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第3章
その11 寂しい銀竜様は、友達が欲しい
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幼いカルナックを拾って生命を与え、守り育てたことにより、人間の感情に近いものが芽生えたらしいと語るラト・ナ・ルア。
『実に興味深い』
銀竜は、幾度も頷いて、
『もっと詳しい話をしたいが、生身の人間には、この環境は厳しい。儂の住処に招こう。来るが良い、人の子らよ』
手招きをした、次の瞬間。
クイブロとカルナック、そしてラト・ナ・ルアは、氷河峰の上ではなく、ほのかに青い光が差し込む白壁に包まれた、天井の高い洞の中に居た。
ほんの、まばたきをするほどの間にである。
氷でできているかのような天井を透かして、青白い光が差し込んでいる。床も壁も白いが材質は雪や氷ではないように見える。
そして洞の内部は、暖かで、過ごしやすい気温を保っていた。
凍るような外気を遮っているだけでも、屋外よりは温もりを感じるに違いないが。
どこかに暖房器具でもあるのだろうか。
『ようこそ、銀竜(アルゲントゥム・ドラコー)の住処へ』
芝居がかった仕草で、頭を垂れ、誘う銀竜。
「うわあ。ここどこ!?」
カルナックは驚きの声をあげた。
しかしクイブロから離れようとはしていない。
二人はしっかりと手を握り合ったままだ。
ラト・ナ・ルアは、カルナックの後ろに用心深く控えているが、誘われた白い洞穴のような場所を、鋭い目で観察する。
「通常の空間ではないわね。氷河を掘削したとしても、こんな広い場所を確保できるのはおかしいわ」
『いかにも。ここは、かつて真月の女神イル・リリヤから、人間たちを導くように使命を受けたときに支度してもらったところでな。あれだ。「亜空間」というやつだ。氷河の上は、人間が暮らすには向いていない。儂はいいが、客人をもてなすには向かないからのぅ』
「客人をもてなす?」
「え。お客好き? もてなしたい…の?」
クイブロとカルナックは、銀竜の意外な言葉に驚く。
『ああ。儂はこれでも、寂しがり屋でなぁ。人好き、話し好きだ。おまえたちは運が良い。この前、成人の儀で人が訪れてから数年、誰も来ないので、儂の、もてなし欲求が最大に高まっているところなのだ!(本人比)』
そう言うと、銀竜は部屋の中に大きなテーブルと、三人が一度に座れるような長椅子を出現させ、座るようにうながした。
『まあ座れ。今すぐ座れ。清潔にしてあるから大丈夫だぞ』
「え、じゃあ……座らせて貰おうかな」
まずクイブロが長椅子に腰をおろし、
「うっわあ、すげえ。温かで、ふわふわ。これいいよ!」
座り心地を確かめてからカルナックを呼んだ。
「わー! ほんとだ 気持ちいい」
「よくわからないけど。そうね、悪くはないわね」
ラト・ナ・ルアは、素直に「いいわね」とは認めたくないらしい。
長椅子には柔らかで弾力のあるクッションが乗っかっていて、よりかかると心地よく寝てしまいそうだ。
銀竜は更に、どこか隅のほうに引っ込んだかと思うと、湯気の立つ飲み物の入った、平たい底の杯が人数分、乗っている盆を持ってきた。
「ありがたいけど、カルナックは、精霊の森の水しか飲めないわ。あたしはもちろん何もいらないし」
断ろうとするラト・ナ・ルアに、銀竜は、得意満面な笑顔を向ける。
『これは現実の「飲み物」ではない。生命に必要なエネルギーの塊を溶かしたものと思ってもらいたい。ゆえに精霊でも、精霊に準ずる存在であっても、摂取できるのだ』
それぞれが手にした、その飲み物は。
チョコレート色。
しかも、ぐつぐつ煮え立っているかのようなビジュアルで。
怪しさ爆発であった。
思い切ってクイブロが飲んでみる。
「あ! すげえきく! 元気が出てきた!」
つられてカルナックも、杯に口をつけた。
とたんに顔をしかめる。
「え~。元気は出るけど、なんだろこれ、辛いような苦いような甘いような?」
『味は儂にはよくわからんので、すまんな。まあくつろいでくれ。ここはなにものの影響も受けない安全なところだ。望めばいつまででも滞在してもらって構わぬ』
「そんなに時間のゆとりはないわ」
ラト・ナ・ルアは、気ぜわしいようすで首を振る。
『大丈夫だ。ここは「亜空間」。外界では時間は止まったようなもの。加護を与える都合上、そういう仕様になっている。安心して疲れを癒やしていくが良い』
親切そうに、飲み物を口にしろと、さらに促して。
『雪上を進んだ人の子等は、自分で思っているより消耗しているものだぞ。すっかり回復してから、「加護」を与える』
こう語る間も、銀竜は満面の笑顔である。
「へえ~。寂しがり屋で、人懐こいのね。実は、あなたが客に長くとどまっていて欲しいだけだったりするんじゃないの?」
ラト・ナ・ルアの指摘に、銀竜は、「びくっ」とした。
図星かもしれない。
「ところであなたをどう呼べば? 銀竜(アルゲントゥム・ドラコー)というのは種族名でしょ」
『個体名でもある。イル・リリヤは、大陸の主要な山々に、儂のような「人間を補助するためのツール」を置いたのだ。それぞれに色の名前を冠した「竜」たちをな。一つの聖なる山には一つの存在。ゆえに銀竜は、儂ひとりだ』
「……まあ。それは、ちょっと寂しいわね」
『うむ。そうなのである。認めよう、儂は寂しいのだ』
あくまでビジュアルイメージなのであろう、銀竜はクイブロとカルナック、ラト・ナ・ルアが並んで腰を下ろしている長椅子の、テーブルを挟んだ向かい側に座った。
『だから、儂を愛称で呼ぶことを許可しよう。アルちゃんと呼べ』
「「「……はい?」」」
思わず三人の声が揃った。
「いま、なんて?」
代表して、なんとか問い返すことができたのは、クイブロだった。
もしかして聞き間違いだったりするのではと思ったのだが。
上機嫌の銀竜の言葉に、嘘はなかった。
『アルちゃんと呼んでいいぞ! 銀竜(アルゲントゥム・ドラコー)の、アルちゃんだ。もちろん誰にでもではない。おまえたちには、特別に許すのである!』
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