魔術師と不死の男

井傘 歩

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皇位継承者

人を殺す為の魔術

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微睡みの中に揺蕩う自らの意識ををゆっくり引き揚げていくようにして目を覚ました。心地よい目覚めだった。

いつの間にかベッドに横たえられていた僕は,自分が魔力の消耗により倒れたことを遅れて悟った。だとしたら,アルファが僕をここまで運んでくれたのだろうか?お姫様抱っこでもしてくれたのかなと,少し愉快な気持ちになる。

しかし,そこに扉を開けて現れた人物に,僕は心底驚かされた。

「ミディール…!?どうして君がここに…?」

「あぁ,目が覚めたのか。ちょうど良かった」

彼はベッドの脇まで歩み寄ってくると,抱えていた服らしきものを僕へと手渡した。慌てて受け取り広げると,それは蒼い紋章が刻まれた黒のローブ。

魔術師の正装だった。

「着替えてくれ。じきに儀式を始めるからな」

「儀式…!?何を言ってるんだ,君は何をしようと」

スッと,滑らかな動きで,彼は僕の唇に人差し指を縦に添え押し付けてきた。「shut up黙って」というように。

僕は驚き固まってしまう。ふと見た彼の顔は,優しく笑っていた。しかし,その目だけは真っ直ぐに,僕のことを見据えていた。

「もう少し待っててくれ。もうすぐお前を,次の魔術皇にしてやれる」

「え…?」

戸惑う僕などお構い無しに,彼はご機嫌そうに鼻歌を歌いながら部屋を出ていった。

残された僕の頭の中は訳が分からず混乱し尽していたが,そこに浮かんで来たのはアルファだった。

「そうだ。アルファ,何処に居るんだ…!?」

俄には信じ難いが,もしもミディールが本当に僕のことを魔術皇にするつもりなら,元第二皇子であり僕よりも魔力の強いアルファの存在は無視出来ないだろう。

僕はローブを投げ捨てベッドを飛び出し,アルファを探す為部屋を出た。





俺が転がされていた1階から,2階,3階とベイツを探し続けたが,ベイツの姿は何処にも無かった。

残ったのはベイツの寝室のある4階だけだった。しかし,階段を登って行こうとする俺の眼の前に立ち塞がったのは,

「ミディール…!お前…!」

「おいおい,敬語はどうしたんだ?こちとら3つ歳上なんだが?」

「ふざけるな!ベイツを何処にやった?お前は一体何をするつもりなんだ!」

「うるさいな。お前はただ,大人しくしてればいいんだ」

奴が左手を俺に向けて翳すと,その手の平から幾筋もの雷が飛び出し俺へと殺到した。俺はそれに対して短剣を振り斬撃を飛ばす。雷と斬撃,俺とミディールの魔力がぶつかり合い,眩い閃光を発した。

「くっ!」

「流石の魔力だなぁ。だが!」

ミディールは手の内の雷を束ね,剣のようにして斬りかかってきた。魔力で作られながらもそれは普通の剣と同じ様に実体を持っており,刃が風を切る音が微かに聞こえた。

両手で持てる程に長い柄,刀身はざっと見て70センチぐらいだろうか。いずれにせよ,俺の短剣で受け止め切れるとは思えない。地を蹴って後ろへ飛び退き,奴の斬撃を躱す。

着地した俺の足首に,床を這ってきた鎖が巻き付いてきた。ミディールの魔力を帯びた,自由自在に蠢く鎖。何度見ても気分が悪くなる。

薙ぎ払う様にしてそれらを短剣で切り裂いた。いとも簡単に切り裂かれる鎖を見て,ミディールは「ほぅ」と感嘆の溜め息を漏らした。

「どうやってここまで来たのかと思っていたが…成程。そこまで魔力を扱える様になったのか」

「魔術のコントロールは出来ないけどな。でも,お前にも負けないぐらいの力はあるつもりだ」

「力で劣るならば,技術で優位に立つだけだ」

ミディールがバッと手を突き出した。何か攻撃を仕掛けてくるのかと身構えていると,突如として俺の左肩が爆発した。

「なっ…!?」

何が起こったか分からない戸惑いと痛みが同時に押し寄せてきて,思わず踞る。左肩を見ると,火傷をしたかのように皮膚が焼け爛れていて,空気が触れたり,身体を動かそうとしたりする度に酷い痛みを発した。

