鉄筋青春ロマンス

ルルオカ

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鉄筋青春カタルシス

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警察が言うには、事故死だと。
弟は工事中の鉄筋の骨組みに上り、その五階から落下して、積み重なって置かれていた鉄柱に体を打ちつけたという。

不法侵入した危険な場所で遊んでいた弟の自業自得と、警察は言いたげだったものを、俺も親も腑に落ちなかった。

というのも、塾帰りの弟は、空腹のあまり脇目もふらず家に帰ってくるのが常で、それまで一度も寄り道をしたことなんてなかったのだ。

元より、弟は高所恐怖症だし、臆病なほうだから「あの子が度胸試しするなんて思えない」と母親は、とくに違和感を拭えないようだった。

弟の納得のできない死に、親は悲しみより、やりきれなさで途方に暮れていた。
俺も同じ思いながら、人を食ったような警察の説明自体を疑ってかかり、自分のできる範囲で調べてみた。

その日と同じ曜日、時間帯に弟の塾帰りのコース、工事現場までの道のりを辿ってみて、日常的に歩いていそうな人に声をかけた。

素人の餓鬼が警察の真似事をしたところで、容易く有力情報を得られないかと思ったが、そう時間はかからず、弟が不良のような連中どもに追いかけ回されていたとの証言を数人から引きだせた。

どうして、俺がさほど苦労せて、俺は信頼ずに調べがつけられたことを、警察は把握していないのか。
単なる職務怠慢ではなく、どうにも裏がありそうに思えできる高校の教師に相談を持ちかけた。

弟を亡くしたことに同情的だった教師なので、俺の言うことも与太話と片付けることなく、最後まで聞いてくれた。

話し終わったなら「その、工事現場を仕切っているのは、どこの会社だ?」と問われた。
一応、メモを取っておいたので、それを読みあげれば、思いつめた顔をして、しばし黙りこんだもので。

しばらくして「これは俺の推測だが」と重々しい口ぶりで教師は話しだした。

「まず、弟を追いかけ回していた奴らについてな。その高校の奴らと何かあった覚えはないのか?」と聞かれて「いや」と応えたものの「相手が男とは限らないぞ」とつづいたのに、はっとした。
俺が、つい先日ふった女が同じ高校の制服を着ていた。

「じゃあ、多分、ふられた腹いせに学校の奴をけしかけだんだろ。
と、なれば、力のある奴の女なのかもな。

二股をかけようとしていたくせに、その恋人に『襲われた』って嘘を吐いたのかもしれない」

「じゃあ、俺に直接くればいいだろ。
弟は何も関係ない」

「そいつは、多少、する賢かったんじゃないか。

正直、『棟梁』のような風格があるお前と真っ向勝負するのは恐くて、だが、女の手前、何もしないわけにいかない。
だから、お前と似ていなく、断然、勝ち目がありそうな弟に目をつけた。

そいつの理屈では、自分の大事な女に乱暴したのだから、お前の大事な奴も傷つけてやるって、ことなんだろ」

「じゃあ、俺が女をふったせいなのか」と愕然としたのに、教師は何か言いかけて、一旦飲みこみ「現時点では、あくまで推測だ。お前が聞いたという証言から相手を特定して、それから話を聞かないといけない」と俺の肩を叩いた。

気休めの言葉を俺はあえて聞き入れて「さっき工事現場の会社のことを聞いたのは、どういうこと」と気を取り直し、問いかけた。

「その会社は、前に欠陥工事が発覚して、倒産に追いやられた。
倒産してから看板を架け替えて、会社の体制やらを変えないまま、今も経営をつづけている。

俺の知り合いが、そこに勤めていて、その一部始終を知ってるんだよ。
欠陥工事を反省せずに、ずさんな経営をつづけようとする会社に嫌気が差して辞めたんだけどな。

きっとまた、あの会社はやらかすって、言っていた」

「はあ?問題起して倒産して、そんなに簡単に会社をつづけられるものなのか?」

「いや、普通はできない。
できたとして、周りに信用されず仕事もこないだろうよ。

ただ、そこは普通の会社じゃない。
公共事業の仕事をやけに多く引き受けているし、もっといえば、地元選出の国会議員の弟が会社の社長だ。

おそらく、兄の国会議員の後ろ盾があって、公共事業の仕事を優先的に回してもらっているんだろ。
そうやって、食いっぱぐれないから、問題を起しても、信用を失っても、平気なのかもしれん」

他校生に追いかけ回された弟は、焦るあまり工事現場に逃げこんだのだろう。
その後、五階から落ちたのは、数人に追いつめられたのと、欠陥工事による崩落があったせいなのではないか。

そう示唆しながらも、教師は明言を避け「俺が調べて、できるだけ手を打つから、お前は下手に動くなよ」と釘を刺してきた。

当然、居ても立ってもいられなかった俺は、工事現場に不法侵入した。
が、逮捕されるのを覚悟で乗り込んだのも虚しく、工事現場はがらんどうだった。

警察もぐるになって、欠陥工事の隠蔽をはかっているのなら、厳重な警戒網が敷かれていると思ったものを。俺の考えすぎかと、思いかけたところで、ショッキングな光景を目の当たりにした。

弟が体を打ちつけたとされる、地上に置かれた鉄柱。

当たり前に弟の横たわる姿は見当たらなかったが、代わりにというか、鉄柱と鉄板が乗っかっていて、その重みで鉄柱の山が崩れていた。

頭上を見上げれば、五階部分だけ鉄筋の横の骨組みが欠けて、えぐれたように空間が開いていて。
どう見ても、その部分の鉄柱と床の鉄板が崩落したとしか思えなかった。

欠陥工事の有様をまざまざと見せつけられた俺は、教師に教えを請うまでもなく、事故の全容が掴めた。

工事現場をしきる会社は、いくら看板を架け替えたといって、二度目の欠陥工事が暴かれれば、後がなくなる。
国会議員の社長の兄も庇いきれない。

教師がいうには、その建築物は兄の国会議員が建設を後押しした公共施設だったから。
問題が明るみになった日には、国会議員の兄にまで責任追及が及び、最悪の場合は、時間を遡って癒着について問いつめられることになる。

だから、無鉄砲で浅はかな中学生が、度胸試しに工事現場に不法侵入し勝手に死んだものと、片付けたがった。
死んだのは弟の自己責任だと。

そう強調したいがために、不良に追われていたことを知りながら、警察は俺ら遺族に教えなかったのかもしれない。





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