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第2章 甦った王子
その0 こんな夢を見た。愛娘の未来
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銀色の渦に身を投じた、おれは。
ひどく頼りない、柔らかな銀色の闇に浮かんで、重さも感じない状態なのだが。
現在は、どこでもないところを彷徨っていた。
行き着くべき目的と場所はわかっている。
故郷の村。今生での母親、セーアに再会するんだ。
あのとき泣いていた。自ら望んで息子のおれを生贄に差し出したとは信じない。母さん。どうしてだろう。母さんとの暮らしは、ひとかけらも思い出せないのに、泣いていたことを思い返すと、胸が苦しい。
できるなら……笑顔に、してあげたい。
生贄になった時点から十年後の故郷に帰還するよう取りはからうと、精霊は告げた。
現世での肉体は、魂と分離して故郷の岸辺に流れ着いて、めでたく雨神の従者になった証として祀られてると聞いた。
埋葬されて祠でも作って貰ってるんだろうか。
青竜様たちと《世界の大いなる意思》の代行者である精霊の長老グラウケーによって、おれの身体は再構成されている最中。
今のおれは、魂だけで彷徨っている。
だから、願っていたものが見える。
願わなかったものも、垣間見えてしまう。
見えてきたのは、くぬぎ林だった。
最初に《沙織》と出会った場所だ!
くぬぎ林の、枝の間に見えているのは、淡い黄緑色をした繭玉。
確か『天蚕』というのだった。
沙織が集めていたっけな……
あれ?
沙織がいる。
繭玉を篭に集めている!
過去の記憶なんだろうか。
しかし、違うとわかったのは、そこにいるのは彼女だけではなかったからだ。
同じ年頃の……十代後半、高校生くらいの少年少女たちが数人いて、それぞれ篭を持ち、繭玉を集めているのだ。
「ねえカオちゃん! こっちは全部集めたよ!」
「ありがとう、キョウちゃん」
満面の笑顔で、答えたのは、香織!?
おれの一人娘の香織だ!
キョウというのは、そうだ! 香織の親友、伊藤杏子だ。
「並河さん、こっちも! いっぱいあった!」
篭を手にして笑顔で駆け寄ってくる少女……この子の名前は覚えていないが、顔は見覚えがある。香織のクラスメイトだった。
「こっちもだ。きれいな色の繭だな、写真に撮っていいか?」
一眼レフを抱えた、体格のいい男子生徒が、さっそくカメラを構えている。
「宮倉くん、お願いね。サイトに載せましょ」
「じゃあさ! フォトブックにして、出資してくれた人に贈るのもいいんじゃない?」
「いいねいいね!」
よくよく目を凝らしてみる。
香織の高校のクラスメイトの少年少女たちが、十人ほど、繭玉を集める作業をしていた。Tシャツにジーンズなどの動きやすい服装、麦わら帽子といういでたちだ。
おれの視線は、林の中に立っているような位置にあるが、そこにいる誰からも見られていない。まるで透明人間になったみたいだ。
「みんな、手伝ってくれてありがとう。これで、『天蚕』の織物を復活させるわ! ママが、やりたいって言ってたの」
微かに「生きている頃の」と呟いた。
「おじいちゃんたちも乗り気だし、英国にいるママのお祖母様も以前は『天蚕』を扱ってたから、いろいろ教えてくれるって」
「ぼくも手伝うよ。……あの、ずっと、一生……きみと一緒にできたら」
香織の傍らに寄り添う少年が、顔を赤くして、言った。
沢口充。
生前の沙織が認めていた、香織の交際相手だ。
「なんだ充、いまごろプロポーズかよ! 意外と奥手なんだなぁ」
男子がはやし立てる。
彼は沢口くんの幼なじみ、山本雅人くんだったな。
「雅人ぉ! ガキか! そんなヒマがあったら作業しなさいよ!」
杏子ちゃんが、雅人くんに跳び蹴りをくらわした。
