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第5章
その23 シャンティとミハイルの決意表明!
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気がついたとき、プリースト・シャンティと、護衛のミハイルは、祭りの喧噪に包まれたルミナレス山腹に佇んでいた。
この場所で四年に一度開催される「輝く雪の祭り」は、今や最高潮の盛り上がりを見せていた。
近くにいた、祭りの参加者を呼び止めて尋ねてみると、今日がまさに祭りの最終日だとのこと。
しかし、祭りが終わっても残って余韻にひたる人々が多くいるため、すぐには閑散としたりしないという。
「ミハイル、わたしたちはいつの間に、あの村を出たのでしょうか? つい今しがたまで村長の末の息子さんの結婚披露宴と、カントゥータさんが精霊の青年と婚約する祝いの宴に招かれていて、ずいぶん飲んで……そこから記憶が曖昧なのです」
首をひねるシャンティ。
ミハイルは、嘆息した。
「いつものようにシャンティ殿下が羽目を外して飲み過ぎたんですよ。村長の旦那さんの背中を、笑いながらポカポカ叩いてましたね」
「黒歴史再びですか~~!!!!!」
シャンティは飛び上がって、頭を抱えてうずくまった。
「穴があったら入りたいですぅ~」
「しかしですね、殿下の酒癖が原因で追い出されたというわけでもなさそうです。祝宴はずうっと続いていましたし」
「わたしには、追い出された記憶はありません。ただただ楽しい酒と美味しい料理をたくさん頂きました」
思い返すと、青くなっていたシャンティの頬に赤みが差してきた。
「……そういえば、殿下。あそこに夜なんてあったんでしょうか? 何日も滞在していたような気がするんですが……寝た覚えがありません」
「確かに妙です」
シャンティも冷静に状況を考えてみた。
「輝く雪の祭りは、そんなに長期間だったでしょうか? あの村に一週間以上は滞在していましたよね? それなのに、祭りはまだ終わっていない」
「シャンティ殿下が悪酔いして倒れて。精霊の一番年長だという女性が手当してくれたんですよ。殿下が起きてからも宴は続いていました。何日も」
「思い出してきました……グラウケーさん……神々しいくらい美しい人でした。村長の息子さんと結婚した、ルナという少女を、とても可愛がっていましたね」
「あの子は『精霊の愛し子』だと聞きました」
賑やかな葦笛や太鼓、踊りの輪、歌い踊る人々。
酒を酌み交わし料理を食べて、楽しげな人々。
祭りの熱気に包まれて、シャンティとミハイルは、彼らの体験したことを互いに語り合い、振り返ってみる。
招かれた広い天幕。その中を照らしていた青白い光の球体。
楽しげな人々。
白い森の中。
「そうだ……思い出した。グラウケー様だ」
シャンティは、ぽん、と手を打った。
「彼女がこう告げた。わたしとミハイルには、まだ現世で行うべきことが。使命があるから、いつまでもとどまっていてはいけないと。人間界に出て、レギオン王国に蔓延している『聖堂分家』の勢力を削ぐように」
これには、ミハイルも大きく頷いた。
「われわれの使命と一致します」
「ええ。『聖堂本家』のほうが分家に遅れをとるなどあってはなりませんからね。教王様から直々に拝命した使命でした。伝道を続けねば。人の道にもとる『分家』の所行をつぶさに調べ上げ報告して。彼らの非道な行いは、わたしたち『本家』が諫めねば!」
「どうやら、そのために、われわれはアティカ村に招かれたようですね」
決意を新たに、シャンティとミハイルは、祭りに集った人々に話を聞いて回った。
「はいはい、今日の明け方には『神がかりの7人』が山頂から降りてきたよ」
大人の男ほどもある氷の塊を藁の筵で包んで持ち帰り、広場で、固い岩で作ったオノで叩いて欠片を集まった人々に分け与えた。
溶けない氷だ。
人々はそれを無病息災のお守りにする。
祭りの終盤を飾る一大イベントだ。
シャンティとミハイルは、さらに、意外な話を聞くことになった。
「村長のローサに招かれた? 『欠けた月(アティカ)』の村は、去年の噴火で無くなったんだよ。村の人たちも、みんな死んだらしいやね。えらいことだったよ」
「だけど、お若い外国の方、なんでローサ村長の名前を知っていなさるんだね?」
「会って話したとね?」
「披露宴に招かれた? そういえば村長の息子は嫁をもらったって。行商人の『早便』って男から噂を聞いたよ。噴火の起こる前だったが」
「気の毒なこと。村人は全員、噴火で亡くなったそうだよ」
「さては、旅の人、幽霊に出会いなさったね」
「そういや他にも、ここじゃない何処かに迷い込んだとかいう若者たちがいたね。村の名前も詳しいことも覚えていないと言っとったが」
祭りのためにルミナレス山腹で寝泊まりしている大勢の人々に尋ねたが、人々は一様に口を揃えて証言した。『欠けた月の村』は、昨年、突然に起こった噴火に巻き込まれて消滅したのだと。
消えた村。
地図にない村。
「でも、あの村は、ありましたよ」
「はい。我々の記憶違いではありません」
シャンティはミハイルと、記憶を確かめ合った。
「ですが、同じくアティカ村に招かれていたはずの青年たちにも会って話を聞いてみましたが、ほぼ覚えていないようでしたね」
「我々と話しているうちにも、どんどん記憶が薄れていってました」
「わたしたちだけが証人ですか……」
シャンティとミハイルは、終わりつつある祭りを見守った。
「けれど、誰がなんと言おうと、アティカ村は、ありました」
シャンティは、振り返る。
「白き精霊の森に」
ミハイルも、頷いた。
「よし! 決めました!」
立ち上がり拳を握って振り上げるシャンティ。
「わたしは使命を果たし! いつかまた、あの村を訪れてみせます!」
「え、まさか殿下は、あの美人な精霊グラウケー様に好意を……ですが、聖職者は妻帯は厳禁で」
ぽかっ!
「バカ者ですか! そっちじゃありません! いや確かに素敵な人でしたが」
シャンティは憤慨してミハイルの頭をはたいた。
「それよりわたしは、いつの日か、再び、あの黒髪の愛らしい少女の、素晴らしい料理を食したいのです!!!!」
こぶしを力強く握って決意表明をするシャンティの姿に、ミハイルは思った。
アステル王国第八王子シャンティ・アイーダ・アイリ殿下は、なんて残念な王子様なのだろう。
黙って佇んでいれば女性達の人気をさらうであろうほどに美形。
家柄もよく、おまけに面倒な王位など継がなくてもいい自由の身。
聖堂から支給される司祭の手当だって、かなりのもので、贅沢な嫁を娶ったとしても生活に困らないだろう。
ところが殿下の興味は美食と酒、各地の珍しいものを見て回りたいという「旅好き」の琴線に触れるものしか、興味を持てないのだ。
一生、結婚など無理と、本人も悟っている。だからこそ独身の誓いを立てる「大司祭」候補なわけだが。
(わたしが殿下をお守りし、支えねば……!)
こうしてシャンティとミハイルは、輝く雪の祭りの視察を通じて、生涯の目的を見いだし、決意をあらたに、『聖堂本家』に帰還することにしたのだった。
彼らと「欠けた月の村」の、長きにわたる交友の始まりだった。
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