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透哉「すきにされて」
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「あっつ」
類が倉庫の引き戸を開けると、外の熱気が一気に流れ込んできた。
夕方の校庭にはもうだれもいなかった。風が強く、砂埃が舞っている。
類は、おおきく伸びをしながら空を仰ぎ、気持ちよさそうに目を細めた。つられて、透哉も空を見た。
二羽の鳥が並んで飛び、校舎の向こうに消えていく。
校門は、すでに施錠されていた。
類は周囲を見回し、ふたり分の鞄をすばやく門の向こうへ放り投げた。きれいな放物線を描いていく。
「透哉、さき登って」
類が屈んで、「早く」と急かす。透哉は、遠慮がちにその背を台にして、どうにか門を乗り越えた。
手の汚れを払って、振り返ると、助走をつけた類が門を駆けあがるところだった。
ネコ科の獣のような身軽さで、てっぺんを超え、透哉の隣に着地する。
類は自分の鞄を拾いあげ、なにごともなかったかのように肩にかけた。
「もう、あと数日で夏休みなんだし。ちゃんと学校来いよ」
先生みたいな口ぶりだった。
透哉が返事をしないでいると、以前と同じ台詞をつけたした。
「いじめられたら、俺の友だちだって言いな」
透哉は、やっぱり言えないと思った。けれど。
「うん。わかった。さよなら」
と、応えた。
類は、かすかに笑って、なにか一言つぶやいた。それから、背を向け歩き出した。
路地を曲がって見えなくなるまで、一度も彼は振り返らなかった。
類がつぶやいた言葉は、「さよなら」ではなく、「うそつき」だったと透哉は思った。
了
類が倉庫の引き戸を開けると、外の熱気が一気に流れ込んできた。
夕方の校庭にはもうだれもいなかった。風が強く、砂埃が舞っている。
類は、おおきく伸びをしながら空を仰ぎ、気持ちよさそうに目を細めた。つられて、透哉も空を見た。
二羽の鳥が並んで飛び、校舎の向こうに消えていく。
校門は、すでに施錠されていた。
類は周囲を見回し、ふたり分の鞄をすばやく門の向こうへ放り投げた。きれいな放物線を描いていく。
「透哉、さき登って」
類が屈んで、「早く」と急かす。透哉は、遠慮がちにその背を台にして、どうにか門を乗り越えた。
手の汚れを払って、振り返ると、助走をつけた類が門を駆けあがるところだった。
ネコ科の獣のような身軽さで、てっぺんを超え、透哉の隣に着地する。
類は自分の鞄を拾いあげ、なにごともなかったかのように肩にかけた。
「もう、あと数日で夏休みなんだし。ちゃんと学校来いよ」
先生みたいな口ぶりだった。
透哉が返事をしないでいると、以前と同じ台詞をつけたした。
「いじめられたら、俺の友だちだって言いな」
透哉は、やっぱり言えないと思った。けれど。
「うん。わかった。さよなら」
と、応えた。
類は、かすかに笑って、なにか一言つぶやいた。それから、背を向け歩き出した。
路地を曲がって見えなくなるまで、一度も彼は振り返らなかった。
類がつぶやいた言葉は、「さよなら」ではなく、「うそつき」だったと透哉は思った。
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