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サイドストーリー(という名の補完)
ご都合主義な魔術だな(R18気味)
しおりを挟むベッドで眠りについていた俺は,微かな息苦しさに目を覚ました。
明かりの消された寝室は仄暗く,窓から差し込む月明かりがほんのりと照らしていた。
俺に覆い被さるベイツを。
「!?」
寝惚け眼で訝しむ俺の視線に気付いたベイツが,微笑みながら顔を近づけて囁いた。寝起きで上手く身体に力が入らない俺は,それを見ている事しか出来なかった。
「ごめんね。起こしちゃったかな。そのまま寝転がっていてくれて良いよ。何なら寝てくれたって構わない」
優しげで耳を撫でるようなその声色にほのかに眠気を誘われ,再び眠りについてしまいそうになるが,眼前の状況の異常性を見過ごす訳には行かない。眠気を振り払いながらキッとベイツを睨みつける。
「こんな状況で眠れるか。人の上で何してるんだお前。降りろ。部屋から出てけ!」
そう言いながら俺の両脇の傍にあるベイツの両腕を押しのけようとするも,手に全然力が入らない。寝起きの気怠さのせいにしては長過ぎる。
それどころか,上半身を起き上がらせる事も出来ない。辛うじて腕や脚を動かしたりは出来るけれど,そこに強い力を込めたりは出来ない。明らかにおかしい自らの身体に戸惑う俺を見て,ベイツはフフっと笑みを零した。
「悪いけど,君に麻痺魔術を掛けさせて貰ったよ。痛みを感じる程に強い痺れではないだろうけれど,上手に身体が動かせないだろう?」
そう言いながら俺の頬に右手を添えてくる。僅かに身動ぎして逃れようとするが,麻痺魔術とやらを掛けられた今の俺では,マトモに動く事も叶わない。
「ほんっと…ふざけるなよお前。何する気だ?」
「だから,君は大人しくしててくれればそれで良いんだよ。僕の1人善がりに君を少しだけ使わせてもらうだけだから」
相変わらず意味の分からない事を語るベイツに心底呆れていると,突然はむりと耳朶を食まれた。
「は!?」
思わず少し裏返った驚きの声を上げてしまう。予想外も予想外。まさか耳朶を食まれる等とは考えてなかったので上手く言葉を紡げず,左の耳朶を食むベイツの唇の柔らかい感触や仄かに耳に当たる熱い吐息をただ感じている事しか出来なかった。
周りの状況も非常に良くない。暗い部屋では目が慣れたとしてもそこまでハッキリと見えはしないし,静かな郊外にあるこの家は夜間の騒音などとは無縁だ。
つまり,今俺が五感をもって感じられるものは極めて限られていて,それ故に酷く鋭く繊細に伝わってくる。
滑らかで心地好くすらあるベイツの唇が。
暖かく安らぎと擽ったさを与える吐息が。
いつの間にか俺の腹上を這い始めた指が。
(そんな所まで触るのかよ…!)
勝手に服を捲り上げて侵入してきたのか,ベイツの細くしなやかで骨張っている指が,俺のへその下辺りをさわさわと撫でていた。
それでいて口は熱心に俺の耳朶を咥えていて,ちゅぷちゅぷと水音を立て続けている。
暗闇の中でくっきりと聞こえてくるその水音に,惨めにも想像力を掻き立てられて身を震わせてしまう自分が本当に情けなかった。
流石の俺もそこまで馬鹿じゃあない。ベイツが今何をしようとしているか,どういう意図で俺の耳朶を食んだり,腹に指を這わせたりしているか,それぐらいは察しがつく。
現に,耳に当たる吐息が,少しずつだが熱っぽく,色っぽくなっているのがはっきりと分かった。思わずゾクリとしてしまう程に。
さしづめ,俺の身体を使って致そうと言ったところなのだろう。いや,此方としてはたまったもんじゃないのだが。
少しだけ。ほんの少しだけ。
満更でもない自分が居るのも事実だ。
暗闇のせいか,はたまた火照り始めた身体のせいか。ふふふ…と微かに笑う妖艶なその声すら,今の俺にはとてもよく感じられる。
「君が眠っている方が好きに出来て良いと思っていたけれど,起きているのもこれはこれで…君の反応が面白くて良いね」
「人で…遊んでんじゃねえよ…!」
「でも,嫌じゃないんだろう?」
そう囁きながら,服の中に差し込んでいた手を俺の鳩尾の辺りまで這わせてくる。
「君は感じやすいほうかな?」
「そんなの,俺が知ってると思うか…!?」
「自分の身体は自分がよく知ってる,と言うじゃないか
「感度まで知ってる訳ねえだろ…!」
「じゃあ今から確かめてみようか」
「え?」
俺が間の抜けた返事をした次の瞬間,ベイツの指先から暖かい何かが伝わってくるのを感じた。暖かく心地好いその何かは,少しずつ俺の全身へと広がって行った。
そして
「……んっ」
俺の声だった。
嬌声には程遠いが,確かに熱を帯びた声。
それが今,俺の口から漏れ出ていた。
それを自覚すると同時に,食まれていた耳にこれまでとは比べ物にならない程の快感を与えられた。
思わず腰が浮き,身を縮めてしまいそうになる程の強い快感。唐突に与えられたそれを受け止め切れず,また声が漏れてしまう。
「……はっ……んぅ」
自らが発する声にまた羞恥心を煽られる。完全にまずい状況だと言うのに,どうすれば良いか全く分からなかった。
「随分とよく効いているみたいだね。催淫魔術が」
「催淫魔術…!?」
「掛けられた者の感度を強制的に跳ね上げる魔術だよ。正直使う日が来るとは思ってなかったけれど,面白そうだから…ねぇ?」
「んな魔術あってたまるかよ…」
「でも,気持ちいいだろう?」
途端に服の内の手が動き出す。ベイツの指の動き一つ一つが,先程よりも繊細に感じられて,それだけでまた声を上げてしまいそうになる。
「さて,あんまり焦らしても可哀想だからね。ここ,触ってあげようかな」
ベイツの指先が,触れるか触れないかギリギリの所まで近付いて来ていた。控え目ながらもぷっくりとした,俺の胸の突起に。
「ねぇ,自分で触ったりした事はある?」
耳元で囁かれるその言葉が,この世の何よりも甘美なものに思えてしまった。顔を背けて,苦し紛れに呟く。
「ある訳…ねえだろ……,ばか」
「なら,癖になっちゃうかもね」
甘い声で囁かれた俺は思わず目を瞑って,ベイツの指が触れる時を待ち続けた。より強い快楽が身を襲うであろう,その瞬間を…。
頭上で鳴るジャラジャラという鎖の音が,俺の目を覚ました。
意味が分からずに目を開いた俺の目に映ったのは,数ヶ月以上閉じ込められ続けたせいで酷く見慣れた地下室だった。
俺以外誰も居ない静まり返った地下室,いつも通り吊るされたままの自分。そこまで感覚して,ようやく働き始めた頭が答えを導き出した。
「夢…だったのか…??」
さっきまで俺が見ていた…その…ベイツとの事は,夢だったのか?
よりにもよって,アイツとの情事を夢に見てしまったのか,俺は…。
「どんだけ溜まってんだよ…俺…」
自分への失望と虚しさ。ほんの少しだけの物足りなさを抱きながら,俺は夜を明かした。
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