精霊の愛し子 ~『黒の魔法使いカルナック』の始まり~ 

紺野たくみ

文字の大きさ
65 / 144
第3章

その2 初日の昼食とカントゥータの予感

しおりを挟む

           2

 クイブロとカルナックは、小休止の後、ひたすら歩き続けた。

 序盤にできるだけ距離を稼いでおいたほうがいいと、クイブロの父カリートからの助言があった。

 カリートの場合は、当時幼なじみだったローサのように基礎体力や戦闘能力に恵まれてはいなかったので、ともかく無事に頂上にたどり着き、生きて帰ることを目指して成人の儀に臨んだのだった。
 結果として銀竜に会うことは叶わなかったが、その『声』を聞いた。
 カリートは忍耐と精神力の強さを褒められた。今後もし魔物に出会い呪われたとしても跳ね返せる『耐久力』の加護を得たのである。

 母ローサや姉カントゥータほどの体力や戦闘能力がないクイブロには、カリートの助言は大いに参考になった。

 昼時になり、再び小休止をとる。

 二人は大きめの平たい石を集めて積み上げ、土で隙間を埋めた、小さなオルノ(かまど)を作った。
 ここに、歩いてくる途中で拾い集めておいた、パコの糞を入れて燃やす。
 草を食んで育つパコの糞のほとんどは草の繊維で、乾いていれば、青い炎をあげてよく燃える。
 小さな鍋に、粒状の穀物サラを潰した粉と水を少量入れて煮る。とろりと溶けた粥と、オルノの中で焼いた皮付きのイモ二つが食事だ。
 少量なのは、カルナックが水だけを飲み、食べ物を口にしないからだ。
 クイブロにしても、精霊から与えられた『根源の泉』の水を飲み続けるうちに、それほど空腹を感じなくなってきていた。
 精霊に等しい身のカルナックの伴侶となるためである。

 ちなみに、ローサや村人たちに与えられたのは同じ精霊の森の水だが、クイブロが飲んでいるものとは違う。

「ルナ、落ち着いて座っていろ。ここでは魔獣も襲ってこない」
 きょろきょろとあたりを見回していたカルナックに、クイブロは声をかけた。

「そうなの? 最初にクイブロと会ったときには、魔物がいたよ。ほら、すっごく大きい、鳥の魔物。首の長い……息が臭いやつ」

「コンドルモドキ。あれは神聖な鳥、コンドルに擬態するイヤなやつだ。子どもを襲う」

「クイブロが火薬弾を投げて、やっつけた!」
 かっこよかったと興奮気味に言うカルナック。
 そうかな、などと言いつつクイブロも嬉しそうだ。

「この道は、大丈夫なんだ。成人の儀や、『輝く雪』の祭りで、人が必ず通る道だから。村の者が警戒に出て魔獣を狩っているんだ。あと、魔物除けの香を焚いた塚を、間をおいて並べて立ててある。魔物が出るなんてことは、めったにないよ」

「ふうん」

「念のために魔獣よけの香炉(エストラカ)も持っているけどな。おまえのも貸してみろ。薬草と香をつぎ足しておこう」

「そういえばこれ、最初に出会った時も、コマラパが持たせてくれてた」
 カルナックは腰に提げていた香炉をクイブロに渡した。

「だからさ、コマラパは旅慣れた人だなって、思ったんだ」

 クイブロとカルナックは、魔物除けの香炉(エストラカ)を腰から提げている。
 それは球状の金属製の籠である。香炉の中に薬草と香を詰めてあり、それだけでも弱い魔物は近寄らず、強い魔物でさえ襲いかかるのは躊躇う効果を持つのである。

「よし、そろそろ行こうか。休めたか?」

「うん、だいじょうぶ!」

 昼食と休憩を終えた二人は立ち上がり、オルノの火を落とした。
 クイブロはオルノを覆った土を剥がして、元通りに崩した。
 集めた平たい石だけは、その場にかためて置いて行く。帰りに利用するか、いつか誰かが成人の儀に臨むとき、役に立てるかもしれない。
 使った木の椀は草の葉でぬぐって、荷物に押し込んだ。

 クイブロはカルナックの手を握り、再び歩き出した。

 まだ、初日の昼過ぎ。
 登り道は、どこまでも続いていた。

                      ※

「よし。ここまでは教えた通りにできている」
 離れた物陰から見守っていたカントゥータは、うなずいた。

「なるほど。成人の儀の通り道は、常に魔物を狩って整備しているのか」
 コマラパは感服していた。

「大事な村の子供たちを怪我させるわけにはいかない。目的は多くの者を銀竜にお目通りさせ、加護を得させることなのだから」

「なるほど、理にかなっているな」

「あとは、文字通り道を踏み外すなどしなければよいが」

「ああ……山道だからか」

「その通りだ。困ったことに、たまには、いるのだ。崖から落ちるとか。しなくていいのに遭遇した獣を狩ろうとして深追いして」

「やけに具体的だな」

「……うちの長兄、アトクが、やらかしたことだ。そのときは、銀竜の怒りをかってしまってな。村へ戻れなくなった。許していただくのに、母が詫びに登った」

「そんなこともあるのか」

「アトク兄くらいだよ。まったく恥さらしな」
 思い出したようにカントゥータは腕組みをし、身震いした。
「アトクは、生まれる場所を間違えたのかもしれない。村におさまりきれず、傭兵になり誰かに仕えることも、向いていなかっただろう。どこで、どうしていたのやら」

「……そいつが、間もなく帰還すると?」
 コマラパは険しい表情になる。

「精霊様たちが危惧しているのは、おそらく、いや、たぶん間違いなく、それなのだろうな。クイブロには、ぜひとも銀竜に会い、加護を頂いてほしいのだ」

 冷たい風が吹き抜ける。

 不吉な予感を抱いて、カントゥータは荒野に佇んでいた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...