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第4章
その32 大災害(カタストローフ)
しおりを挟む32
「セラニス。おまえは駆竜部隊全体を操ってはいない。せいぜい今乗っている一頭くらいのものだろう。こいつらの指揮官には、なれなかったようだな」
アトクの言葉に、セラニスはきょとんとして、首を傾げた。
「指揮官? なにそれ。こいつらは兵士の手足、移動するための乗り物。それ以外の何だっていうんだ」
そんなセラニスが乗っている駆竜は、同じように首を傾げていた。
(同じ動きをしてる?)
カルナックはそれに気づき、カントゥータをちらりと見た。
目配せが返ってきた。
カントゥータも、そしてアトク、銀竜、ローサも。
クイブロはカルナックの傍らに駆けつけ、寄り添った。支えようとしているのだ。
カルナック(ルナ)は、この場にいる誰よりも強い。
しかし唯一、弱点がある。
身体が弱く、体力がもたないことだ。
精霊火(スーリーファ)も、カルナックの体力を補うために集まって来ているのだ。
「ルナ。おれのルナ」
クイブロは背中からカルナックを抱きしめた。
「どうしたのクイブロ」
「どこへもいかないでくれ」
捕まえていないと、ふいにどこかへ消えていってしまいそうな気がした。
「へんなクイブロ。知ってるでしょ。おれはどこへもいかない。『世界』に、許可をもらって、ここにいるんだよ。セラニスを退けて、勝って。生き延びて。……それで、来年。おれを『輝く雪の祭り』に、連れてってくれるって、約束したよ」
「……うん。うん、そうだよ。約束だ。一家総出で。『輝く雪の祭り』に……」
「ぜったい、だよ。約束したよ」
「うん。絶対に」
可愛い嫁、ルナ(カルナック)を抱きしめて。クイブロは、背筋が粟立つような奇妙な予感がしていた。
何かが、起こる。
きっと、不穏なことが。
今、セラニスの前に進み出て睨み合っているのは、アトクである。
「駆竜は、おまえの手足でも機械でもない。こんななりだが生きているんだ。兵士の命令に従うように訓練されてはいるが、意思もある。無視していると痛い目を見るぞ」
その声は憤りに満ちていた。
「なに言ってんの。おまえたち兵隊だって使い捨てなのに。駆竜は『人形』に繋いで使い潰す手足で乗り物。今回は指揮系統の中枢はアトクに設定しておいたけどさ。書き換えなんてすぐできる」
重要な武器である『魔天の瞳』をすべて叩き落とされているにもかかわらず、セラニスには不思議なほどに落ち着きがあった。
つい先刻まで、セラニスは数十頭の駆竜部隊を率いていた。
指揮権をアトクに奪い還されたために現時点では、セラニスの味方はいない。飛ばしていた『魔天の瞳』もすべて落とされたのだ。
対して、『欠けた月の村』側には、ローサ、カントゥータ、クイブロとカルナック。そして守り神である銀竜(アルゲントゥム・ドラコー)とアトクがいる。
「だが『人形』たちはすべて村の入り口で弾かれた。『人形』の通信機は破壊しておいたから、もう指令を出すものはいない。この、おれのほかには、な」
駆竜部隊は、アトクに従い、セラニスに対して敵を狙うような姿勢で、じわじわと包囲を縮めつつあった。
「ふふん。一人に大勢で迫る? これって、いじめ?」
くすくすとセラニスは楽しげに笑った。
「そろそろ気づいているだろうから言っとくよ。いかにも、このぼくは、ここにいる駆竜の心臓部に設置したターミナルに『憑依(インストール)』してるよ。だから、こいつを破壊すれば、ぼくは、この場からいなくなる。好きにしたら?」
「妙だな。それを宣言しておまえに得があるのか?」
訝しんだのは、銀竜(アルゲントゥム・ドラコー)だ。
「やっぱりそう思う? しょうがないから告白するよ。実は困ってるんだ。うっかり『憑依(インストール)』しちゃったもんだから。こいつが死ぬか、脳に取り付けた端末機器(ターミナル)が壊れるかするまで、抜け出せなくなっちゃったんだよね」
「へええ。じゃあ、壊さなければいいわけだ? セラニス、おまえはその器に縛られる」
「そうだけど。戦略的には、それも外れだね」
アトクの問いかけに、セラニスは肩をすくめる。
「ぼくの本体は相変わらず上空にある『魔の月』だ。そこには誰も手出しできない。ここにいる『ぼく』が月に帰還しなくたって、あっちは困りもしないわけ。な~んかソンしてる気がするんだ~。ねえ。なんで、末端のぼくが犠牲にならなきゃいけない?」
「知るか! 今まで兵士を使い捨ててきたくせに」
「そうなんだよ~。ぼくも兵隊と一緒さ。使い捨て! そんなのつまらない! だから、思ったんだ」
セラニスの目が、暗い赤に輝いた。
「ねえ、もっと近づいてよ。駆竜たちも。提案があるんだ。ぼくと、手を結ぼうよ!」
「手を……結ぶ」
カントゥータの身体が、揺らいだ。
「そりゃあ、いい提案かも…しれないねえ」
ローサまでも。
その瞬間、カルナックは異常に気づいた。
「だめ! 欺されないで! そいつは人間に悪意しかない! 手を結ぶなんてあり得ない」
声が響いたとき、アトクもまた、我に返った。
「やばい。退け!」
セラニスを囲んでいた駆竜達に号令した。
「うふふふっ。もう遅い」
セラニスの唇から呪詛が紡がれる。
「仕掛けはできた。さあ、共に滅ぼうよ!」
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