「山本くん、今から尻に敷かれてるんじゃないの~?」
どっと明るい笑い声があがる。
楽しそうな、少年少女たち。
※
香織の父親、並河泰三だった、おれは。
事故死したために、香織と沢口くんの行く末を見届けることは叶わなかったけれど。
そうか。
じいちゃんが魔女一族との契約で守っていた『天蚕』の織物は、香織が、友達と一緒に受け継いでいってくれるんだな。それに親父も、孫の香織にはむちゃくちゃ甘かったもんな。助けたくてうずうずしてるだろう。
『どうだ。コマラパ。前世は「並河泰三」だった魂よ、心残りは解消されたか?』
胸の内で響いた声がある。
精霊グラウケーの心遣いだったのか……。
「ありがとう、グラウケー」
感謝の思いで、いっぱいになった。
母親の沙織を亡くし、父親であるおれも事故死。一人で残してきた香織のことを、ずっと案じていた。
けれど、あの子は、決して孤独ではなかったんだ。
世の中に、悪意を持ったモノがいないとは言えない。
突然の災害も事故も起こりうる。
だが、香織は、おれと、魔女(というより精霊に近い)の長の孫娘、沙織の娘だ。
悪いモノなど寄せ付けないし負けないだろう。
彼氏や親友、友達。おれのじいちゃん、親父たち、たくさんの人に助けられ、支え合って……満ち足りた人生を全うするだろうと、確信できたのだ。
ありがとう、グラウケー。
そして《世界の大いなる意思》。ありがとう。
人生をもう一度やり直す機会をくれて!
おれも、転生したこの世界で、がんばって生き抜くよ。
どこかの王女として生まれているらしい沙織に再会して結婚して、そしていつか、再び娘として生まれてくる予定の香織も一緒に、幸福にしてやれるように。
まずは今生の親との関係修復とか……。
母さんの笑顔を見ること! 親父と面会すること!
それに部族の生活環境改善とか。
問題点は?
外敵に付け入られる隙を与えないようにと、いずれ部族の「皇帝」になる父親を助けてもり立て助言する……?
その前に、信頼される立場になっておかないと!
やるべきことは、いっぱいありそうだ。
よし! がんばるぞ!
銀色の渦に身を投じた、おれは。
ひどく頼りない、柔らかな銀色の闇に浮かんで、重さも感じない状態なのだが。
現在は、どこでもないところを彷徨っていた。
行き着くべき目的と場所はわかっている。
故郷の村。今生での母親、セーアに再会するんだ。
あのとき泣いていた。自ら望んで息子のおれを生贄に差し出したとは信じない。母さん。どうしてだろう。母さんとの暮らしは、ひとかけらも思い出せないのに、泣いていたことを思い返すと、胸が苦しい。
できるなら……笑顔に、してあげたい。
生贄になった時点から十年後の故郷に帰還するよう取りはからうと、精霊は告げた。
現世での肉体は、魂と分離して故郷の岸辺に流れ着いて、めでたく雨神の従者になった証として祀られてると聞いた。
埋葬されて祠でも作って貰ってるんだろうか。
青竜様たちと《世界の大いなる意思》の代行者である精霊の長老グラウケーによって、おれの身体は再構成されている最中。
今のおれは、魂だけで彷徨っている。
だから、願っていたものが見える。
願わなかったものも、垣間見えてしまう。
見えてきたのは、くぬぎ林だった。
最初に《沙織》と出会った場所だ!
くぬぎ林の、枝の間に見えているのは、淡い黄緑色をした繭玉。
確か『天蚕』というのだった。
沙織が集めていたっけな……
あれ?
沙織がいる。
繭玉を篭に集めている!
過去の記憶なんだろうか。
しかし、違うとわかったのは、そこにいるのは彼女だけではなかったからだ。
同じ年頃の……十代後半、高校生くらいの少年少女たちが数人いて、それぞれ篭を持ち、繭玉を集めているのだ。
「ねえカオちゃん! こっちは全部集めたよ!」
「ありがとう、キョウちゃん」
満面の笑顔で、答えたのは、香織!?
おれの一人娘の香織だ!
キョウというのは、そうだ! 香織の親友、伊藤杏子だ。
「並河さん、こっちも! いっぱいあった!」
篭を手にして笑顔で駆け寄ってくる少女……この子の名前は覚えていないが、顔は見覚えがある。香織のクラスメイトだった。
「こっちもだ。きれいな色の繭だな、写真に撮っていいか?」
一眼レフを抱えた、体格のいい男子生徒が、さっそくカメラを構えている。
「宮倉くん、お願いね。サイトに載せましょ」
「じゃあさ! フォトブックにして、出資してくれた人に贈るのもいいんじゃない?」
「いいねいいね!」
よくよく目を凝らしてみる。
香織の高校のクラスメイトの少年少女たちが、十人ほど、繭玉を集める作業をしていた。Tシャツにジーンズなどの動きやすい服装、麦わら帽子といういでたちだ。
おれの視線は、林の中に立っているような位置にあるが、そこにいる誰からも見られていない。まるで透明人間になったみたいだ。
「みんな、手伝ってくれてありがとう。これで、『天蚕』の織物を復活させるわ! ママが、やりたいって言ってたの」
微かに「生きている頃の」と呟いた。
「おじいちゃんたちも乗り気だし、英国にいるママのお祖母様も以前は『天蚕』を扱ってたから、いろいろ教えてくれるって」
「ぼくも手伝うよ。……あの、ずっと、一生……きみと一緒にできたら」
香織の傍らに寄り添う少年が、顔を赤くして、言った。
沢口充。
生前の沙織が認めていた、香織の交際相手だ。
「なんだ充、いまごろプロポーズかよ! 意外と奥手なんだなぁ」
男子がはやし立てる。
彼は沢口くんの幼なじみ、山本雅人くんだったな。
「雅人ぉ! ガキか! そんなヒマがあったら作業しなさいよ!」
杏子ちゃんが、雅人くんに跳び蹴りをくらわした。
「山本くん、今から尻に敷かれてるんじゃないの~?」
どっと明るい笑い声があがる。
楽しそうな、少年少女たち。
※
香織の父親、並河泰三だった、おれは。
事故死したために、香織と沢口くんの行く末を見届けることは叶わなかったけれど。
そうか。
じいちゃんが魔女一族との契約で守っていた『天蚕』の織物は、香織が、友達と一緒に受け継いでいってくれるんだな。それに親父も、孫の香織にはむちゃくちゃ甘かったもんな。助けたくてうずうずしてるだろう。
『どうだ。コマラパ。前世は「並河泰三」だった魂よ、心残りは解消されたか?』
胸の内で響いた声がある。
精霊グラウケーの心遣いだったのか……。
「ありがとう、グラウケー」
感謝の思いで、いっぱいになった。
母親の沙織を亡くし、父親であるおれも事故死。一人で残してきた香織のことを、ずっと案じていた。
けれど、あの子は、決して孤独ではなかったんだ。
世の中に、悪意を持ったモノがいないとは言えない。
突然の災害も事故も起こりうる。
だが、香織は、おれと、魔女(というより精霊に近い)の長の孫娘、沙織の娘だ。
悪いモノなど寄せ付けないし負けないだろう。
彼氏や親友、友達。おれのじいちゃん、親父たち、たくさんの人に助けられ、支え合って……満ち足りた人生を全うするだろうと、確信できたのだ。
ありがとう、グラウケー。
そして《世界の大いなる意思》。ありがとう。
人生をもう一度やり直す機会をくれて!
おれも、転生したこの世界で、がんばって生き抜くよ。
どこかの王女として生まれているらしい沙織に再会して結婚して、そしていつか、再び娘として生まれてくる予定の香織も一緒に、幸福にしてやれるように。
まずは今生の親との関係修復とか……。
母さんの笑顔を見ること! 親父と面会すること!
それに部族の生活環境改善とか。
問題点は?
外敵に付け入られる隙を与えないようにと、いずれ部族の「皇帝」になる父親を助けてもり立て助言する……?
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