精霊の愛し子 ~『黒の魔法使いカルナック』の始まり~ 

紺野たくみ

文字の大きさ
69 / 144
第3章

その6 闇の魔女カオリの『永遠の騎士』

しおりを挟む
 
                     6

 良い香りが鼻孔をくすぐる。
 身体の中に染みこんでくるような、いくつものハーブが溶け合った芳香だ。
 目をあけると、天井の壁紙が見えた。

(え? 天井? 壁紙?)
 違和感に包まれる。


「あら香織、目が覚めたの?」

「え? ママ!? どうしたの?」
 懐かしい声を聞いて、香織は驚いて目を瞬いた。

「……ここは、どこ?」
 香織はベッドに横たわっていた。
 布団やシーツなどは掛けていない。

( ベッド? そんなもの、この世界(セレナン)に存在した? )

 どこかが、おかしい。

 やがて香織は違和感の正体に気づいた。
 自分はセレナンに転生している『カルナック』の記憶を持っているのに、今の状態は、二十一世紀の東京に住んでいた『並河香織』の意識だ。

 彼女が高校三年の時に病気で亡くなった母、沙織が、まだ生きている。

 しかしここは、見覚えの無い部屋だ。
 白い壁?
 自宅なら豪奢な調度品の数々が置かれているはずだが、見当たらない。
 すっきりとした、飾りけのない室内である。

 あたりには様々な種類の香が入り交じった、複雑な薫りが充ち満ちていた。
 香織にも、それとわかる、ローズマリー、タイム。
 それに、漂っているこの煙は、ホワイトセージ?

「気がついたのね」
 ホワイトセージを焚いた白い煙を纏い、彼女の母、並河沙織は、うっとりするような笑みをたたえている。

「ママ? どうなってるの。ここはどこ、いいえ、いつなの?」

 身体が泥のように重い。香織は懸命に身を起こす。

「……ふふふ。起き上がれるはずはないのに、やっぱりわたしの娘ね」
 不思議なことを母親は言う。

 いったいどういうことなのか。
 半身を起こして部屋の中を見回した香織は、驚きの声をあげた。

「えっ!? 彼が、なぜ!?」

 同じベッドの上、香織の横には、沢口充さわぐちみつるが横たわっていた。
 目を閉じ、ぴくりとも動かない。
 眠っているようだ。

 彼との間に何かあったのではないことは、二人とも服を着たままではあるし、すぐに理解できたが、どうしてこんな状態になっているのだろう。

「どうなってるの。交際している人がいるって話したら、パパは仕事で留守だけどママが会いたいって言うから連れてきて……それから……お茶を飲んで……」

 後はどうなったのか覚えていない。

「う……」
 しばらくすると、隣に眠っていた充が、目を開けた。
 同級生の男子だが、充のほうが童顔で、背も少し低く、華奢な美少年である。

「あれ……? 香織さん? どうしたの……ええと? お母さんに紹介されて……それから、どうしたんだっけ?」
 目覚めたばかりで、状況をよくわかっていないようだ。
 ベッドに横たわっていて、隣に香織がいるということも。

「香織。ママは、今から二年後に死ぬわ」
 突然に、沙織が言った。

「ええっ!?」

「わかるの。それからパパも、あなたが二十歳になるまでに事故で死ぬ。それは変えられない運命なの」

 感情の無い、あるいは感情を押し殺した、無機質な沙織の声が、ハーブの香りに満ちた室内に響く。

「なんで……」
 あまりのことに言葉も出てこなくなった。隣に居る充も同様で、大きく息を呑んだ後、荒い息づかいだけがしている。

「だから、彼を連れてきてって言ったの。沢口、充くん、だったわね?」
 沙織は充のそばに近寄り、まだ起き上がれないで居る彼の頬に、白い手を添えた。

「見たとたんにわかったわ。彼は、強運だけれど、死にやすい。うっかりしたことで命を落としてしまう。たとえば誰かを助けようとして、代わりに車に轢かれる、とかね。香織が守ってあげなさい。そして、沢口くん。あなたには、お願いがあるの」
 沙織は彼の耳元で、囁いた。
「あなたは香織の『永遠の騎士』よ」

