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第3章
その12 ラト・ナ・ルアは、ツンデレ属性
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『アルちゃんと呼んでいいぞ! 銀竜(アルゲントゥム・ドラコー)の、アルだ。おまえたちには、特別に許す! 友だちだ!』
「え~」
「言いにくいよ」
ぶつぶつ文句を言うクイブロとカルナック。
「アル…ちゃん? アルちゃんて……兄様が聞いたらどう言うかしら」
ラト・ナ・ルアは、生真面目一方の兄レフィス・トールを思い浮かべ、律儀に「アルちゃんて……」などと言ってみているのだった。
上機嫌のアルちゃんこと銀竜(アルゲントゥム・ドラコー)は、更に話を続ける。
『もちろん、この世界に由来する生物としての竜族は生息している。「ドラゴン種」だな。あれらはそれなりの個体数がいる。人間達が飼い慣らして乗用にしている「駆竜」や「騎士竜」も、その亜種、ドラゴンの遠い親戚だ』
酒など飲んでいるわけでは無いが、かなり饒舌になっている。
『それに対して、儂のような、イル・リリヤに遣わされたツールとしての存在にはラテン語で色の名前と、竜(ドラコー)(draco)と名付けられた。人類保護プログラムである真月の女神イル・リリヤのこだわりだな』
「ラテン語て……(聞かなかったことにしておこうかしら)あなたが話し好きなのはよくわかったわ」
ラト・ナ・ルアは、隣にいるカルナックが、いつしか眠ってしまっているのを眺めやり、その頭を優しく撫でた。
クイブロは、眠たそうだが、まだがんばって起きている。
『まあ、今しばらく付き合ってくれ、精霊よ。人の子には難しい話だが、ここからが重要だ。エナンデリア大陸の東にある山脈、ソンブラのことだ』
「活火山の火口があるために真冬でも雪を被ることのない黒き峰、夜の神の座ソンブラね」
大陸全土の地形に関する、このような具体的な話についていけるのは、三人の中でも、精霊族のラト・ナ・ルアくらいだろう。
カルナックは、幼い頃はレギオン王国の権力者であった義父ガルデルの居城に幽閉されていたし、その後は精霊の森に匿われていた。
クイブロは成人になるまでは『欠けた月』の隠れ里から出て行くのは許されていない。
つまり二人とも、この世界全体を把握し、俯瞰する目で捉えることはできない。
精霊族のラト・ナ・ルアは、この世界そのものの「大いなる意思」と意識を深くリンクしていることもあり、常に世界全体を見ているのだ。
『そうだ。人間にとってはエナンデリア大陸が世界の全て。大陸の東側と西側には、二つの山脈が連なっている。西の海岸沿いには白き女神の座ルミナレス山系、つまり、ここだ。一方、東側にあるのは、夜の神の座、ソンブラ。白き女神とは「真月(まなづき)」の女神イル・リリヤのこと、黒き夜の神とは、忌名の神とも呼ばれる、もう一つの暗い月、「魔眼」セラニスをさす』
「あなたのもたらした情報から推測するに、ソンブラにいるのは『黒い竜』なのね」
『その通り。黒い(ater)竜(draco)だ。それは儂と同様に人類支援ツールである。そして、セラニス・アレム・ダルと同じプログラムだ』
「同じ!? セラニスが、もう一人いるの? 地上に」
『まあ落ち着け。人の子らはもう眠っている。だから今、そなたに伝えておくのだ。まだ人間に教えて良いかどうか迷っている。ただ、一つ……儂やセラニスも含めて、世界各地の聖なる山にいる「ツール」たちは、遙か上空を巡っている「本体」と同期しては居ない』
「つまり、イル・リリヤは、現在、衛星軌道を巡っているあの『魔の月』に改竄される前の『ツール』を、各地に残しておいたということ?」
『そういうことだ。ただ、それらをどう活かすかは、儂の口を出す範囲では無い』
「セラニスはそれに気づいているかしら?」
『知らぬだろうな。セラニスが知れば、儂ら、イル・リリヤが地上に遣わした竜たちを放置してはいないだろう。皆、上空から発見されにくいこのような「亜空間」に住居を構えているだろうしな』
銀竜は、いたずらっぽく、片目をつぶった。
『ただ、竜たちは皆、出不精だ。成人の儀のような儀式や何かしら条件を設けて、会う人間を制限しているだろう。人(ヒト)とは、際限の無いものだから、無償で無条件に加護を与えるなどはできぬ』
「じゃあ、あなたはその中では毛色が違うのね」
『そういう、そなたも、ご同類であろう。精霊族は、ヒトが持ち込んだものには関わらないという不文律があるのだろう?』
「……兄さんは、常々、そう言っているわ」
ラト・ナ・ルアとともにカルナックを拾って育てた兄、レフィス・トールは、常に世界の意思に忠実だった。
「でも、あたしは、カルナックが可愛い。この子を、むざむざセラニス・アレム・ダルが降臨する器にするのを黙って見ては居られない」
長椅子で共に座っているうちに、傍らで眠ってしまったカルナックと、クイブロを、このうえなく優しく、あたたかい眼差しで見やる。
「それだけは、絶対に許さない」
『ふむ。大変な覚悟だな。このカルナックは、幸せな人間だ。たとえ生まれ落ちて間もなく不幸な境遇に落とされても。精霊に救い出され、それほどの無償の愛情を注がれて育ったのだから』
銀竜である青年は、目を細めた。
『約束しよう、精霊族の、カルナックの育ての姉ラト・ナ・ルア。彼らが癒やしの眠りから覚めたなら。可能な限り、役に立ちそうな「加護」を、授けよう』
厳かに、宣言した。
「ありがとうございます。銀竜様」
ラトは眠ってしまった二人に代わり、丁重に礼を述べる。
『いや、ちょっと違うな』
銀竜である美青年は、眉をしかめ、首をひねる。
「はい?」
『そこは、アルちゃんで! そなた、いやラトも、儂を愛称で呼んでくれぬかなぁ?』
哀願するように、うながした。
一瞬の沈黙をおいて。
ラト・ナ・ルアは、「ぷっ」と、小さく笑った。
続けて、さもおかしそうに声をあげて高らかに笑ったあとで、いずまいを正し、薄い肩をそびやかして、こう言ったのだった。
「では、アルちゃん。カルナックと伴侶のことを、くれぐれもお願いね。あたしのことは、ただの、ラトと、呼んでくれてもかまわなくてよ」
『そなたは、アレだな……』
銀竜は、何か考え込んで、ぼそりと言った。
『イル・リリヤのデータベースにあった語彙では「つんでれ」と、いうやつだな』
「意味不明なんですけど!」
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