鉄筋青春ロマンス

ルルオカ

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鉄筋青春カタルシス

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こんな陰謀論が小説や映画だけでなく、現実でまかり通るものかと、半信半疑だったが、教師に聞かせてみると、深々とうな垂れため息を吐かれた。

「考えすぎだと、言ってやれないなんてな」と呟いてから「どうする」と疲れた顔をしながらも、覚悟を決めたようにまっすぐに視線を向けてきた。

「欠陥工事について訴えるのは、かなり難しい。
警察は動いてくれなさそうだし、下手したら不良たちのことを有耶無耶にされてしまう。

お前の親父さんが公務員ともなれば、その立場が脅かされるかもしれんし。
もし、欠陥工事を置いとくなら、不良たちの責任追及だけはできるかもしれないぞ」

「そんなの納得できない。
マスコミにリークするってのは?」

「それで揺さぶれるかもしれないが、逆に相手がマスコミをけしかけて、弟の名誉を傷つけたり、お前や家族のあら探しをして叩いてくるかもしれない」

俺一人だけなら耐えられても、公務員の父親や、寝込みがちの母親に無理強いさせることも、これ以上精神的負担をかけるのも躊躇われた。

黙りこむ俺の、そんな心中を察して教師は「欠陥工事の可能性は、ご両親には黙っておけ」と助言をした。

「知ってしまっては、自暴自棄になって身の破滅を招くようなことをする可能性がある。
暴走しなかったとしても、余計にやりきれなくて辛さが増すだけだ。

弟には悪い気もするが、ご両親にはまだお前がいる。
弟の死にばかり拘るのではなく、お前に目をかけて欲しいと、俺は思う」

俺が聞いた目撃証言と、監視カメラの映像を証拠として提示し、教師は教育委員会に訴えでてくれた。
一方で俺は、欠陥工事のことは伏せて、不良にまつわる事情だけを親に知らせた。

「やっぱり・・・!そうでもなきゃ、あの子があんな危険なところに行くはずがなかったのよ!」と寝込みがちだった母親が、怒るだけの気力を取り戻したのに、教師の助言に従って良かったと思った。
の、だが。

中々、教育委員会から調査報告がされなかった。

それだけ調査が念入りにされているのかと思ったが、一ヶ月ほど待たされて、苦々しい顔をした教師から聞かされた結果はひどいものだった。

やはり教師が推測したように、首謀者の男子学生は「俺の女が、そいつにちょっかいをかけられたって、言ってきたから」と、その腹いせに弟を追いかけ回したことを認めた。

ただ、工事現場に追いつめたことは白状せず、弟がどうやって鉄筋の骨組みが落ちたか、その詳細を語ろうとはしなかった。
そこが肝のはずが、教育委員会の調査員は問いつめることなく、首謀者らに停学処分を言い渡したという。

教師から渡された報告書には「彼らはまだ子供であり、無知なことから分別がつかないこともあるでしょう。無知なのは罪ではありません。今回の件を反省し学ぶことで、彼らは更正できるものと我々は・・・・」と箸にも棒にもかからない御託が並べられていた。

真相が明らかになることを期待していた分、母親のショックは凄まじく「これだけ?人を殺しておいて?」と死人のように顔を青ざめ、書面を握る手を震わせてやまなかった。

俺も怒りを覚えていたが、母親より事情を深く知っていたので「しまった」とも思っていた。

首謀者らが口を割るつもりでいたとして、建築会社や国会議員が留めたのかもしれないと考えたのだ。
弟が落ちたときの詳細が分かれば、欠陥工事が発覚する可能性があったから。

