生贄から始まるアラフォー男の異世界転生。

紺野たくみ

文字の大きさ
10 / 28
第1章 幼年期からの始まり

その5 おれは青竜幼稚園の新入生?

しおりを挟む
                5

「コマラパ! グズね、ご主人様がお目覚めになるときは必ず、全員揃って控えているように言われたでしょ!」

「はっ、はいシエナ先輩」
 洗濯物を抱えているおれに、容赦ないな、シエナ先輩は。
 ここは青竜様のご威光で満たされた聖なる泉の底の、異界だ。
 泉の底なのに空気があって、小さな村みたいなのがあって。
 井戸もあれば、川の流れのような岸辺もある。
 白い小石が底に敷き詰められた浅瀬だ。
 この岸辺は、外界と繋がっている。
 そこで、洗濯をする当番が、おれ。
 そしてどうやら洗濯当番は、ずっと、おれに決まっているようだ。
 一番若いっていうか、新しく来た従者だからなあ。

 青竜様は、毎日、着替える。
 汚れてはいないが、これは「決まり」だ。
 ついでに従者のおれたちも全員、毎日、水浴び……沐浴をして、着替えることになっていて。その着物は、おれ、コマラパが洗うことになっている。
 その間、他の従者ときたら、ちょっかい出して、洗濯の邪魔ばかりする。

「……ったく、ここは幼稚園かよ!」
 思わずぼやいた、おれ。
 次の瞬間には「あれ? 幼稚園ってなんだ?」と自問する。

「ほんとに、あんたは奇妙なヤツね」
 洗濯をする岸辺に並んで手伝ってくれているのは、シエナ先輩だ。
 口も悪いし手も出るし厳しいけど、助けてもくれる。
 ほんとは、優しいんだ。

「ときどき、聞いたことも無いような不思議なコトバを口にする。かと思えば、本人も、記憶に無いって。なんなのソレ」

「わかんねえ……」
 答えたとたん、洗濯に使っている板で殴られた。

「バカもの! 言葉遣いは直しなさい! 日常会話から直していかなくちゃだめなのよ。あたしたちだって、時には青竜様のお供をして外界に行くこともあるのよ。そのときは、威厳があるように振る舞わなくちゃいけないの! 青竜様のお弟子なのよ!」

「すみません……」

「じゃ、あらためて聞くわ。ようちえん、て、なに?」
 忙しく、洗濯物を水に浸けて、板にこすりつける。ほぼ汚れなんてものは無いのだから、これは形通りの儀式。

「小さい子が集まって、遊んだり、お遊戯したりする、場所だよ。おれは、覚えてないんだけどな……ふっと、思い出してさ」

「ふーん。……そんなことを人間がやっているなんて見たことないわ。やっぱり、青竜様のお言葉通りね。あんた、この世界じゃ無い記憶を持ってるようね」
 シエナ先輩は言い切った。
 一番古くから青竜様にお仕えしているだけあって、お供をして人間界を見て歩くこともあったという。

「そうみたいだ……いや、です。先輩。でも、思い出せないんです。生まれてから泉に落ちるまでのことも、覚えてないし」

「青竜様がおっしゃってたわよ。あんたは『忘我の先祖還り』だって。この世界じゃ無いところの、前世の記憶があるんだって。ときどき、そういう『先祖還り』の人が、生活を便利にする発明をしたりするのよ」

「そういうもの、なのか…です?」

「ま、思い出せないんじゃ役に立たないわね!」

「ははは……」
 おれは力なく笑うしかない。
「生まれてから泉に落ちるまでの生活も、覚えてないもんな……」

 青竜様の従者になった、おれ。
 以前の名前は、仮の身体と共に捨て、『コマラパ』という新しい名前を頂いて、文字通り、生まれ変わった。
 捨て去った仮の身体は、生まれた村に近い岸辺に流れ着くというのだから。
 実質、本当に死んだのと変わりないな。
 寂しい。
 泉に落ちたショックだろうか、おれには、記憶が無いのだ。

「深刻になること無いわよ」
 シエナ先輩が、言った。
「幸い、だって。残してきた家族のことを覚えていたら、辛いでしょ?」

「あ」
 先輩たちは、なんの心配も無く暮らしているようあけれど、みんな、生まれたところの記憶があるんだ。家族のことも。覚えているんだ。

「そんな、申し訳なさそうな顔、しないでよ」
 シエナ先輩は、おれの肩を叩いた。
「もう、何百年も前のことだから。ずいぶん、おぼろげになっちゃってるからさ。それより、グズ! 早くしないと洗濯にいつまでかかってるのよ!」

「はっ、はい!」

 そうだ、しんみりしてられない。
 洗濯が終わったら掃除。
 青竜様のご用事があるかもしれないし。忙しいのだ!

 洗濯を終えた衣服を持って帰り、従者村の物干し場に綱を張って掛けていく。
 全て生成りの貫頭衣だ。
 青竜様のお召し物だけは素材も特別製で、絹みたいな肌触り。広げて、ハンモックみたいなところに乗せるのだ。

 あれ? 絹? ハンモックって、なんだろ……?

「コマラパ! 何やってるの! おいで!」

 考えているヒマはなかった。おれと先輩は急いで青竜様のご寝所に駆けつける。他の従者たちはとっくに勢揃いしているはずだ。

 こして、おれたち、青竜様の従者仲間の一日は始まる。

 青竜様に造っていただいた食べ物を食べ後は少し昼寝して。
 起きたら、勉強。
 地理とか、いろんな国の言葉とか、風習、生活の違いや、作物のこと。
 なんでこんなに学ぶんだろうな?

「いずれは、おまえたちを派遣することもあるだろうからの」
 青竜様は、そうおっしゃるけどさ。
 どんなときに、そうなるんだろ?

 こうして『青竜幼稚園』の一日は、忙しく過ぎていくのだった。

 誰も歳をとらないから、つい忘れがちになるけど。
 おれがここに来てから、一年くらいは、あっという間に過ぎている気がする……。


 いつの間にか、おれは七歳になっていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...