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To be Magi
動き出す戦況
しおりを挟む「単刀直入に言おう。アルファ,君には魔術師としての才能がある。僕のように,いや,正直に言えば,君は僕よりも遥かに魔術に長けた人間なんだ」
「………,は?」
大真面目な済まし顔をしてベイツが俺を見据えた。俺はその顔から目を離せなかった。いつその顔がいつものふざけた笑顔に変わるのかと待ち望んでいた。「ま,冗談なんだけどね」と言って欲しかった。
しかしどれだけ待ってもベイツは相好を崩さず,空間魔術を使って小瓶を手のひらに呼び寄せた。鈍い蒼色の液体が入ったその小瓶に浸されていたものを,俺は知っていた。かつて,俺の一部だった,
「それ…,俺の爪か…!?」
「そう。4ヶ月程前に君から剥ぎ取った,正真正銘君の左手の中指の爪さ。ほら,見てごらん」
目の前に爪入り小瓶を突きつけられる。自分の爪がどんな形かを覚えていないので見せられても反応に困るのだが,嘘では無いのだろう。蒼い液体に浸された俺の爪が,そこにはあった。
何の為に俺から剥ぎ取ったのか全く分からなかったが,まさか取って置いていたとは。
「あの時小瓶に入っていた,黄金色のトロトロしたハチミツみたいな液体覚えてるかい?あれは『魔力反応液』と言って,魔術師の爪を漬けると蒼く変色する特殊な液体なんだ。どう,試しに舐めてみる?変色しても甘いまんまだよ」
「舐める訳無いだろ。つまり,その液体が蒼く変色してるから,俺が魔術師だって言いたいんだろ?」
「その通り。君の魔力は質も量も一級品。君は魔力の扱い方さえ学べば,僕を遥かに上回る強力な魔術師になれるんだよ」
「お前はそれを知ってて,俺を村から連れ出し捕らえたのか。俺を魔術師として育てあげる為に」
「その通り。ご存知だろうけど,現在魔術師達は王国と戦争状態にある。王国の科学力は想像以上のモノで,最早並の魔術師では太刀打ち出来ない程に王国兵団の勢力は凄まじいものになりつつある。この戦況を覆すには,天賦の才能を持つ君に戦って貰うしか無いんだ。圧倒的な力を持つ君が魔術師の王として魔術師を指揮し,勝利へと導く。これが,僕の計画だ。君を魔術師にして戦争に勝つ。その為に,今まで君を捕らえ続けてきた」
空間魔術で小瓶を仕舞い込んだベイツは,俺に背を向けた。金色の長髪が肩の辺りで靡く彼の白衣姿を,今まで憎しみの象徴だと思っていた。
俺の故郷を焼き払った蒼い炎の中垣間見たベイツの姿を。写水晶で見せられた幻覚を本当だと信じ,今日まで恨みを抱いて生きてきた。いつかここから這い出して,奴の首根っこを掻き切ってやると。
だが今,ものの10分にして,俺の約半年の想い全てが虚しいものへと変わり果ててしまった。代わりに提示された新たな未来とその重さに目が眩むようだった。
明かされた真実によって,更なる混乱へと突き落とされる感覚。俺が魔術師の王として,王国兵団と戦う?俄に信じられなかった。信じたく無かった。
故郷が無事だった事への安堵と,ここからまた未知の世界へと放り込まれる事への不安に,先刻喰べたクッキーやアップルティーを吐き出してしまいそうになった。むしろ,吐き出せてしまえたらどれだけ楽だろうか。鎖に繋がれたこの手では,喉の奥に指を突っ込み嘔吐を促す事すら許されなかった。
途方も無い程の不快感に苛まれていたその時, パチン!と指が鳴る音がしたと思うと,たちまち不快感が消え失せ吐き気も無くなっていった。
突然の事に驚き辺りを見渡すと,扉を開き男が入ってきた。黒く焦げたり裂けていたりするボロボロのコートを羽織りジーンズを履いた,深い紅色の髪の男だった。男は口の端から血を流しながら,俺を指差し言った。
「吐くのは勘弁だぜ。吐瀉物掃除する魔術なんてありゃしねえんだからな」
その言葉で,男が俺の不快感を消し去ってくれた者だと分かった。ベイツが男を見て驚愕の声を上げた。
「ラウンズ!?どうしてここに,っていうかその怪我は,大丈夫なの!?」
「大丈夫,って言いたいんだけどな」
ベイツが「ラウンズ」と呼ばれた男に駆け寄る。ラウンズは苦笑いしながら,近くの椅子に腰かけた。よく見れば切り裂かれたのか,脚からも出血しているのがジーンズに出来たドス黒いシミで分かった。
ラウンズは漸く一息吐けたのか,大きく二、三度深呼吸した後切り出した。
「すまねぇ。第2師団が壊滅した」
「なんだって…?」
ベイツが大きく口を開けたまま固まってしまった。初めて見た。ベイツがここまで驚く姿は。俺には『第2師団』とやらは分からなかったけれど,どうやら魔術師達にとって重要なものらしかった。
「どうして,前回の通信じゃ,まだ前線は保ててるって」
「オルバイトの野郎だ。お前に刺客を放ったっていう。アイツの近辺を探ってた第2師団の諜報部隊が逆に奴等に動向を掴まれ,二日前の夜半に第2師団は襲撃を受けた。向こうの部隊は随分と夜目が効く上に黒ずくめの連中ばかりで,連携と魔術を封じられた俺たちはいとも簡単にやられちまった。無論,その場で全滅した訳じゃない。俺をここへと送り届ける為に,第2師団全員が命を賭けてくれた。だから俺は奴らの包囲網を潜り抜けてお前の元へとやってこれたんだ」
「そんな……,」
「ミディールと連絡を繋いで,今後の作戦について話し合いたい。今すぐにだ。出来るか?」
「分かった。アルファ,少し席を外すよ」
椅子から立ち上がろうと腰をもたげたラウンズが,またよろめいて倒れそうになった。その肩をベイツが抱き抱えて,寄り添うようにして二人は部屋から出て行った。
「俺は……,どうすればいいんだよ」
また動き出した戦況を前に,後に残された俺は一人,項垂れている事しか出来なかった。
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