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To be Magi
写水晶
しおりを挟む『依然として魔術師は国内に息を潜めてはいますが,我々王国兵団が必ずや!王国に仇なす魔術師共を捕え,血祭りに上げてみせましょう!!』
『ウォォォォォォォォォォォォォォ!!!』
ラジオから熱狂的な歓声が上がった。ディアルド王国兵団長,『レブル』の演説だ。彼は兵士としての剣戟の腕は勿論,指揮官としての才能にも秀でており,彼の采配により導かれた王国兵団により多くの魔術師達が囚われてしまった。
ミディールとラウンズも彼と戦場で邂逅した事があったらしいが,2人とも口を揃えて『魔術でどうこう出来る強さじゃない』と報告してきていた。
魔術師相手に優位に戦える人物。もしかしたら,僕を襲ってきた男同様,あの兵団長も魔術戦士なのかも知れない。仮にそうだとすれば,どうして王国兵団や黒ずくめの男の様な傭兵に魔術が伝わっているのだろうか。
魔術師の中に王国兵団達に加担する裏切り者が居るのか,はたまた王国の科学技術が魔術の再現すらも可能にしたのか。何れにせよ憂慮すべき事態である事に変わりはなかった。
少しずつだが確実に,魔術師は追い詰められている。師団長達が倒れてしまえば,最早魔術師達に反撃する力は残っていないだろう。
そうなる前に,僕は僕の目的を果たす。
アルファリウスを魔術師にするのだ。
俺が全身を鎖に繋がれた生活に逆戻りしてから何日か経った頃。
今朝辺りから,ベイツは元の身体に戻っていた。黒ずくめの男をどうしたのかと聞いたら,「君の口の中だよ」と言われて咀嚼していた朝食のビーフシチューを思わず吐き出してしまった。
冗談だろうと薄ら分かっては居ても,この男の場合必要とあらば。つまり,俺を苦しめる為ならそれをやってのけるだろう。ベイツはそういう男なのだか。そう思うと,数時間経った今でも時折吐き気を催さずにはいられなかった。
しかし,必要無い限りは絶対に人を殺めたりはしないだろう。何の証拠も無いけれど,何となくベイツを信じたくなっている自分がたまに顔を覗かせる。
『我々王国兵団が必ずや!王国に仇なす魔術師共を捕え,血祭りに上げてみせましょう!!』
垂れ流しにしていたラジオから,歓声が聞こえてきた。以前ベイツに投げつけたラジオは幸いにも壊れてはおらず,今もニュースを吐き出し続けている。
それを浴びる様に聴いている内,流れてくるのは王国兵団の活躍を褒め称えるニュースばかりで,肝心の「何故魔術師が王国兵団に攻撃されているのか」については一言も触れられていない事に気付いた。
本当に魔術師達が王国に仇なす害だというなら,魔術師達の悪行の一つや二つの報が入ってもおかしくはないだろう。だが,王国兵団の砦攻略や科学技術の発展ばかりが取り沙汰されて,魔術師の事は何も報道されない。
俺がおかしいのか?この,魔術師に一切の非が無いように思えるこの状況が。何故王国は魔術師を攻撃しているんだ?
無論,魔術師の中にはベイツみたいな,人を囚える悪人中の悪人も居るだろう。だが,それでも魔術師全体を敵と見なす理由にはなり得ない。
なら,どうして王国は魔術師を襲うのだ?
王国には何か目的があるのではないか?