「香織さんのお母さん? どういうこと、なんですか」

「ママ! 何を言ってるのかわからないわ!」

「永遠の騎士。いつ、どこに生まれ変わっても、香織と巡り会って、守って。この子は、淋しがりやなの」

「それは、感じていました」
 充が、言った。
「オレといても。ずっと一緒にいるよって誓っても。いつも、さびしそうだった」

「お願いね。これはまじない。これは、呪い。そして祝福。わたしは、白い魔女とは言い切れないわね。あなたたちを永遠に縛る魔法を、かけようとしている、わたしは」

 沙織は手にしていたホワイトセージの葉に、火をつけた。すぐに炎は消えて、白い煙が立ち上り、彼女を包みこむ。
 白い煙は、香織と、充をも包んでいく。

「聖なるハーブだけど、このハーブ自体に転生の魔法がこもっているわけではないわ。ねえ香織。言わなかったけど、たぶんわたしは、普通じゃないの。遠い昔に魔女だった記憶を持っている。ずっと孤独だった。あなたの生まれ持っている寂しさは、わたしのせいかもしれない。だから、あなたには『永遠の騎士』を」

「待ってママ! 充くんの気持ちはどうなるの。彼は、こんなわたしと、ずっと一緒にいたいかどうか」

「香織さん」
 充が、彼女を見つめる。
「オレは、ずっと一緒にいられるなら、心の底から嬉しいよ」

「なんて、バカなの……」
 香織の頬に涙がこぼれた。
「もっとよく考えなさいよ! 一生どころか、もしママの言うことが本当なら、充くんは、生まれ変わっても、ずっと、わたしと」

 もし本当なら、と良いながら。
 香織は、母の言葉に、少しの疑問も持ってはいなかった。
 もともと、何かと不思議なところの多かった母親だ。魔女だったと言われれば、様々なことに納得がいく。

「本望だよ」
 と、彼は、笑った。

「香織。彼と、幸せにね。……でも、わたしの呪いは、世界のことわりに許されるかどうか。もしかすると転生しても彼が思い出さないこともあるかもしれない。でも、どんなときも彼は、あなたのそばに生まれ、出会う。わたしも、見守っているわ、香織。忘れないで。パパも、わたしも、どんなに香織を愛しているか」

 そして並河沙織は、心の内で思う。
(この『ことわり』に背いた魔法の代償に、きっとわたしは、いつも早死にする。でも、魂だけになっても、ずっと香織を見守っているわ)

 魔法ではない。それは魔女、沙織の生まれ持った、全ての理に縛られない能力。
 白い煙が、香織と、充を押し包んだ。

「このことは、次に目が覚めたら、あなたたちは忘れているわ。幸せになって。どんな形になっても、わたしはいつも、見守っているから」

                      ※

 少し前まで、そこは闇に包まれた空間だった。
 今は、夜明け前の薄明の空を思わせる、銀色の空間。

 浮いているとも、落ちているとも、上昇しているとも、感じられる。
 奇妙に現実感がないのだった。

「どうも体系がうまく組み合わないなあ。世界を構成する要素は……やっぱり古代ギリシャにも端を発する『四大元素』に倣ったほうがいいのかな? それともよくあるRPGで……光と闇は、外せないわね。あとは風と、火と、地、水? 聖なる要素もあり?」

『また思考にふけっているのか、カオリ』
 ふいに、耳元で声が響き。
 銀色の光が差した。

「ええ。考える材料はいっぱいあるから」

 銀色の光は近づいてきて、もやのように一つ所にとどまり、しだいに中心へ向かっていく。

 香織は光の差したほうに目をやった。

 そこには人の姿をした巨大な存在が、さも興味深そうな表情で、座り込んでいる。
 青みがかった銀色の光そのものの長い髪が、滝のように流れ落ちて。白い肌に映える、淡いブルーの目は、水精石の光を浮かび上がらせている。
 目を凝らせば、その背後には、力強い光輪が、浮かび上がる。

