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第1章
その11 おれの嫁はツンデレ可愛くて危険!
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「なんで~っ!? スアール、ノーチェ! なんでおまえに懐いてるの!?」
叫んでいるのは、おれ、リトルホークの可愛い嫁だ。
ここ、エルレーン公国首都シ・イル・リリヤではムーンチャイルドと名乗っている、長い黒髪を三つ編みにした美少女。
五年前、純白に微かな縦縞の入った毛皮を纏う獣《大牙》に「牙(スアール)」。漆黒の毛皮を纏う獣《夜王(ビッチェ)》に「夜(ノーチェ)」と名付け、従魔にしたのは、彼女。それ以来、二頭の魔獣は、彼女の影の中に控えている。
嫁の、本当の名前はカルナック。
おれは彼女をルナと呼んでいる。カルナックからとった愛称だ。
この名で呼んでいいのは、伴侶である、おれと。
おれたち二人に、加護を与えてくれた銀竜様(本人は、友達だからアルちゃんと呼んでくれという)だけだ。
彼女は『世界の大いなる意思』精霊様に、幼い頃に拾われ育てられた養い子で、精霊の森で、人間にはありえないほど、精霊様の愛情を一身に受けて育った。
訪れたクーナ族の賢者コマラパに付き添われ、外界を見聞するために森を出た。
そこで、おれは彼女に出会った。
出会ってすぐ求婚したのは、おれ。
カルナックは、本気にしなかった。
自分が求婚されているとも思ってなかったんじゃないか。
たぶん、出会ったばかりのおれを信用しきれていなかった。
だからおれは、しつこいぐらい迫った。好きだと何度も伝えて、強引にキスもした。カルナックにも殴られたり魔法で飛ばされたり嫌な顔もされたけど、気にしなかった。だって、おれの一目惚れ、初恋なんだから。
おかげで、カルナックの父親であるコマラパにはよく怒られた。
目の中に入れても痛くないってほど可愛がっていたカルナックにしつこく迫っていたわけだ、腹も立ったかもしれない。
いろいろあって、おれたちは精霊様に認められて結婚したけど、お互い子どもだったし、まだキス以上のことはしていない。
四年前に、あることがもとで逃げられてから、再会したら、その先のあれやこれやのこともしたいって、ずっと妄想してきた。
もう、離さない。
「スアール! ノーチェ! 助けて、こいつをやっつけてよっ」
おれの腕の中でもがきながらムーンチャイルドは言うのだが、二頭とも、主人の危機だとは思っていないらしく、おれにすり寄って喉をゴロゴロ鳴らすだけ。
「スアールもノーチェも、おれに会えて嬉しそうだぞ」
二頭を撫でながらおれが言う。
ムーンチャイルドは憤慨する。
「魔獣を手懐ける加護のせいだろ! 反則だよ!」
顔を赤くしている、おれの嫁の肩には、懐いている真っ白なウサギ……名前はユキ。……が、ちょこんと乗っかっている。
「だってそんなの。せっかくアルちゃんがくれたんだ。活かして使うべきだろ?」
おれは銀竜アルちゃんのくれた加護の一つ『魅了』? とかいうやつを、無意識に使っていたらしい。
耳もとで何度も「ルナ。おれの可愛い嫁」と囁けば、身動きができなくなって、ただ、憤慨するしかできないと言って、嫁は、怒る。
怒った顔も、ものすごい可愛い。きれいだ。
……そそられる。
四年前には、これほどの衝動は感じなかったけれど。
おれも今は十八歳。青少年なので! これは無理からぬことなのだ、そうなのだ!
「ルナ。かわいいルナ。そういえば、なんで、別れたときの姿のままなんだ」
すると、ルナ(ムーンチャイルド)は、恥ずかしそうに、少し顔をそむけた。
「……待ってたんだから。おれが大きくなってたら、会いに来てくれたときに、おまえ、おれのこと、わかってくれないかも……って、思って」
「それが理由なのか!?」
だめだ。もう、我慢できない。
おれは嫁を強く抱きすくめて、その唇に、口づけた。
四年ぶりの、キス。
柔らかくて、甘くて、いい匂いがして。
その感触は、おれを酔わせた。
あぶない。
絶対、おれの嫁は、危ない!
そばにいて見張っていなかったら、誰かに目をつけられて奪われる。
危機感が、更に、おれを煽った。
「だめ! だめだったら!」
ほんの一瞬、呼吸を整えるために唇を離した瞬間、嫁は叫んで、おれの胸を押し返して逃れようともがいた。
……無駄なのに。
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