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皇位継承者
眠らせてくれ
しおりを挟むラウンズが自力で転移魔術を使える程にまで魔力を回復したのは,日が暮れてからの事だった。
傷口からの出血がようやく治まり,痛む脚を引きずりながらもベイツ達の居る家の1階へと転移したラウンズを出迎えたのは,横たわる一人の男だった。
「よォ,アンタも魔術師かい?遅かったなァ,どうやら全部終わったぜ」
血濡れの瞳の主は,心底嬉しそうに笑った。
アルファの蒼炎がミディールへと襲いかかった。うねる火炎を雷で打ち消しながら,ミディールはアルファへ剣を振るった。
しかし,その剣はアルファへは届かない。アルファが纏う強力な魔力が,ミディールの魔力を弾き返していた。活性化されたミディールの魔力でも,完全に力を取り戻したアルファには遠く及ばなかった。
跳ね飛ばされよろめきながらも,ミディールはアルファへ鎖を差し向けた。これまでとは打って変わって,鎖達は強力な雷を帯びており,アルファを拘束すると共にその身へ電撃を走らせる,筈だった。
「無駄だ」
鎖達へ突き出したアルファの手のひらから,蒼色の魔力が放たれた。それは鎖達を飲み込み,帯びていたミディールの雷を打ち消すだけでなく,鎖達に火炎を纏わせミディールへと殺到させた。
「この…,化け物がぁ!」
迫り来る鎖達へミディールは咄嗟に爆裂魔術をぶつけた。更に威力を増した強力な爆発に鎖達は四散したが,鎖達に次いでミディールの両手が爆発した。
「なっ…!?」
すかさずアルファが放った爆裂魔術に,ミディールの両手はズタズタに裂かれた。痛みに呻きながらミディールが踞ろうとすると,次の瞬間両手が何事も無かったかのように再生していた。痛みもすっかり失せている。
何が起きたか分からないミディールが答えを求めてアルファを見ると,その手が翠を帯びていた。
「爆裂魔術と治癒魔術を連続して使った。 どんどん行くぞ」
「ふざけるなっ…!」
やられてばかりで居られるかとミディールも爆裂魔術を使おうとするが,魔力を集中させるスピードはアルファの方が遥かに早く,突き出した腕がまた爆発させられた。
「くっ,そがぁ!!」
痛みに耐えながらも集中を途切らせずにミディールはアルファへ爆裂魔術を放ったが,これもまたアルファの強力な魔力に阻まれ上手く発動せず,爆発は不発に終わった。
むしろミディールの両肩に両膝が一挙に爆発し,バランスを崩して床に倒れ伏したかと思うとまた完治していた。今や,魔力量のみならず技術においても圧倒されている事を,ミディールは身をもって教えられていた。
「お前を殺すつもりは無い。俺は魔術皇になって王国と戦う。その時に一緒に戦ってくれる魔術師が多いに越したことはない。大人しく協力してくれるなら,これ以上攻撃はしない」
床に這いつくばるミディールに,アルファは諭すように言った。対して見上げるミディールの目には,未だ闘志が宿っている。
「いいや,もう俺は止まれない。ベイツが倒れた今,俺のベイツを魔術皇にするって計画は潰えちまった。だが,お前が魔術皇になるのだけは阻止してやる。例え刺し違えてでも,お前をぶっ倒す!」
「そんな事して何になる!ベイツが喜ぶとでも思ってるのか!?」
「ベイツは関係ない!これは俺の感情の問題だ。お前が魔術皇になるなんて,俺は絶対に認めない!」
立ち上がったミディールの剣に,これまでで最も激しい雷が宿った。アルファに劣るとは言えど,ミディールの魔力は今や尋常ではない程の力を持っていた。
その凄まじい勢いに,床がグラグラと揺れるのを感じたアルファは,自らの短剣に再び蒼炎を纏わせた。こちらの火力も半端ではなく,ミディールの雷よりも猛々しく燃えていた。
「ベイツがお前に不死魔術を使ったせいで,お前を殺すことは出来ない。だが,傷は負わせられる。お前を打ち倒して,再び鎖に繋いでやる…!」
「どうして分かってくれないんだ!お前は魔術師がどうなっても良いのか!?」
「今更知ったことか!第1師団を洗脳し第2師団を潰させた時点で,俺はもう後戻り出来なくなった。今の俺には,お前を倒す以外の選択肢は無いんだよ!」
ミディールが大振りした雷の剣を,アルファの蒼炎の短剣が受け止めた。2つの剣の間で魔力と魔力がぶつかり合い,互いの腕がジンジンと痺れる。
一瞬鍔迫り合いになるが,剣の大きさを物ともせずにアルファが押し切り,ミディールを吹き飛ばした。蒼炎の熱気に飲み込まれたミディールの両腕が焼け,雷の剣が消え去った。
ミディールが焼け付く腕で雷を放つもやはりアルファには通用せず,一気に詰め寄ったアルファの斬撃をもろに受けたミディールの左肩から右の腰に掛けてが一直線に焼かれた。
仰向けに倒れ込んだミディールの両腕と身体の火傷が,アルファの治癒魔術によってたちまち回復していった。ミディールは再び立ち上がりアルファへ襲いかかろうとしたが,そのまま床に座り込んでしまった。
「………,俺の負けだ」
項垂れながら両手を挙げてミディールが降参のポーズを取った。アルファは短剣に纏わせていた蒼炎を解除しながらミディールへと歩み寄って,手を差し出した。
「アンタも力を貸してくれ。魔術師の未来を切り開くんだ」
「ふふっ…,流石は皇位継承者様だ」
そう言いながらミディールが,挙げていた両手を自分の左胸に当てた。ある種祈っている様にすら見えるその手の平へ集まる魔力。それを感じたアルファはミディールが何をしようとしているのかを悟るが,彼が止めようと動いた瞬間。
「じゃあな」
収縮された魔力の炸裂。ミディールの両手から放たれた渾身の爆裂魔術は,部屋全体へ凄まじい衝撃波を放った。
それはミディールの身を完全に消滅させただけでなく,アルファを吹き飛ばし,床や壁に亀裂を走らせ,家具達を粉々に砕いた。
衝撃波が止み,アルファは立ち上がった。凄まじい爆裂の勢いに倒れはしたものの,魔力で身を守っていたので傷は微塵も負っていなかった。
アルファはミディールが座り込んでいた場所へ歩み寄った。爆心地と化したその場所は他の床よりも一際亀裂が酷く,その破壊力を物語っていた。
「馬鹿野郎……」
アルファは部屋の隅に転がっていた彼へ目を向けた。最後の爆裂魔術が炸裂する刹那,彼の身も魔力の盾で包んでいたおかげで爆裂魔術によるダメージは無かったようだった。
その隣に立ち,アルファは彼の顔を覗き込んだ。安らかに眠っているその姿に,アルファは優しく微笑んだ。と同時に,魔力の消耗による疲れがドッと来た。思えば,1階で殺し屋のフィガロスと戦って以来,少しも休んでいなかった。
「少し…,眠らせてくれ」
彼に寄り添うように寝そべって,アルファは目を閉じた。疲労感に誘われるように,あっさりと眠りについた。
並んで眠る彼等をラウンズが見つけたのは,それから程なくしてからだった。
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