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皇位継承者
第1魔術師団長と第一皇子
しおりを挟む俺が産まれたのは魔術師の名家だった。潤沢な財と優れた魔術師達を抱えた両親の元で育った俺は,幼い内から様々な魔術を学び,6歳の頃には親族の中でも屈指の魔術師となっていた。将来は魔術師団長となる事も夢ではないと,周りの大人たち皆から強い期待を寄せられていた。
俺がベイツと出会ったのは,7歳の時に両親に連れられ出席した,皇族主催のささやかなパーティーだった。お互いの健康を喜び合い,魔術師の今後を憂いながら酒を交し芸に興じる大人たちの嗜みは,まだ幼かった俺には退屈に思えて仕方が無かった。
そんな時にふと目に留まったのは,俺と同じ様に退屈そうな顔をして椅子に座っていた一人の少年だった。
肩より少し上の高さで切り揃えられた綺麗な金色の髪を微かにたなびかせながら,伏し目がちに手遊びをしていた彼に,俺は声をかけた。
それがベイツだった。
ベイツは皇族の第一皇子だったが,彼はあまり魔術に長けてはいなかった。それだけならまだ良かったが,彼より3つ離れた弟。即ち第二皇子は,ベイツとは比べ物にならない程に魔力量,コントロール技術共に優れていた。
故にベイツは皇族の中ではあまり良く思われては居らず,むしろ第二皇子の方が皇位継承者として相応しいと持て囃されていた。
それはこのパーティーでも同じで,ベイツから少し離れた所に出来ていた人集り。きっとそこに第二皇子が居るのだろう。ベイツの周りには,人っ子一人居やしなかった。
だが当時の俺には,そこまで詳しい事は分かっていなかった。ただ,退屈な所に同じく退屈そうな奴が居たから声を掛けた。それ以上でもそれ以下でもなかった。
年も同じで,互いに優秀な魔術師の元で魔術の勉強をしてきた俺たち二人は,思ったよりもすぐ打ち解け合えた。
「ねぇねぇ,お父さんから聞いたんだけどさ,皇族の魔術師は蒼い炎を出せるって本当?」
「うん,出来るよ。皇族の血を引く者は,蒼色の炎を使役する事が出来るんだって。僕も,一番最初に使い方教えられたよ」
「すごいなぁ,かっこいい!」
「でも,ミディールくんもすごいよ。魔術使うのとっても上手なんでしょ?僕,パパによく言われるんだ。『お前もあの子のような,立派な魔術師を目指しなさい』って」
「そうなの?」
「うん。僕,憧れてるんだ,ミディールくんに」
その日を境に,俺とベイツは交流を深めていった。一緒に街へ出掛けたり,魔術の勉強をしたり。時には子供らしく駆け回りもした。
俺の両親は,皇族であるベイツとの交流をとても快く思っていた。
「もっと仲良くなりなさい」と。
ベイツの両親も,魔術に長けた俺と一緒に居ることがベイツにとって良い刺激になると考えたのか。転移魔術で毎日の様にベイツに会いに行く度,俺はとても歓迎された。
「いらっしゃい」「また明日もおいで」と。
俺とベイツが互いに魔術師として切磋琢磨し合いながら,親友として友情を育んていたある日,俺は両親は耳を疑う話を聞いた。
『第二皇子が皇族を追放された』
俺はすぐにベイツに会いに行った。ベイツはいつもと同じように自室のベッドに座っていた。息を切らしながら駆け込んできた俺を見てベイツは,泣きそうな顔でふにゃりと笑って言った。
「僕のせいなんだ」
追放と言っても,完全なものではなかった。第二皇子は,ベイツの弟は無事ではあるが,これまでの記憶全てを消され,代わりに偽りの記憶を植え付けられて送られたそうだ。
魔術師が最初に文明を築いた場所,【始まりの地】へ。
全てはベイツの父,魔術皇の命令によるものだった。魔術皇はかねてより,第一皇子のベイツよりも優れた力を持つ第二皇子が気にかかっていた。
魔術師の未来を真に想うのであれば,魔術師としての適性が高い第二皇子を次期魔術皇とするのが最善策である事は明白であった。優れた指導者には優れた者が集うものだからだ。
実際,魔術師団の中には『第二皇子を皇位継承者とするべきだ!』という声が多数挙がっていた。彼等も,自分達の上に立つ人間には優れた才能を求めていた。ベイツを支持する者よりも,第二皇子を支持する者の方が圧倒的に多かった。
しかし,第一皇子であるベイツが居る手前,ベイツが健在である限りは,彼を置いて第二皇子を皇座に据える事は不可能だった。もし仮に第二皇子を正統な皇位継承者とすれば,魔術師の決まりに反する事となる。それだけは避けなくてはならなかった。
かと言ってこのままベイツを皇位継承者とすれば,大なり小なり反感の声が上がるのは目に見えていた。よもすれば,魔術皇に対する反乱すら予期された。
そこで魔術皇は,第二皇子を皇族より追放することで皇位継承者をベイツ1人にする事を決断した。如何なる理由で第二皇子を追放したかは分からなかったが,魔術師団の者達が納得し受け入れた辺り,何かしら正当な理由があったのだろう。
流石に我が子を追放する事に負い目を感じていたのだろう。魔術皇自ら忘却魔術と記憶魔術を使い,始まりの地に居る知り合いの夫婦へと託したそうだった。
「つまりは,全部…,僕が弟よりも魔術が上手くなかったのが原因なんだ。悪いのは僕なんだよ。なのに,どうして弟が」
ベイツは酷く自分を責めていた。以前より魔術を上手く使えない事に悩み,俺を慕ってくれていたベイツは,こうして自分の与り知らない所でとはいえ,自分のせいで弟が記憶を消されたりした事が辛くて仕方ないようだった。
ほろほろと大粒の涙を流しながら,震える声で静かに泣くベイツに,俺はどうする事も出来なかった。
「ごめんね…,ごめんね,アルファ…」
自分を満足に責められず
親友への寄り添い方も知らず
齢8歳の俺たちは,途方も無く子供だった。
「あと少しだベイツ。待っててくれよ」
ベッドの上で眠るベイツの前で,小さく呟いた。初めて会ったあの日と同じ,思わず見蕩れてしまう程に美しい金色の髪にそっとキスをして,俺は最後の仕上げに取り掛かった。
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