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皇位継承者
ベイツ先生
しおりを挟む何処から持ち出してきたのか,昼食を終えた俺を待ち構えていたのは大きな黒板と数冊の魔術書だった。
「では,そこに座ってくれ給え僕の生徒くん」
「黒板を見るなんて,何年ぶりだろうな」
テーブルに座ると,ベイツが机上の1冊の魔術書を指さした。それを開くと,『魔術師の起源』という大きな見出しが目に飛び込んできた。
「君は魔術師について何処まで知っている?」
「何処までって,魔術を使える,ぐらいしか」
「うーん,王国学校の高等生の方が詳しそうだね」
「俺の故郷は中等教育済ませたら後は生活に必要な知識以外学ばないんだよ」
「まぁ,魔術師始まりの地と言えど,今はそんなに魔術師と関わる事も無いだろうからね。よし,簡易的ではあれど,ベイツ先生が教えてあげよう」
ベイツは空間魔術を使い,白チョークを出した。黒板にカツカツとなにやら書いていくが,それが文字なのかただのぐちゃぐちゃした線なのかすら,俺には分からなかった。
「なぁ,それ何て書いてるんだ?」
「筆記体だけど…,もしかして知らない?」
「見たことないな。普通の字と何が違うんだ?」
「意味は同じなんだ,書き方が違うだけで。これがL,これがD。ここの綴りは『more』だよ」
「知らなかったなぁ。悪いが,普通の字で書いてもらえるか?」
「分かったよ。ゆっくりじっくり教えていこう」
「よろしく頼む」
ベイツが,黒板に書かれた文字列をチョークで指し示す。俺は手元の魔術書へ目を落とした。読めないものを見ても意味が無い。幸い,魔術書に書かれている文字は読めた。
「ディアルド王国の歴史書を参考にすると,国内における魔術師の起源はおよそ100年前。思ったより歴史は深くないんだ。しかし,たった100年程しか歴史を持たない我々魔術師は,国内各所に拠点や独自経路を確立している。王国兵団相手に長期戦が出来るほどね。これが何故か分かるかい」
「魔術を使って,常人には不可能なスピードで独自のライフラインを整備していったから,とかじゃないのか?」
「それもあるだろうね。転移魔術や空間魔術はとっても便利だからね。でも,本当の理由は,魔術師は100年以上前からディアルド王国内に存在していたからなんだよ」
「…,どういう事だ?」
「100年前,というのはあくまで国内で認知され始めた頃を指すんだよ。それより前からずっと魔術師達はディアルド国内に居て,国王達には気づかれない様に息を潜めながら,王国に頼らなくても大丈夫な様に独自の文明を築き上げていたんだ。それが今魔術師達の隠れ家になっている,アルドラド要塞を初めとした建造物なんだよ」
「つまり,昔から魔術師は国内に居たんだな」
「その通り。公に城下町等を歩き回る様になったのが100年前ってだけ。それ以前から魔術を使える人間は存在したんだ。勿論,その頃は『魔術』なんて概念が無かったから,魔術師を神として崇拝する人間も居たそうだけどね」
「魔術師の明確な起源っていうのは,結局の所分かってないのか?」
「そうだね。魔術師間の通説では,君の故郷こと始まりの地が魔術師としての文明の起源点とはされているけれど,一番最初の魔術師,とかそういうのはハッキリしていないね。分かっているだけでも,少なくとも300年前には魔術師は国内に存在したらしいよ。その頃の遺産がアルドラド要塞だ」
「あのさ,俺みたいな奴は昔から居たのか?魔術師じゃないのに,適性が高い~みたいな」
「居たと思うよ。ただ,魔術師って概念が無かったから,人間を逸脱した魔の者とか神の遣いだとか,今とは違う扱いだったけどね」
「そうなんだな」
「まぁ,どんなに魔術師に向いている人間でも,環境が整っていなければただの人間と同じ人生を歩む事になる。君みたいにね」
「俺はただの人間のままでも良かったんだけどな」
「でも君は魔術師になる事を選んだ。嬉しかったんだよ,僕。君が自ら望んでなってくれるなんて!」
満面の笑みで抱きつこうとしてくるベイツを押し退けようと,俺は全身全霊を尽くす羽目になった。
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