精霊の愛し子 ~『黒の魔法使いカルナック』の始まり~ 

紺野たくみ

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第5章

その14 ラプラの初恋(6)あたしは世界を革命する! 個人レベルで

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          14

「セレナンの女神さま? えっと、あたしが生まれ変わるときに出会った女神様は、もう少し小さいっていうか、人間サイズだったわ。あなたは……いったい、なんなの?」

 問いかけながらも答えはわかっている気がした。
 世界と同じ名前の女神様、ものすごい美人なんですけど、やっぱ新宿都庁より大きいわ。
 この大きさこそが本来の姿、いや、これでも小さくしてみた、って感じ?

『その女神は「エイリス」と名乗っただろう?』
 巨大な女神は、さも面白そうに言った。
 言ったというより、声が胸に響いてきた。実際に巨人サイズの女神が声を発していたら、あたしなんか吹き飛んでしまうんじゃないかな。

『正しくは「エイリアス」だ。偽名、分身。本体にアクセスするためのショートカット。21世紀の東京に住んでいたのならこの説明でわかると思うが。全ての女神は本体が巨大すぎるがゆえの分身。それぞれが個別の人格を持ってはいるが、本体は一つだ』

「……あら、そうなの」
 驚きを通り越してしまった、あたしは。間の抜けた返答しかできなかったわ。

「とにかく、あたしは誓うわ。次に会ったら絶対にアトクを離さない! この成人の儀を終えたら村を出て、アトクを追うの!」

『見上げた心がけだが、それには及ばぬ。いずれアトクは帰還する。四年後までには。しかし、そのときのアトクは元のアトクではない。もしそうでもおまえの恋心が変わらぬならば引き留めてみるがいい。人間の世界に。そうだな……手駒としてはそのままに、彼の望みを叶えることになるであろう』

「意味わかんないわ」

『今は、な。いずれ明らかになる。おまえと彼の運命は結ばれた。現時点では決定ではないが可能性が生じた。努力せよ。我に魂の輝きを見せてくれ。さすれば、おまえの全ての望みはかなう』

         ※

 そしてあたしは現世に戻ってきた。
 藍色の空が目に飛び込む。

 目を開けたら銀髪の超絶美形青年が空中に浮かんでいて、あたしを腕に抱いていたから、驚いたわ。

「ぎゃーっ!」
 思わず叫んだ。
 あら、この美青年、ちょっと傷ついたかな?
「ご、ごめんなさい。驚いてしまって。もしかして、あなたが助けてくださったの?」
『そうだ』
 彼は厳粛に頷いた。

『儂はこのルミナレス山系、雪渓の奥に宿る銀竜(アルゲントゥム・ドラコー)である。おまえは《世界の大いなる意思》を動かした。ゆえに儂は、その望むものを与えよと言われているのだ。さあ、前世の心残りを魂に抱えた、勇敢なる、むすめごよ。なにが欲しい』

「銀竜様だったんですか! 失礼しました! お、お目にかかれて嬉しいですっ! ご挨拶も中途半端で申し訳ないんですけど、ご相談したいです! あたし、アトクを助けたい。でも、どんな加護を得られたら彼を助けることができるのか、わからないの」

『ほうほう。アトクも果報者よの。今は野良犬の如くうらぶれておるが、将来には光が差してきておるわ。では、「翼」の意味持つ名前の娘よ。加護は、「可能性の卵」を与えよう。おまえが望めば、事態は必ず好転する。さらに、アトクのそばに立てるよう「同調」効果を授ける。アトクの得た能力をそのままわがものとし、更に強力にして取得できる。念のために「狂化防止」もつけておこう』

「そんなに!? 三つも貰っていいんですか」
 大盤振る舞いじゃないの、それ。
 普通は、いいとこ一つ、二つももらえればラッキーって感じなのに!
 すると銀竜様は、ふと、寂しそうに微笑んだ。

『儂も気にしておったのだ。村人はみな、昔から見守り加護を与えてきた可愛い孫、玄孫たち。アトクもそうだ。《世界の意思》が欲しいというので渡さざるを得なかったこと、正直、悔いておる。《世界》と《イル・リリヤ》の始まりの契約ゆえ、儂にはいかんともしがたくてな。おまえが、あれを助けてくれるならば好都合』

 一生に一度、成人の儀のときしか会えない、偉い銀竜様のはずなんだけど。
 なんだか大人の哀愁が漂うわ。親しみやすいし。

『ではラプラ。がんばって、あがくがよい。応援しておるからな』

「ありがとうございます銀竜様! あたしがんばるわ!」

 そして、あたし、ラプラ(翼)は人生をやり直すことにした。
 本気モードでガンガンいくわ!

          ※

 銀竜様の加護の意味がわかったのは成人の儀を終えた二年後のこと。

 アトクが、遠い国で死んだ。
 死因は何か。
 後の状況はどうなっているのか、全てを、あたしは知ることができた。

 一度死んだアトクが蘇ったとき、あたしも同じ過程を経験したのだ。精神的に。
 二度とは経験したくないけど。

 グーリア帝国とサウダージ共和国には戦争について、技術提携について、他国には漏らさず二国間でのみ情報を共有する密約が結ばれている。皇帝と共和国元首の意図は不明だけれど。
 くそったれ!
 人間の尊厳だとか故人の権利など考慮していないことは間違いないわ。
 あいつらは絶対、敵になる。

 この村の人間が、あいつらと戦うことになるとは考えにくいけれども。
 だって国家対、一村だよ? でも、ご先祖様は《イル・リリヤ》により、人類を守る使命を受けたというし。
 村のみんなは戦いとなると嬉しそうだもんね。ちょっと心配だなあ。

 そしてパズルの「ピース」が、もう一つ揃う。

 クイブロが十三歳のとき、一人の少女に出会って、親代わりだという大森林の賢者コマラパという人と一緒に、村に連れてきた。
 少女の名前はカルナック。自分で名付けたって…

 ん? ちょっと待てよ。あたしの前世の記憶に引っかかるわ。
 フランス…ブルターニュと、エジプトに、この名前の遺跡があったよね? カルナック列石とカルナック神殿。

 ……もしかしてこの子、転生者?

 この世界では『先祖還り』っていうんだけどね。

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