この勇者は世界を救いません

猫男爵

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第3話 第三王女カーネリア・パルム・ウィストランテ

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「んぐ、んぐ、んぐ……。プッハァアアアアッ‼ おう、次だ、お代わりだ、ドンドン持ってこいっ‼」

 次から次へと大ジョッキを飲み干していくかたわらで、

「おらぁ~、オメーらもちゃんと飲んでるかぁ~♪」
「「「「「あったりめーよぉ~~っ♪ ギャハハハハハッ♪」」」」」

 ってなもんで、イイ感じに酔いが回ってくるような中、ソレは起こった。

「――全員っ、静まれぇえええええええっ‼」

 ビリビリビリィッ……‼

 一際デカい怒鳴り声が酒場全体に響き渡ったかと思いきや、静まり返る酔っ払い共……。

 シィーーーーーーーーーーン……。

「「「「「………?」」」」」

 と、この場にいた全員の視線が酒場の入り口に突っ立っている男へと注がれていく。

「………………」

 そこにいたのは俺と同じく、年の頃は16~18くらいの茶髪の兄ちゃん……。
 と、今しがたの横柄な命令口調もそうだが、およそ誰の目にもこんな酒場なんかには似つかわしくない雰囲気を醸し出していて……。
 そのことは野郎が着けている鎧一つとっても窺い知ることができた。
 普通、冒険者が着ける鎧ってのは、実用性を重視した上で少しでも動きやすいようにとなるたけ装飾の類はあえて省くもんなんだが……。
 野郎の鎧ときたら、コテコテに無駄に装飾などを施した豪華絢爛仕様の、如何にも貴族様が飛び上がって喜びそうな……。それこそ鎧とは名ばかりのどちらかというと美術品の類だな、ありゃあ……。ま、売ったらいい金にはなりそうだがな♪

 まぁそれはさておき、中でも何よりいけ好かねーのが、あの人を常に見下しているかのような目だ。
 あ~~、嫌だ嫌だ、絶対友達ダチにはなれないタイプだね、ありゃあ……。

 内心、そんなことを考えていた矢先、

「よぉよぉ、兄ちゃんよぉ~。静まるも何もココがどこだか判っていってんのか、オメー? 酒場だぜ、さ・か・ば‼ 騒がしいのが当たり前なんだよ、バァ~~~……」

 ドゴッ――。

「ブヘェッ!?」

 ドンガラガッシャーーーンッ‼

 絡んでいった名もなき酔っ払いAがぶっ飛ばされた挙句、テーブルにそのまま突っ込んでいった。

「フン、言いたいことはそれだけか? 平民が私の前に立つなど千年早い」

 まるで、ゴミでも見るような目で一瞥した後、コチラの方を睨みつけてくる。

「アララ~、ひっでぇヤツだなぁ……。いきなりぶん殴りやがったぜ?」

 そんな俺の感想はさておき、この兄ちゃんの態度に今までどんちゃん騒ぎをしていた酔っ払い連中が揃いも揃って殺気立っていく……。

 ジリジリと、今にも一触即発といった空気の中、

「――フェルナード、もうよいか?」

 凛としたそんな声が聞こえてきたかと思えば、

 フゥワァ~~……。

 目もあやな星屑を散りばめたような腰の辺りまで流れる金髪を揺らし、またしてもこの場に似つかわしくない絶世の美少女の登場ときたもんだ。
 とはいえ、綺麗なだけの女ならそれなりに見てきた俺だったが、何より印象的だったのがその瞳だ。美しさの中に気高さ、そして強さをも秘めているかのような赤尖晶レッド・スピネルの瞳――。
 更には、あの兄ちゃん以上の、これまたおっそろしく精巧な作りの鎧を着こんでるわけなんだが、その割には実用性までをも計算しつくされたかのような完璧な作りをしていて……。
 正直、こんな鎧、一体幾らぐらいするのか皆目見当もつかねーや……。
 しかもあの兄ちゃんと違って、ソレを嫌みなく見事に着こなしているあたりがなんともはや……。

 今の今まで殺気立ってた酔っ払い共までもが揃いも揃って謎の美少女にすっかり見惚れてやがるときたもんだ。
 ったく、男ってヤツぁ……。ホント、どいつもこいつも単純な生きもんだよなぁ~。

 と、この姉ちゃんの登場に合わせるかのように畏まった様子ですぐ近くに控えていた兄ちゃんが又しても咆えていく。

「――控えんか、無礼者どもがっ‼ このお方をどなたと心得る!?」

 ハァッ⁉ てか、知る訳ねーだろ、んなもん……。テメーは俺をストーカーかなんかだとでも思ってやがんのかよ?

