魔術師と不死の男

井傘 歩

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『昨日,ディアルド王国兵団が総力を結集し,魔術師団の根城の一つとされていた「アルドラド要塞」へ攻撃を仕掛けました。魔力無効化装置,「ナルタス」が功を奏し,終始王国兵団が戦況を有利に進めた結果,要塞内の魔術師総勢100数名を排除する事に成功しました』

絶え間なく情報を吐き出し続けるラジオ。少し前にあのクズ野郎,ベイツが急に持ってきたものだ。とても長い間,何一つ無い薄暗がりに居た俺は,最初はそれを歓迎したが,ニュースばかりが流れるそれに,何時しか俺は興味を無くした。

何しろ外で何が起こっていようと,ここに囚われている俺には関係が無いのだ。どれだけ必死に耳をすまそうと意味が無い。

俺はあの日の事を思い出していた。
ベイツが俺の村を襲って皆を殺し,俺を連れ去ったあの胸糞悪い日の事を。

俺はあの村に生まれ育った。将来は,うちの親戚が経営している牧場で父さんと一緒に働くつもりだったのに。あの蒼い炎が全てを焼き尽くしたのだ。

ベイツが俺から全てを奪い去った。俺の人生を狂わせたのだ。あいつの背後に誰が居ようと,俺は必ずベイツを殺す。

なんてったって俺は不死身なのだ。手足がもげて血塗れになって地に這いつくばってでも,あいつの息の根を止めてやる。見るも無残な姿にして見世物にしてやる。

再びふつふつと湧き上がって怒りで頭の中を満たしている俺の目の前に,思わず勢いを削がれてしまう程の笑顔で,ベイツが現れた。

「やぁ,ラジオの調子はどうだい?ちゃんと動いているかな」

のそのそと歩み寄ってくるベイツに,噛み付くように吠えた。

「うるさい。今すぐこの拘束を解け」

「えぇ、嫌だよ」

露骨な程に嫌そうなしかめっ面。相変わらずふざけたやつだ。本当に腹が立つ。

「なら,お前の目的を教えろ。俺を不老不死にして,ここに閉じ込めて何がしたいんだ」

「うーん,そうだね。『お願いしますベイツ様♡』って言えたら教えてあげるよ」

「ふざけるな!」

「ふざけてなんかいないさ」

そう言うとベイツは俺の後ろへ回り込み,肩越しに耳元に囁いてきた。最初は左耳だった。

「考えてもみなよ。僕は,『お願いしますベイツ様♡』。たったそれだけ言えば,君が知りたい真実を教えるって言ってるんだよ?」

言葉の合間の息遣いまで鮮明に聞こえる程に近い距離。時折生暖かい吐息が耳を掠めて身を捩ってしまう。擽ったい様なもどかしい様な感覚に苛まれた。
次いで,左耳へ囁かれる。

「今の君に,余計なプライドを持っている余裕なんてあるのかい?大人しく僕に従うべきだよ。知りたくないのかい?どうして自分がこんな目にあっているのか」

悔しいが,全くもってその通りだった。

だが,こいつの言うことは聞きたくない。殺したい程に憎い男の言いなりになるなど,あってはならない。村の皆の為にも,服従したくは無かった。

俺は,俺はどうすれば,

「思ったより強情だなぁ。あのね、僕は別に良いんだよ?教えても教えなくても。あ、もしかして,このまま耳を舐められたりするのがご所望かな?だったらそう言ってくれれば」

「………,お願いしますベイツ様」

「え?本当に耳舐められたかったの!?」

「は!?んな訳あるか馬鹿!いいからさっさと教えてくれベイツ様!」

「あ,そっちか。あはは,言っちゃうんだね,ベイツ様って」

「うるさい。早く教えろ」

服従させられていることへの怒りと恥ずかしさで顔が真っ赤になっているのが,自分でもよく分かった。

だからこんな無様な顔を見られる事が恥の上塗りに思えて,俯いてなるべくベイツに顔が見えないようにした。

すると,突然視界が真っ暗になり何も見えなくなる。一瞬何が起きたか分からず驚いたが,少し遅れてベイツの両手が俺の目を覆っている事に気付いた。

「この方が,よく聞こえるだろう?」

後ろから声がした。どうでもいいから早く話してくれないかと思っていると,視界が塞がれたせいで敏感になっていた耳に「フーッ」と息が吹きかけられた。

「ひっ」

思わず高くて細い声を上げてしまう。反射的に手を口で抑えようとするも,両手は俺の頭の上で鎖に繋がれていた。成すすべなく,そのままで居る他無かった。

背後で大笑いしているベイツに腹に羞恥心を掻き立てられる。

「あはははは!本当面白いなぁアルファは」

「いい加減にしろよ!」

「いやぁ可愛い所もあるんだねぇ。そういうのもイける口なんだね君は。今度色々試そうか?」

「はぁ…」

溜息を吐くことしか出来なかった。不老不死で無ければ舌を噛み切って死んでいたところだ。

「ははは、ごめんごめん。じゃあ教えてあげるよ。また囁くけれど,今度は喘がないでね」

「誰が喘いで

「君をずっとここに閉じ込めておくつもりはない。時が満ちれば君を解き放とう」

「………え?」

一息に吐き出された言葉を,頭の中で反芻する。その間に,耳元で小さく息を吸い,ベイツの口は次の言葉を紡ぐ。

「僕には君を囚える義務がある。君をここに留め守り抜く事が僕の使命なんだ。だから,君を閉じ込めた」

手が離れていった。薄明るくぼやけた視界の隅から,ひょっこりとベイツが現れる。

「どうだい?これが,僕が君をここに監禁している理由」

理解が追い付かなかった。

「お前が…,俺を,守っている?」

口から零れた疑問に,ベイツが答える。

「その通り。君は狙われてるんだ。とてつもなく巨大な力から。だから僕は君を守る為閉じ込めた。これは,仕方の無いことなんだ」

それだけ言って,ベイツは俺に背を向けて出て行こうとする。たなびく黄金色の髪に,言葉を投げかける。

「お前,一体何者なんだ!?」

ベイツは振り返らずに。言葉に一切の感情を込めずに小さく答えた。まるで,何かを押し殺している様な声色だった。

「………,君にとても近しい者,かな」

後に残されたのは俺の息遣いと,ジャラジャラうるさい鎖の音だけだった。
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