何処か,胸につっかえて納得出来ない。
「此処に捕まって,何日経ったんだろうな」
俺は,ベイツと一緒に居すぎたのかも知れない。
「アップルティーは如何かな?」
「人肉が入ってないなら貰うよ」
「じゃあ諦めてもらおう」
「はぁ,頼むよ」
「分かったよ」
空間魔術で呼び寄せたポッドから,テーブルの上のティーカップへアップルティーが注がれる。もう,この光景を見るのも何度目だろうか。明確に覚えてはいないけれど,両手の指じゃあ足りないのは確実だ。
ベイツが「おやつにどうかな?」と作ってきた洋菓子,『ガレット・ブルトンヌ』。故郷でよく喰べたお菓子で,ちょうど材料が揃っていたから試しに作ってみたら美味しく出来た,と持ってきてくれた。
見た目はタルトに似ていて,バターがたっぷり使われているから食感はサクサクととても心地好く,粉砂糖の甘みの中から仄かな塩味が浮かび出てきて,そのハーモニーが何とも筆舌に尽くし難いもので,俺の口にもよく合う様だった。
夢中になって4,5個食べてしまい,口の中が少し甘ったるくなった所だったので,アップルティーの申し出はとてもありがたかった。
「どう,美味しかった?」
ベイツがティーカップを差し出しながら聞いてきた。
「不覚だけど,美味かった。昔から自分で作ってたのか?」
「いいや。昔はお祖母様が作ってくれてた。横で作り方を見ていたお陰で,自分でも何となく作れる様になっていただけさ。本当は,地元の塩を使うのが一番美味しいんだ。王国との戦いが終わったら,アルファにも喰べさせてあげたいよ」
「いいな,それ。楽しみだ」
「へぇ,楽しみなんだ?」
「~~っ,はぁ。何でもない」
フフフと満足そうに微笑みながらベイツはアップルティーを飲んだ。これもまた幾度と無く見た動作。「当たり前」になっていた。だからこそ,次の瞬間放たれたベイツの問い掛けに,俺は心底度肝を抜かれた。
「自分の村の事が気になるんでしょ」
思わずベイツの顔を見つめた。意地悪そうに口角を上げたベイツは,ティーカップを置いて立ち上がった。そして,部屋の隅の棚をガサゴソと漁り始めた。
「図星だね。最近やたら警戒が薄れてきたから仲良くなれたのかと思ったけれど,残念だよ」
「……,ラジオを聴いてて,ふと思ったんだ。魔術師を悪者にして攻撃している王国にとって,どんなに小さな村でも,あんなに無惨に焼き払われてたら大きなニュースにしたがる筈だって。そうすれば,魔術師を敵と見なす立派な理由の一つになる。でも,一度もニュースに,俺の村の事が出てきた事は無かった。なぁ,ベイツ。お前が俺を此処に囚えてから,何日が経った?」
何やら捜し物をしながら,ベイツは答えた。
「ええと…,大体半年かな。随分経ったね」
「それぐらいなら,まだ魔術師への敵対意識に火を点ける為に話題になっててもおかしくないはずだ。なのに,誰も俺の村が焼かれたあの事件について語らない。つまり,」
「君の村は滅ぼされていないと?」
ベイツが突き刺すような冷たい声で言った。棚から取り出したのか,その手には手の平にすっぽり収まるぐらいの大きさの水晶があった。
「魔術師なら,俺に幻覚の一つや二つ見せられるんじゃないか?ただ,幻覚だとして,どうしてそんな事をするのかが分からない。帰る場所が無いと俺に思わせて,服従を強いるつもり……,って訳でも無いだろう」
「凄いね。よくそこまで推理できたものだよ」
「なぁ,教えてくれ。お前は本当に俺の故郷を滅ぼしたのか?それとも,アレは幻覚か何かなのか?」
ベイツは水晶を両手で包み込む様に持ち,それを顔の前まで掲げて祈るように目を閉じた。何やら厳かな雰囲気を感じられて,俺も思わず口を閉じる。
「これは『写水晶』。ただの人間が持てば綺麗な水晶に過ぎないけれど,魔術師が自分の中の脳内イメージを注ぎ込めば,それを映像として作り上げて他者の意識の中に投影できる。つまり,自分が作った偽りの映像を他人に共有出来るって訳だよ。見せてあげよう。あの日の真実を」
ベイツが低く小さな声で何かを唱え始めた。魔術か何かを詠唱しているのかと思った次の瞬間,唐突な目眩に導かれるかのようにして,俺は意識を失った。
目を閉じる刹那,写水晶の中に炎が見えた気がした。半年前に俺から全てを奪った,忌々しきあの蒼い炎が。
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