を向いて、ぼそっと答えるカルナック。
「今はまだイヤ、って?」
「言うな!」
「ってことは、いずれ、だいじょうぶだってことだよな」
「違うから! 恥ずかしいこと言うな」
顔を真っ赤にして主張するカルナック。
「おれのこと、いやらしい目で見てる?」
「そんなわけないだろ! いや少しはあるけど。そればかりじゃないって」
「ほんと?」
「そうだよ。考えることは、たくさんあるんだ。将来のこととか」
「将来?」
「おれは、来年くらいかな、成人の儀っていうのを迎える」
「成人の儀って?」
「一人前だって皆から認めてもらうために、行うんだ。聖なる雪の峰、ルミナレスに登って、村を守ってくれてる、銀の竜神さまに、会いに行くんだよ」
「それって、あぶなくないの?」
「心配してくれるんだな」
「そ、それは、もちろん。だって伴侶だもの。一生、添い遂げるんだよ?」
「そのために、おれも頑張る。きっと来年か再来年、銀竜さまに会って、加護をもらう。おまえのこと、一生大事にして、ずっと離れずに暮らすんだ。おれを信じてくれ」
「……信じてる、けど。ときどき、怪しいんだもん」
見ていると、たまらなく、愛おしくて。
クイブロは、腕を回して、ぎゅっと抱きしめた。
カルナックの身体が、こわばる。
「やっ……!」
「わかってる。コマラパにも精霊様にも誓った。手は出さないから、落ち着いてくれ。おれは、おまえとこうして、一緒にいたいだけなんだ」
「……ほんとに、いやらしいこと、しない?」
「しない。悪かった」
クイブロは、ただ、抱きしめている。
「ルナ。ルナ。おれの可愛い嫁。おれはどこへもいかない。ずっと一緒だよ」
「……ほんとうに? どこへもいかない?」
クイブロに身を預けていたカルナックの身体から、ふいに力が抜けて。
がっくりと、くずおれ、意識を失った。
「ルナ? ルナ!」
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