鉄筋青春ロマンス

ルルオカ

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鉄筋青春カタルシス

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女子に「小動物みたい」ともてはやされていた弟とは対照的に、義巳は女子から遠巻きに熱い視線を送られるような、硬派な男前だった。

一見、華奢なようで、しなやかで上質な筋肉を身につけたボクシング経験者で、その点も女子に腕相撲で負けていた弟とは似ても似つかなかった。
ただ、俺を見る目は、どこか弟を思い起こさせた。

昔から厳つい顔のせいで絶望的に学生服が似合わなかった俺だが、高校卒業して制服を着なくなってからのほうが、年齢を聞いて驚かれることが多くなった。

工事現場では責任者と間違われて、声をかけられる始末で、いよいよ「棟梁」と同僚から呼ばれるのが、冗談では済まされなくなってきたし。

年齢を知らない人間にはぎょっとされて、知る人間には笑いのネタにされる。
厳ついのは生まれつきなのだから、諦めるしかないとはいえ、いちいち過剰反応されるのが鬱陶しくないわけでもないのだ。

年齢を聞いて目を丸くした義巳にも、はじめは「またか」とため息を吐きたくなった。
が、「いいな」とつづいたのは、思いがけなかった。

見た目にそぐわない年齢に耳を疑いはしたのだろうものの、俺が高卒で働いていることのほうが気になったらしい。

その後も、見た目について、殊更どうこう言ってくることはなく、成人と未成年の線引きをやや感じさせつつも、年の近い友人として俺に接してくれていたと思う。

義巳は他の人とは違う物の見方をしているようで、弟にもそう思えるところがあった。

親でさえ、時に俺の扱いを持て余していたものを、それを見て弟は笑い飛ばしていたものだ。
「兄ちゃんって、僕より子供っぽいところあるのにな」と。

俺は自覚して、義巳に弟を重ねて見ていたし、弟の代わりに守ってやろうと思っていた。
はずが、割とはじめから、惚れていたのかもしれない。

なにせ、弟の死の一件ですっかり恋愛感情も性欲も枯らしていた俺が、出会ってから三回目で早くも義巳に手を出そうとしたのだから。

嵐が迫る屋上で金森に見得を切ったのも、相手の気を逸らすための嘘などではなかった。
その後は恋仲のようになったとはいえ、あらためて義巳に惚れこんでいるのを自覚したのは、義巳に金森について相談されたときだった。

屋上での一件があった後、再び金森と顔を合わせる機会があり、義巳は怒るでもなく嫌悪するでもなく、同情的にあいつを見ていた。

正直、癪に障って「ジムに誘ってやったら」と当てつけに言ってやったものだが、まさか後々「金森がジムに通いたいって言っているんだ」と相談されようとは。

義巳が心配していた通り、裏番町的な権威が失墜した金森は、それまで従えていた連中に追い回される羽目になっていた。
たまたま、そうやって追われている金森とでくわした義巳は、驚いたという。

「秀才でスポーツ万能の完璧なイケメン」で通っていたいたはずが、実際に走っている姿を見たところ、目も当てられないほどの運動音痴だったらしい。

スタミナもなさそうで、今のままでは連中に弄ばれてぼろ雑巾のようにされるのは目に見えている。
いくら自業自得とはいえ、あまりに一方的に弱い者苛めされるのは、いかがなものかと、どうにも義巳は放っておけないとのこと。

義巳は俺がこれまで付き合ってきた奴の中で、断とつでお人好しだった。

なんたって、金森が父親に萎縮するところを見たくらいで、ころっと騙されるほどだ。

俺には分かっていた。
金森のような人間は、どれだけ過ちを犯そうと反省せずに悪事を繰りかえす。

弟を殺した連中でさえ、大したお咎めを受けず無罪放免になったのだ。

そういった連中が世の中を舐めてかかるのも当たり前で、同じ類に思える金森が他意なく義巳に頼ってきているとは到底、思わなかった。
別に思惑があるか、悪巧みしているとしか。

