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第1章 幼年期からの始まり

その19 数々の贈り物と旅立ち

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          19

『生贄としてわしに捧げられ長く仕えてくれた従者ゆえに与える恩寵だが、知れば妬む者も奪おうとする者もあらわれるであろう。心せよ』

「ありがとうございます、青竜様。充分に気をつけて用います」

 精霊グラウケーの贈り物『水の指輪』にしかり。
 青竜様の数々の贈り物『青竜の腕輪』『使ってもなくならない粒金入りの小袋』『今まで作ってきた植物、食べ物を出現させられる力』など、どれをとっても通常はあり得ない。

『妾の巫女、織り姫、おまえが名を受けたことは大きい。妾もまた、そなたの婚約と旅立ちを祝って贈り物を与えよう。まず、これじゃ』
 白竜様が手を掲げる。
 沙織の手首に、白い小さな竜が巻き付いたように見えた。ほどなくそれは石の腕輪に変わり、手首を守るようにぴったりと嵌まった。

 その材質は21世紀の日本で貿易商だった、おれ(並河泰三)の記憶にある、東洋のとある国で、強力なお守りとされていた白い玉(羊脂玉)に似ている。

『妾の加護を受ける者のしるし。白翡翠じゃ。聖なる力、癒やしの力、邪なものを退ける力を与える。それと、コマラパ同様に、そなたが妾のもとで作っていたものを、外界に出ても願えば手にできるようにしようぞ』

「ありがとうございます白竜様! 大切に致します」
 感激して、沙織の声が震え、目元に涙がにじんでいた。

「コパ君! 沙織さん。あたしからも贈り物をあげるね」
 シエナ先輩は、麻でつくられた小袋をおれたち二人、それぞれにくれた。
 つぶつぶした小石のようなものが入っている。

「ファリーニャ。みんなで作ってた保存食を栄養たっぷりに改良したの。粒を一つお椀に入れて水を注いでかき混ぜるだけで膨れて、おかゆみたいになるの。お湯でも美味しいよ」

 アクがある苦イモをすり下ろして水に晒してアクを抜いた上で、火に掛けて煎って小粒状に仕上げたもので、けっこう手間がかかっている。それをさらに改良したという。

「携行食はありがたいです! 先輩」

「すぐに食べられる燻製肉と燻製プラタノも入れてあるからね! コパ君は食いしん坊だから。沙織さん気をつけて。あなたには、これも」
 もう一つの袋には極小の茶色い粒。見た目は麻の種みたいだ。

「万能薬。どんな病気や毒にもきくわ」

「こんなに何から何まで。ありがとうございます!!」

 おれの手首には青竜様の『雷』の腕輪。
 沙織さんの手には白竜の『癒やし』の腕輪。
 精霊たちがやってきて、二人に、旅支度を調えてくれる。

『コマラパ。さっきはおまえの決意を試すために、戻っても百年後だと言うたが、実は、肉体の成長とほぼ変わらぬ。十年が経過したくらいじゃの』

 おれを試したのだと平然と告げる青竜様。
 人間とは常識や価値基準が違う。

『コマラパ、おまえの今世は「太陽神アズナワク」の息子である大王の子だ。おまえの部族はこの世界の太陽を祀る、本当の意味での「この世界の申し子」たちよ。おまえは彼らの希望となるであろう。生贄に捧げられてなお黄泉より戻りし王子。この世界の正当なる王である。王者として覇道を唱えるはもはや決定事項である。その肉体のままで帰還するなら、覚悟はできているな』 

「はい!」
 返事だけはいい、おれだけど。

 嘘っ!?
  なにそれ王者だとか覇道だとか。
 知らないよ!?
 
 こうして、おれは現世に戻ることになった。
 婚約者となった沙織だが、同時に戻ることはできないという。

『沙織は生まれてすぐ死んだ。それにコマラパがいずれ王者となるのだから適当な王家を見繕って生まれさせる。白竜の加護を受けた翡翠の王女としてな。コマラパ、必ず沙織を捜し出すのだぞ』

 お気楽に構えていたおれは、今頃になってどうやら現世が簡単ではないことを悟った。

「後悔してる? コマラパ」
「悔やむものか。きっと、きみを見つけてみせる!」

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