 まるで古代の神々だ。

『ずいぶん面白そうだ』
 軽やかで快活な声の主こそ、楽しげである。

「研究のこと? あなたにとって、わたしは、ほんの小さな一つの魂にすぎないのに」
 不思議そうに香織は肩をすくめ、巨大な存在を見上げる。

『人間の魂は、非常に興味深い。ただ一個の生命、個々の精神であるのに、その奥には、広大な宇宙がある。それに引き替え、我は単なる一つの惑星。香織、あなたの持つ宇宙には叶うべくもない』

 世界の大いなる意思、セレナンは、香織と会話をしながら、少しずつ、大きさを縮めていく。香織の目線に近づこうとしているのだ。

「買いかぶりよ。あなたは、この世界の大いなる意思。わたしはただの人。比べる基準が違うと思うけど」

『我には、香織は特別な存在だ』
 そう答えたとき、セレナンの女神の顔に、複雑な表情が浮かんだ。
 優しさ。哀れみ。憧憬。

「ふぅん。いいけど。こうやって、時々は退屈を紛らわしに、こんなところまで来てくれるのも、悪くは無いわ」
 ここは魂の座。
 生命の根源の、深い階層だ。

『しかし本当に良いのか、香織。カルナックが満足するまで、人間達と共に暮らさせてやるとは。ずいぶん寛大なことだ』

「いいの。考えることが沢山あるし。あの子、生まれてから外に出たことがなかったのよ。幼児のときはガルデルの宮殿に幽閉されて虐待を受けて。死んで生き返ってからは精霊の森で保護されて外界と隔絶されていたし。初めて、ちゃんとした大人に出会って、優しくしてもらってるの」

『コマラパは? クイブロが生涯を終えるまで待っていたらコマラパは老衰して死ぬだろう』

「あなたは大きすぎるのね。冗談は、あまり上手じゃないわ」
 香織は、ぴくりと眉を上げた。
「わたしはもう気づいているわ、多分コマラパも、もう数年もしたら、わかるでしょう。コマラパは、既に人間では無い。カルナックと同じ。精霊の森で長く暮らしたせいね。あれ以上、老いることはないわ。今度こそ、パパはずっと、わたしの側にいてくれる」

『彼のことも? あなたよりカルナックを選ぶとは』

「……しかたないわ。彼は、前世を思い出していない。それに、わたしもカルナックなのよ。ルナが、もっと成長したら、わたしと融合するかもしれないし。今のところは未知数だけれどね」

 時間は充分にあることだし。

 並河香織は、ずっと考えていた。
 魔法について。
 次に彼女が意識の表層に出ていくときに、世界を変革するための魔法の体系を、広めるにはどうすれば効果的かを。

「でも、懸念は、あるわ。以前のわたしは『闇の魔女』だったのに。ルナが、あの過去の悪夢から助け出されたとき、わたしまで浄化されてしまった気がする。わたしが闇の魔女ではなくなってしまったら、次にセラニス・アレム・ダルと出会っても、以前ほどには対抗できないかもしれない……もしかしたら、あれはセラニスが仕掛けた罠だったの? わたしの中にあった闇は、どこにいってしまったの」

『闇も世界の一部なのだ。無くしてしまうことはできない。どこかにいってしまったということではない。そして、魔法について考えるなら、闇も取り入れるべきだろう。カオリの考える魔法という概念は、非常に興味深い。これまで世界では、体系だった組織などは存在しなかった。ぜひとも広めてもらいたい』

「助言はありがたく頂くわ。ところで」

『?』

「わたしの記憶を覗かないで。あなたのせいで、この前の転生では忘れていたことまで、思い出してしまったじゃないの」

『忘れていたままより、思い出した方がいい記憶もあると思ったのだが』

「それはわたしが決めることよ」
 並河香織は、唇を尖らせた。

「わたしの『永遠の騎士』。今度の人生では、彼は思い出すかしら?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...