11 / 28
第1章 幼年期からの始まり
その6 青竜様に教わること
しおりを挟む6
青竜幼稚園と、おれは内心で呼んでいる。
青竜様の従者である子供たちが暮らしている、この小さな村のことだ。
「コマラパ! おまえ、ここに来てからどれくらいになったっけ?」
「どうかなあ。一年くらいかな」
「二人とも、おしゃべりしてもいいけど、作業の手を止めない!」
仲間の『アール』が尋ね、おれが答えていると、そこを見とがめたシエナ先輩の雷が落ちた。
村に住んでいるのは皆、同じような境遇の、年頃の近い子供たちが十数人。
アール、イルダ、ウル、エレイン、オーリー。カルミッド、キリク、クシ、ケール、コイユル。サーリア、シエナ。スーリル。セレ、ソーン。
みんな、以前の名前を青竜様に捧げて、新しい名を頂いたのだ。
年齢は、シエナ先輩が一番上だそうだけど、他は、あやふやだ。誰もが自分の年齢など数えない。
だいたい五人くらいずつばらけて、手分けして農作業とかをする。
この村では、いろんな植物を少しずつ試験的に栽培している。どれも人の役に立つ作物ばかりだ。
イモ、豆、雑穀、トウモロコシ(ここではサラという名だ)。プラタノやパルタは果実だが甘くない、煮たり焼いたりして食べる。
イモといっても何種類もあるのだ。
暑いところで育つユカ、寒冷地で育つジャガイモ(パパと呼ぶ)、小さなリサスなど色々だし保存方法もいろいろ。
霜が降りる土地だとパパは夜中の霜に当てた後で日中に解凍して出てくる水分を押し出してアクを抜く。ユカにもアクのない甘いやつと、苦ユカというアクが強いものがある。苦ユカは小さく刻んで水に晒し、干してから煎る。
不思議なのは、泉の底のはずの異界が、予想外に広いことである。
青竜様に引率されて仕事場に行く。
着いた先は、森林だったり川の畔、高山だったり。そこで、それぞれの気候、風土に合った作物を育てる。
おれたち従者以外の人間の姿はない。
「農場経営シミュレーションゲームみたいだな」
ふと口をついて出た言葉に、自分でも驚く。
そしてすぐ(農場? 経営? ゲーム? シミュレーション? なにそれ!?)という疑問が湧いてきて、猛烈に悩まされるのだった。
ちなみに現在の作業は、背丈より高くまっすぐに伸びている、カンナビスという植物を収穫すること。
といっても、根元を掴んで引っ張れば簡単に抜ける。
「前に教えたでしょ。あっちの、綱で囲われたところに生えているのは構わないでね。種をとる用だから、まだ放っておくのよ。種ができると繊維が固くなるから、残すのは少しだけでいいの」
「はい、シエナ先輩」
「おい、コマラパ」
いかにもないたずら小僧のアールが、肘で、おれの脇腹を小突いた。
「煎った種は美味いんだぞ。食ったことあるか?」
「まだ食ってない。ていうかアール懲りないな。さっき注意されたばかりだろ」
「こらまた! アールとコマラパ! 手を止めないの!」
「「はあ~いい……」」
おれやアールと同じチームの、他の三人は、すごくおとなしい。
みんな行儀がいいな。
怒られてるの、おれたちだけじゃないか。
「カンナビスは葉を取って束ねて水に浸けておくのよ。外界なら、しばらくすれば外皮が腐るけど、ここでは腐敗しないから。ふやけたところで引き上げて皮をむいて叩く。フラックスも水につけておいたでしょ。木槌で叩いて繊維を取るの」
丁寧に教えてくれる。シエナ先輩は青竜様から直接に教えて貰っているから、すごく詳しくて正確だ。
口はちょっぴり悪いけど、きっとツンデレだな。
他に綿、羊毛、絹……。
糸を紡いで、簡単な織り機で布にして、染めて、服や小物雑貨を作るまで。
食糧となる作物の栽培の仕方も、青竜様が教えてくれている。
ところで、さ。
青竜様は、何がしたいんだろうな。
おれたちに教えて、いずれは派遣とかして、人間達に文化を広めるつもりなのだろうか。ボランティアか?
(あれっ!? ボランティアって、なんだっけ…!?)
ここは、学校か?
八歳になった、おれは。
これからどうするのだろう、なんて、ふと思うのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜
小林一咲
ファンタジー
「普通がいちばん」と教え込まれてきた佐藤啓二は、日本の平均寿命である81歳で平凡な一生を終えた。
死因は癌だった。
癌による全死亡者を占める割合は24.6パーセントと第一位である。
そんな彼にも唯一「普通では無いこと」が起きた。
死後の世界へ導かれ、女神の御前にやってくると突然異世界への転生を言い渡される。
それも生前の魂、記憶や未来の可能性すらも次の世界へと引き継ぐと言うのだ。
啓二は前世でもそれなりにアニメや漫画を嗜んでいたが、こんな展開には覚えがない。
挙げ句の果てには「質問は一切受け付けない」と言われる始末で、あれよあれよという間に異世界へと転生を果たしたのだった。
インヒター王国の外、漁業が盛んな街オームで平凡な家庭に産まれ落ちた啓二は『バルト・クラスト』という新しい名を受けた。
そうして、しばらく経った頃に自身の平凡すぎるステータスとおかしなスキルがある事に気がつく――。
これはある平凡すぎる男が異世界へ転生し、その普通で非凡な力で人生を謳歌する物語である。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる