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To be Magi
HappyMerryX'mas(幕間)
しおりを挟む「お前…,何だその格好」
晩御飯が済んでから1時間ぐらい経った頃,珍しくベイツが再び俺の元へ姿を現した。しかし,何時もの白衣姿では無く,見慣れない奇っ怪な衣装に身を包んで。
「やっぱり知らないか。外国ではこの時期に『クリスマス』ってモノがあるんだよ。詳しくは分からないけれど,赤白緑の衣装を着てケーキを食べる。といった具合のモノらしいよ」
言われてみれば,ベイツの服装は赤を基調とした帽子と上下の長袖長ズボン。所々に白と緑のラインや模様が施されていて,金の長髪とよく似合っていた。普段の質素な白衣と比べるととても派手だ。
「それは分かったが,わざわざやる必要があるのか?そんな煌びやかなことをする関係か,俺達は」
「お堅い事言わないでくれよ。ケーキも作ったんだ。少し張り切って,6号のホールケーキだよ。沢山喰べようね」
「嫌だ。断る」
「諦めなよ。その気になれば魔術で君の身体を操って無理矢理咀嚼させるか,直接胃に空間魔法でケーキを送り込む事だって出来るんだからね?」
「お前悪魔か?」
「僕は一端の魔術師に過ぎないよ。悪魔と形容された魔術師は数知れず,だけどね」
空間魔術が使役され,テーブルの上に大きなホールケーキが出現した。つくづく便利な魔術だと思う。魔術師にはなりたくないが,空間魔術だけは使えるようになりたいと度々思う。
6号ということは約30センチだろうか?俺自身,ケーキにはあまり馴染みが無かった。都市に作物を売りに行った父が,時折買って帰ってきてくれる事こそあれど,あれは所謂ショートケーキだった。切り分けられる前の丸い状態を見るのは初めてだった。
ホールケーキは至極真っ当に作られていて,このふざけた魔術師が作った事を差し引けば店でも売れるのでは無いかと思う出来栄えだった。均等に置かれた赤い苺や綺麗に絞られた生クリームが輝いて見えた。
「そんなにがっついて見られると照れちゃうな。美味しそうかい?」
ベイツの揶揄う言葉でようやく,自分が鎖に繋がれたまま前傾姿勢でテーブルの上のケーキに釘付けになっていた事に気付いた。慌てて視線をケーキから逸らし,何でもない風を装う。
「そんな訳あるか。何か奇妙な薬でも入ってんだ,ぁぁ、うぐぅ!?」
反論の為に声を荒らげた俺の口に,ベイツの人差し指が突っ込まれていた。突然の事に一瞬固まる俺の咥内に,ベイツは指先に付けた生クリームを塗り始めた。舌は勿論,頬の裏側や歯まで指先でなぞられ,生クリームを塗り付けられた。
不思議な感覚にどうしていいか分からず固まるしかない俺の目の前に迫ったベイツの表情はとても楽しそうで,まるで飾り付けでもしているかのようだった。
余す所無く触る気なのか,空いている手で俺の頭を抱き抱えて丹念に咥内を弄くり回すベイツを目の前に,ようやく脳みそが「噛んでやれば良いのだ」という解答を導き出し,口を思い切り閉じて指を噛もうとした。
「おっと」
しかし読まれていたのか,ベイツは俺から離れてするりと口から指を引き抜き,俺はただガチりと歯と歯を打ち鳴らしたに過ぎなかった。
ずっと触れられていたからか口底部には唾液が溜まっていて,半ば生クリームと混ざり合ったそれを嚥下してから怒鳴りつけた。
「お前,何しやがるんだよ!」
「美味しかったかい?このケーキ,質の良い生クリームを使ってるんだよ」
そう言って,俺の口に突っ込んでいた人差し指をちゅぷりと口に含んで舌先で舐め回し始めた。さっき俺の咥内を隅々まで撫で回した様に,今度は自分の指を余す所無く舐め回すベイツに,思わず顔を顰める。
何だか,今日は一等気持ち悪くないか,コイツ。
「やっぱり。美味しい」
指を引き抜きナプキンで拭いたベイツは,空間魔術で1本のフォークを手の上に呼び出した。1本??
「じゃあ,喰べようか」
「なぁ,待ってくれ」
「ん?あぁ,紅茶の準備が出来てなかったね」
「そうじゃなくて…,はぁ」
今日のベイツは何だか少し強引に思えた。いつもの様に空間魔術でポッドとティーカップをテーブルの上に並べ,とっくに出来上がっている紅茶を注ぐ。しかし,今日の紅茶はいつものアップルティーとは香りが違った。
「ベイツ,この匂いは?」
「気付いてくれたんだね。きょうはアップルティーじゃなく,『ニルギリ』って紅茶にしたんだ。すっきりした味わいだけど甘い物にも合うそうだから,ケーキにちょうどいいと思ってね。きっとお気に召すと思うよ。はい,どうぞ」
「そうなのか』
そうなのか,では無いだろう俺。紅茶の香ばしい香りに一瞬騙されかけた。俺が言いたいのは紅茶の事では無いのだ。こいつまさか。
「じゃなくてベイツ,何でフォーク1本なんだ?俺の分は無いのか?」
「え,フォーク?」
今まさにフォークをケーキへ突き刺そうとしていたベイツが寸でのところで止まり俺を見る。そして,俺とフォークを交互に見比べ,キョトンとした顔をした。
「2人で1本使うに決まってるじゃないか。アーンしてあげるよ」
嫌な予感が的中した。冗談じゃない。正直ケーキと紅茶自体は大いに喜ばしかった。クリスマスが何だか知った事では無いが,ケーキが食べられる事自体は受け容れられた。しかし,アーンはおかしい。それは受け容れ難い。
「そもそも君は鎖に繋がれてるんだから,僕に食べさせて貰わなくちゃケーキも紅茶も喰べられないじゃないか。今に始まった事じゃないのに,何を今更嫌がっているんだい?」
言われてみればその通りなのだ。ここに囚われて数ヶ月,俺は基本的にベイツに食べさせられて食事を済ませてきた。アーンなんて山程されてきた。いつの間にか慣れてしまった自分が恥ずかしくあるが。
だから,今更嫌がる理由など無いのだけれど,何故だか今は嫌だった。間接キスだからか,はたまたケーキという特別感のあるものだからか。
ベイツを意識する自分が居る事に気が付いてしまった。
「食べたくない訳でも無いだろう?あんなに凝視してたんだから。ほら,あーん」
ベイツがケーキをフォークで切り分け差し出してきた。さっきベイツが口に含んだフォーク。そう思うと何だか照れ臭くもあったが,思い切って食べた。
ケーキ自体はとても美味しかった。ふんわりとしたスポンジケーキに,ワンホールある事を考慮したのか,甘さが控え目の生クリーム。その2つが絶妙にマッチして,正直言って父が買ってきてくれたケーキよりも美味かった。それが,少し腹立ちもするのだけれど。
「良かった。お気に召してくれたかな」
そう言いながら平然とケーキを食べるベイツが,少しばかり恨めしく思えた。今日の俺は,とことん変な気分らしい。
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