結局のところ、端から弟の死に対し、責められるべき相手を糾弾することなどできなかったというのか。

そう思うと、怒りより無力感や虚しさのほうが勝って、書面を真っ二つに切り裂きヒステリックに絶叫をしている母親と、一緒になって荒れ狂うことができなかった。

俺が大人しいのに気づいた母親は「冷たい子」と唾を吐くように言ったものだ。

「別にあんたは、喧嘩を売ったり買ったりはしなかったけど、柄の悪い連中の目に留まりやすかったから、あの子がとばっちりを食ったんじゃない。

いっそ、思いっきりやり返して目立っていたほうが、連中はあんたばかり注目して、あの子に目をつけなかったんじゃないの?」

言いがかりだ。

たとえ、俺が女と交際したとして、少しでも女の機嫌を損なえば、遅かれ早かれ同じ手口で弟が手にかけられていただろう。

そもそも、女は二股するつもりだったのだから、どう転んでも泥沼になったに違いない。
だから、弟が死んだのは、俺が女をふったせいとは言いきれない。

俺がどういう決断や判断をしようと、事態の悪化は避けられなかったのだ。

俺に、どうすればよかったというのだ。

と、母親に問い返したかったが、口にはできなかった。
その前に父親が俺を庇ってくれたし、我に返った母親に泣き縋りつかれながら謝られもした。

分かっている。
責められるべき相手が糾弾できない、当たり前の正義が通用しない、やるせなさを、俺以外ぶつける先がなかったというのは。

かといって、母親の言葉が、全く心にもないものだとは思わなかった。

柄の悪い連中の気を引くような俺の見た目が災いの元になると思い、母親はずっと、こうなることを恐れていたのかもしれない。

その後、母親は弟の死に拘ることなく、極端に俺に過保護になった。
とはいえ、母親に優しくされるほど、あのときの言葉がより胸に深く突き刺さってくるようで、居たたまらなくてしかたなかった。

高校までは何とか共に暮らしたものの、大学進学を望む親を振りきって、卒業後は建築会社に就職し、家をでた。

家族との気まずさから逃げたようなところもありつつ、実は弟が死んでから、建築会社の就職については考えていた。
俺なりに弟の死に向き合って、心の折り合いをつけてのことだ。

正義が通用しない間違った社会をいくら嘆いても、現実が変わることはない。
というのなら、他に自分ができる範囲で現実的に変えられることをしようと思った。

もし今後、弟のように工事現場に逃げこんでくる人間がいたとして、死なせることがないよう、欠陥のない鉄筋の骨組みを作ろうと。

救いようのないクズや理不尽な社会の仕組みを恨んだところで、建設的でないし非生産的だ。
恨みにとらわれ、人生を棒に振るような真似をしては元も子もない。

母親の荒れ具合を、たまに父親から聞かされると、とくにそう思うのだが、仕事が終わって一人で鉄筋の骨組みに佇むときには、母親が羨ましくなった。
ヒステリックに狂う母親より、前向きで健全な俺のほうが薄情なのではないかと思うこともあった。

仕事中には決して命綱なしに、建物の端には寄らなかったものを、そのときはヘルメットも被らず、端に腰かけて、足を外に放りだしていた。

そうして五階の骨組みで座っていたのは、無自覚ながら、弟の死に引っ張られているところがあったのかもしれない。

意識的に飛び下りる気はなかったが、考えずにはいられなかったのだろう。

弟より俺が死んだほうがよかったのだろうかと。

自殺願望には満たないながら、そんな悲観的な思いに飲まれそうになっていたとき、目の前に現れたのが義巳だった。

義巳は汗だくで疲れきった顔をし、その背後の出入り口からは、怒号と多数の足音が聞こえていた。

幾度、頭の中で思い描いたか知れないシチュエーションだった。
そりゃあ、タイムスリップして弟が追いつめられた、その瞬間に鉢合わせたような錯覚をしないでいられなかった。

神がいたとして、俺にやり直すチャンスを与えてくれたように思えて。

俺の都合のいい解釈なのは分かっていたし、弟より義巳は男前で顔は似ていなかったが、それでも、俺ができうる限り助け守りたいと思ったのだ。




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