嫉妬もあったのかもしれない。

ジムの手伝いをしなければならず、夕食前には帰宅したいという義巳と会える時間が少ない俺より、ジムに通うとなれば金森のほうが共に過ごす時間は長くなる。

「金森の傍には寄らないから」と言ってくれたとはいえ、「傍に寄らなくても、あいつなら、また何か仕掛けてくるぞ」と俺は引き下がらなかった。

「考えすぎだよ」と義巳も頑固なもので、俺がお前に惚れているのを知らないとでもいうのかと、思えば尚更、むしゃくしゃして、つい口を滑らせてしまった。

「ああいう奴を増長させるのは、お前のようなお節介な奴だ。
もし、あいつがまた何かしでかしたら、手を差しのべたお前のせいでもあるんだからな」

金森に屋上で脅されても取り乱さなかった義巳も、さすがに頭にきたらしい。

俺の暴言に目を見開いたのもつかの間、ふっと冷ややかな表情になったなら、何も応えずにそのまま去っていった。

俺もそのときは頭に血を上らせていたから、引き止めなかったが、少しもしないうちに、それこそ全力疾走して鉄筋の骨組みから跳びたくなったもので。

寸分の言い訳もできない八つ当たりだった。

俺が真に怒りを覚えたのは、義巳ではなく、義巳に重ねて見た、かつての悪徳教育委員会だ。

そりゃあ、弟を殺した連中を野放しにした悪徳委員会は許せなかったが、怒るのは今更だし、義巳は関係がない。
大体、金森の腹に一物があったとして、義巳を案じるべきで責めるなどお門違いもいいところ。

そう、俺は弟の代わりに、義巳を命懸けで守りたいはずだった。
だったら、後に禍根を残さないために、屋上で命綱に金森が掴んでいたバッドを放すべきだったのだ。

できなかったのは、惚れてしまったことで、義巳を弟に重ねて見きれなくなったからだろう。

おかげで使命に徹しきれず、欲がでてしまった。
もっと共に過ごしたい、話したい、知りたい、触りたい、エロいことがしたいと。

バッドを放せば、刑務所行きを免れたとしても、きっと負い目を覚える義巳と恋仲にはなれない。
そう考えて踏みとどまった俺は、弟に対し鬼のように非情なのか、鬼も呆れるような色惚けなのか。

確かなのは、俺は俺が思う以上に義巳に惚れこんでいて、その分「棟梁」と呼ばれるだけの大人気を失くしてしまうことだった。

証拠に八つ当たりを自覚して反省しつつも、俺はすぐに謝らなかった。
八つ当たりしたことは俺が十割、悪いとはいえ、どれだけ自身が惚れられているか自覚のない、義巳の無神経な態度にも問題があると考えていたからだ。

そう、弟が言うように、俺には子供っぽく、むきになりやすいところがある。

普段は「棟梁」と冗談とはいえ、呼ばれることで、何となくあだ名に見合うように物々しくふるまってしまうのだが、義巳は見る目が違うから、つい本性を覗かせてしまうのだろう。

俺にはサドっ気はないはずが、このときばかりは、義巳が痛い目にあえばいいと思った。
そうして俺の忠告が正しかったことを思い知ればいい、と。

「そらみたことか」と鼻で笑ってやれるような事態になるまで、謝るどころか、連絡を取らないつもりでいた。

金森が真剣にジムでトレーニングするわけがなく、またすぐに馬脚を現すものと見込んでいたし。
が、四日が過ぎても音沙汰なしで、余裕ぶっていた俺は早くも心が折れそうになった。

元より、会えないのは俺にもダメージなわけで、さらには会えない分の時間を金森に与えてしまっていたわけで。

そりゃあ、嫉妬でやきもきするし、連絡がないともなれば、義巳が言いくるめられて、再びその毒牙にかかりそうになっているのではと、気が気ではなかった。

六日目には、義巳が金森に犯されそうになる夢を見て、溜まりに溜まっていただけ思いっきり精液をぶちまけるという惨事を起し、「これはやばい」と慌てて義巳に連絡をした。

夢精した居たたまらなさたるや、筆舌に尽くしがたく「そらみたことか」と息巻いていたのも嘘のように「あのときは、すまなかった。どうか、俺と会ってくれ」と身も蓋もなく電話口ですがりついた。

「棟梁」の威厳も糞もない情けないざまを、笑わないのが義巳だ。
「俺も考えなしに言いすぎたと思う。あんたから、連絡がこないのが不安だった」と安堵したようなため息を隠さずに聞かせてくれた。

お詫びもありつつ、金森への対抗意識もあって、今、仕事をしている鉄筋の骨組みから夜景を見ないかと、誘ってみた。

義巳が叔父との夕食を欠かさないのは知っていたから「夕食の後でも」とすすめたのだが、「ううん。夕食は俺が作って持っていくよ」と応じられた。

「どうして」と思わず問えば、義巳が言葉を詰まらせたからに、折角の仲直りに水を差すように思えたから「明日は、夕食を一緒に食べれるの楽しみにしている」と言うに留めた。

義巳が言葉を詰まらせたのが、やや引っかかったとはいえ、夜景を見た後に俺の家で夕食をいただくというデートプランに心が踊らないわけがなかった。

といって、元々の喧嘩の発端、金森の処遇について、義巳の言い分を飲んだわけでもなく、火種をくすぶらせたままでいたのだと思う。





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