「恐れ多くも偉大なるこの国の王シャルディール13世が実子にして、王位継承権第三位、カーネリア・パルム・ウィストランテ様にあらせられるぞっ‼ ええい、頭が高い、控えんかぁああああっ‼」

 だ・か・ら、知らねーっての……。誰だよ、そりゃあ?

 そんな俺とは対照的に酔っ払い連中はというと、

「「「「「か、カーネリアさまぁっ!?」」」」」

 と、その名を聞いた途端、酔っ払い連中がにわかに騒ぎ出していく。

「こ、このお方が、あ、あの……?」
「お、黄金の戦姫!?」
「ヴァルハラの戦乙女!?」

 あん? 何だそりゃあ? にしても、随分とまぁはっずかしい渾名をつけられてるもんだな……。付けたヤツのセンスを疑うね、俺は……。

 互いに顔を見合わせてそんなことを言い合っていた酔っ払い共だったが、この状況をようやっと理解したのか、次の瞬間には、そこまで真っ赤だった顔を一瞬で青ざめさせていったかと思えば、

「「「「「ハ――ハハァアアアアアアッ‼」」」」」

 ズザザザッ‼

「うわっ、び、ビックリしたぁ……」

 俺とミランダを除く酒場にいた全員が、まるで練習でもしてたかのように一糸乱れぬ動きでもって一斉にその場に跪き始めやがった。

 そんな中で、俺とミランダだけが相も変わらず何食わぬ顔でもって椅子に座ったままの状態でおり……。

「へ? だ、誰だって? ようミランダ、お前知ってっか?」
「…………アンタがさっきまで会っていた男の三番目の娘にして、この国における第三王女……。所謂いわゆるところのお姫様ってヤツだよ……」
「へぇ~~~……。お姫様、ねぇ~? って、ゲゲッ、それじゃああの国王ジジイの娘ってことかよっ⁉」
「そうなるね……」

 と、俺の脳裏にあの国王ジジイの厳つい顔が浮かんできた。

「…………ま、マジかよ? あ、あの国王ジジイにこんな綺麗な娘がいたとはねぇ~……。オーガがペガサスを生むとはこのことだなぁ……」

 この姉ちゃんの身分云々より、あの国王クソジジイの娘ってことにある意味で感心していたところでふとした疑問が浮かび上がった。

「…………ん? にしても、そんなお姫様がこんなうらぶれた酒場に一体何の用があるってんだよ?」
「うらぶれたは余計だよ。それはともかく、確かにアンタの言う通りお姫様がくるような場所じゃあないね……。にもかかわらずこんなところまで足を運んだというからには、そりゃあもう間違いなく、アンタ目当てだろうね……」
「……へ? お、俺……? な、何で俺が?」

 そんなミランダの発言に驚きを禁じ得なかった俺を余所に、

 スタスタスタスタ。

 うおっ!? お、おいおい、マジで近づいてきたよ……って、ンンッ? へぇ~~~、このお姫様、そこそこデキるな……。

 お姫様の無駄のない、軽やかな足運びを見て思わずそんな感想を抱きつつも、

 ピタッ‼

 とうとう俺のすぐ側までやってくるなり、

「お初にお目かかる、勇者ガーネット殿、だな? シャルディール13世が第三子、カーネリア・パルム・ウィストランテだ、以後見知りおき願おうか」

 とまぁ、そんな挨拶もそこそこに、 

 ガバッ――。

「カーネリア様……。これ以上は……‼」

 そういうと例によって兄ちゃんが俺とお姫様の間に割って入ってくる。

「よい、フェルナード」
「し、しかし……‼ っ、ハッ、失礼いたしました……」

 渋々承諾するも、何故か俺の方をキッと睨みつけてくる。

 チッ、いちいち鼻につくヤローだな、このバカ貴族だきゃあ……。

「失敬、さて、話の続きだが勇者殿……。父上陛下より魔王討伐の命が下されたことは聞き及んでいる。そこでだ、勇者殿……。是非、私も勇者殿のパーティーに加えていただきたく参上した次第だ――」
「え?」
「――なっ⁉」
「………………」
「「「「「…………――ハァアアアアアアアアアアアアアッ⁉」」」」」
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