鉄筋青春ロマンス

ルルオカ

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鉄筋青春カタルシス

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電話口でと実際に顔を合わせるのとでは、かなり心持が違う。

電話では、滞りなく言葉を交わせたのが、いざ顔をつき合わせれば、「よお」「久しぶり」と挨拶するだけでもぎくしゃくし、まともに目を合わせられなかった。

夢精した俺なんかはとくにだが、義巳が気まずそうにするのにも、同じように後ろめたいことがあるのではと勘ぐったもので。
そんな、よからぬ考えが頭によぎったら、余計に口が重くなる始末。

夜景を望めばすこしは、ぎすぎすした空気がほぐれるかと思ったが、黙ったままヘルメットを被って鉄筋の骨組みの五階に上ったところで、義巳は夜景に目を見張ったようなものを、以降は柱に寄りかかってだんまり。

小さい顔はヘルメットに隠れて、その心中は推し量れず、気を揉むのに耐えられなかった俺は、またもや早々に折れて「あいつ、どうしている」と声をかけた。
顔を見れずに、夜景に向いたまま。

ことり、と音がしたのは、傾けたヘルメットを柱に当てたからなのか。
少し間を空けて、義巳はぼそぼそと応じた。

「今日は、叔父と一緒に夕飯を食べている」

電話口で夕食のことを問われ、言葉を詰まらせたのはだからかと、合点がいった。

ということは、叔父と義巳と金森の三人で食卓につく予定だったのか。

「金森の傍には寄らない」と俺に宣言した手前、おそらく義巳は、俺が誘わずとも金森と夕食を共にしなかっただろう。
そうだとしても、だ。

金森と叔父が今まさに、家の食卓で向き合っていると思えば、かなり気分はよくなかった。

俺はまだ、義巳の育ての親である叔父に、会えていないどころか、存在も知られていないというのに。

分かっている。
義巳も二人が近しくなることを望んではなく、そうかといって、屋上の件などを知らない叔父を、金森を義巳の友人と思いこんで嬉しがっている叔父を留められないのだろう、ということは。

ただ、金森に不信感がある俺にすれば、そんな義巳の弱みにつけこんで、金森が叔父を懐柔しようとしているかに思える。

やはり金森をジムに通わせるべきではなかったのだ。
と、鬼の首でもとったように、言ってやりたかったところ、どうにか俺は堪えた。

疑わしく不安な点があるとはいえ、金森と叔父が夕食を共にしただけで、鬼の首をとったと騒ぎ立てては、前に暴言を吐いたのと変わりない。

失敗を繰り返すなと、自分に言い聞かせ、義巳が俺の反応を窺っている間、口をつぐんでやり過ごした。
甲斐あって、義巳は警戒を解いたようで、口調を和らげ話しだしだ。

「金森を見ていると、不思議に思うことがあるんだ。

スポーツ万能って聞いてたから、ジムでかるいトレーニングするのにも苦戦しているのを見ると、噂なんて当てにならないなって思ったりするんだけど、それだけじゃなくて」

義巳の気を引きたくて、運動音痴のふりをしているのではないかと、疑いかけ、その疑念を払うように頭を振る。

いちいち癇に障ってはきりがないと、無心に耳を傾けるよう心がける。

「やたら周りの目を気にして、びくびくしているんだ。
ジムに入ったばかりの人は多少、萎縮することがあるけど、金森の怯え方は、被害妄想的なレベルで。

そんな具合だから、叔父に舐めてかかるんじゃないかって心配していたのも、杞憂だったよ。
逆につきっきりで指導する叔父のことを、仏でも崇めるように見て、驚くほど従順に懐いている」

ちらりと見やれば、ちょうど義巳も俺のほうに目を向けたようで、すぐさま顔を逸らした。
ヘルメットで顔を隠し「あいつ、いちいち驚いた反応をするんだ」と早口になる。

「ジムの人が『お疲れ』『頑張ってるな』って普通に声をかけるのに、びくっとなって、その後ぽーっとした顔をする。

叔父が誉めたら、信じられないって言いたげに目を丸くして、嬉しがるっていうより、不安そうにそわそわするし。
なんか、一度捨てられた犬が、新しい飼い主に優しくされて、戸惑っているみたいに見えて。

ジムの人や叔父は特別に優しくしているわけじゃなくて、当たり前にジムの一員として接しているだけだ。

なのに、金森がそんな犬みたいに戸惑うってことは、これまで、当たり前に人として扱ってもらったことがないんじゃないかって、思った」

義巳の見方は甘い、というか、捨て犬のような金森に絆されかけているのではと、思えた。

が、口を挟まずにいれば「ほら、金森のお父さんと会ったことがあるだろ」と振り返った義巳が、ヘルメットをずり落としながら俺のほうに前のめりになる。

「不肖の息子だ、できの悪い息子だって、謙遜するふりして、悪口を言っているようだった。
聞いていて気分はよくなかった。

だって、金森が言い返さないで、卑屈に笑っていたから。

今から思えば、金森はああやって、いちいち、けなされるのが当たり前でいたのかもしれない。
ジムの人たちが何気なく声をかけるみたいな、人との付き合い方があるのを知らなかったんじゃないかな」

金森を擁護するような物言いも気に食わなかったが、何が言いたいのか要領を得ない話しぶりにも、少々、苛立ちを覚える。

折角の逢引で、金森の話題を長引かせるのはいかがなものと思い「いや、知らないってことあるか?」と眉をひそめてみせた。

「あの年になったら、家族以外の人間と接する機会はいくらでもあるだろ。
あいつは別に、家で監禁されているわけじゃない」

「まあ、そうだけど」と言いつつ、義巳は不服そうだ。
またすぐにでも、くどくどしく語りそうだったから「大体、無知だとしても罪に問われないってわけじゃない」と厳しい口調で制する。

「親の教育や躾が足らなかったり、無知だからって人を傷つけていい理由にならないし、正当化もできねえよ」

そのはずだが、現実に弟を殺した連中は、子供で分別が足りないことを酌量され「更正の余地がある」として無罪放免になった。

一人に多人数が寄ってたかることが、卑怯だと知らなかったというのか。

鉄筋の骨組みの五階まで追いつめたら、どうなるか分からなかったというのか。

そんなわけがない。
そんなわけがあっては、ならない。

金森が、義巳やもう一人にした仕打にしろ、原因は優しくない父親にあると、片付けられては堪らないだろう。
そう訴えかけるように、睨みを利かしたものを、呆けた顔をして義巳は呟いた。

「そう・・・かな」



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