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皇位継承者
解放
しおりを挟む「父さん。アルファを魔術師として目覚めさせる計画,僕に預けてくれないかな」
「……,良いだろう。だが,例え弟だからといって,余計な情は持つな。これは,魔術師の存亡を賭けた重大な計画なのだ。失敗は許されないぞ」
「うん,分かってる。僕に任せて,父さん」
アルファに僕との兄弟関係を明かすつもりは無かった。知っても彼は困惑するだけだろうし,僕は彼に兄らしい事を何一つ出来なかったのだから。
だから僕は,彼の隣で。
魔術皇となったアルファの隣で,ただの魔術師として彼と共に在りたかった。
だけれど,何もかもが僕の思う通りに動く筈なんて無くて,それでも足りない頭で必死に最善策を辿ってきたつもりだった。
少なくとも今この瞬間だけは,自分の決断に自分で満足していた。だって,ほら,見てくれ。
僕は初めて,兄らしい事が出来たんだ。
悲鳴を上げたくなる程の痛みを押し殺しながら,引き攣った顔した彼に,僕は笑いかけた。
ベイツの言葉にようやく我に返ったのか,ミディールが雷の剣を引き抜いた。しかし,その顔はまだ困惑で充ちており,譫言のように何かをブツブツと呟いている。
全身から力が抜けた様に倒れ込んだベイツに身を捩らせながら何とか近づこうとするが,縛られた両手両足では上手く動けず,地を這う様に床に転がってベイツに呼びかける。
「ベイツ!おい,ベイツ,しっかりしろ,ベイツ!」
早くも彼の身体の下には血溜まりが出来ていて,その傷の深さを何よりも明確に表していた。彼の薄らと開かれた目が俺を捉えたかと思うと,真っ赤に染まった口を開いて,ベイツは言葉を発した。
「ふふ…,嬉しいなぁ,アルファ。君が僕の名前を,そんなに必死に呼んでくれるなんて」
「こんな時にふざけた事言うな!」
「こんな時だからだよ…,君は僕に,死んで欲しく無い…?」
ベイツが呻いたかと思うと,また彼の口から血が溢れ出してきた。それを吐き捨てながら,彼は俺へと手を伸ばした。
「ねぇ…,答えてくれ,アルファ。君は,僕が死んだら,悲しんでくれるかい…?」
儚げに笑う彼の顔に,死の色が見えた気がした。俺は必死に,声を荒らげる。少しでも長く,奴の意識を繋ぎとめようと叫ぶ。
「当たり前だ!どれだけ長くお前と一緒に居たと思ってるんだ!?半年間も囚えられて,確かにお前が憎かった。殺してやろうとも思った。でも,お前の事を知っていく内に,少しずつお前って人間が好きになっていった。お前を信じたくなかった。だから,だから!」
思いの丈の全てを伝えられるのはきっと,
今しかないのだと思った。
今伝えなければ,一生後悔すると思った。
「死ぬな!生きて,俺と一緒に居続けてくれよ!」
涙混じりの情けない声だった。余計な感情の全てをかなぐり捨てて,目の前で微笑んでいる彼へ想いをぶつけた。それ以外に彼の意識を繋ぎ止める術を,俺は持っていなかった。
ベイツが小さく,ほっと息を吐いた。そして目を閉じて祈るように言った。
「今僕は…,とっても幸せだ。多分,この地球上で1番幸せだよ。ありがとう,アルファ。やっぱり僕は,君が好きだ」
ベイツの冷たい手のひらが,俺の頬へ触れた。
「君とずっと一緒に居られたら,どんなに良かったか。でも,これがきっと僕の運命なんだろうね。だから,最善を尽くすよ。頼むアルファ,君が,魔術皇になってくれ」
「あぁ…,任せてくれ」
頬へ添えられた手が,俄に蒼く光出した。
「ありがとう…,アルファ。これが,僕に出来る最後の事だ。父さんが封じこんだ君の魔力と紋章を解き放つ」
「まだ俺に力が…!?」
「あぁ。君を追放する時に父が君の魔力の半分と皇族の証たる紋章を封じたんだ。その力を使って,ミディールを止めてくれ」
「……,分かった」
「じゃあ…,行くよ。解放魔術…!」
ベイツの手のひらから暖かいものが流れ込んでくるような感覚がした。それは次第に身体全体へと広がっていき,次の瞬間,眩い蒼を放った。
「っ,なんだ!?」
ミディールが蒼い閃光に目を覆った。幾許かして,恐る恐る目を開けてみると,そこには片手に短剣を持ち目を閉じたアルファが立っていた。
しかし,先程と変わって彼の髪は肩まで伸び,金色に染っていた。解放された魔力の影響,真の魔力を手にしたアルファの姿はまるで…,
「ふふっ…,ベイツそっくりじゃあないか」
アルファが目を開いた。彼はまず,空間魔術を使い傍らに倒れ伏し意識を失ったベイツを部屋の隅へと転移させた。次いで短剣を手元に飛翔させ,掴んだそれに炎を纏わせた。
蒼い炎。皇族だけが使える,神聖なる火炎。
アルファはそれをいとも容易く使役していた。
アルファが短剣を1振りして,俺へと蒼い斬撃を放った。凄まじい熱気を纏うそれを避けながら,俺はアルファへ問い掛ける。
「アルファ…,お前,まさか…魔術師として覚醒したというのか…!?」
「あぁ。ベイツが俺の魔力の全てを解放してくれた。そして,お前への怒りが,俺を魔術師へと導いてくれた。感謝するよ,これでようやく,お前をぶちのめせる…!」
「……,馬鹿な…!」
眼前の化け物に俺は唖然とした。短剣が纏う蒼炎を見ればひと目でわかる尋常じゃない魔力量。それに加えて魔術師として覚醒し,自由自在に魔術を操れる…だと?
「俺は絶対にお前を許さない。行くぞ,ミディール!」
恐らく魔術師史上最強の男が,俺へ向かってきた。
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