一体何をした?これも魔術なのか?半ばパニック状態の頭では,上手い答えを紡ぎ出せなかった。

痛みに唇を食みながらミディールを見ると,くすくすと笑いを堪えていた。吊り上がった口角が酷く恨めしく思えた。

「どうだ,初見殺しの爆裂魔術は。こいつは魔術の中でも一等性質タチが悪くてな。特定の場所に魔力を集中させて小爆発を起こすのさ。ただ,この魔術を知らない奴には相手が何をしてるかなんて分かりようが無いから,立ち止まり身構えてる所に炸裂させればまさに一撃必殺って訳だ。さきの連合国軍との戦いでも,爆裂魔術が最も多く人を殺した魔術らしい。魔術師の中でも選りすぐりの,それこそ第1師団クラスでなければ扱えないのが難点だが,随分とキくだろう?」

「ご高説賜り,感謝するよ…」

ミディールが楽しそうにペラペラ喋っている間に,何とか耐えられるぐらいまでに痛みに慣れた。右手に短剣を構え,再び身構える。

「要するに,お前が仕掛けてきたら足を止めなければいいんだろ?仕組みさえ分かれば戦いようはある!」

「甘いな。自分が今誰を相手しているか,分かってるのか?」

再びミディールが手を突き出した。俺はすぐさま駆け出し,身体強化魔術で強化した飛び蹴りをお見舞いしようとした。

しかし,両膝が俄に熱くなったかと思うと,次の瞬間肩と同じように爆発した。衝撃に体勢を崩し,うつ伏せに床へと落下してしまい,前半身。即ち,爆発した左肩と両膝を床へと打ち付けてしまった。

「ああああああああぁぁぁ!!」

身体を貫く様な激しい痛みに絶叫した。すぐさま身体を仰向けにするが,絶え間なく襲い来る痛みに涙が滲んだ。どうして,動いていたというのに俺の膝は爆発した?さっきの話は嘘だったのか?

潤んだ視界に,憎たらしい微笑みが入り込んできた。そいつはしゃがみこむと,俺の耳元で囁いてきた。

「驚いたろ?どうしてって困惑しただろ?爆裂魔術は紛れもなく『特定の場所に魔力を集中させて小爆発を起こす』魔術だ。だが,それが『一点だけ』とか『固定の場所』だなんて俺は言ったか?見てろ」

ミディールが天井へ向けて手を突き上げた。すると,俺たちの周りで幾つもの爆発が同時に発生した。小爆発とはいえ幾つも重なれば凄い規模となり,家具が倒れ床が酷く揺れた。

圧倒的な魔力の放出。これ程派手に暴れても,奴には疲労の影すら見えなかった。

その様を俺に見せつけ,ミディールは満足そうに笑った。

「俺は『複数点に同時に』爆発を起こせるし,『爆発の位置を移動させられる』んだ。だから,飛び掛ってきたお前の両膝を同時に爆破出来た。一点に集中させるのは素人のやり方だ。忘れたか?俺は『第1魔術師団団長』。自分で言うのも何だが,魔術師の中でもトップクラスの実力者だ。幾ら魔術に長けてるからって,まともに術も使えない雑魚に負ける訳が無いんだよ!」

ミディールがバチバチと激しい雷を帯びた剣を振り上げる。俺にはそれをただ見続ける事しか出来なかった。

「大人しく眠ってろ」

「くそ……っ!」

剣を振り下ろそうとしたミディールを襲ったのは,

蒼い炎だった

「くっ,なんだ!?」

「大丈夫かい,アルファ!」

ミディールに向けて手を突き出すベイツが
そこに立っていた。


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