鉄筋青春ロマンス

ルルオカ

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鉄筋青春カタルシス

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気がつけば、腕を伸ばして義巳の肩を掴み、柱に押しつけていた。

強か背中を柱に打ちつけて唸っている間に、足の間に膝を入れて、もう片腕で胸の辺りを押さえつける。
「な」と口を開きそうになったのを、顎から鼻の下までねっとりと舐めあげて黙らせた。

とたんに身を固めて口を結んだのに、無理に舌を捻じ込ませようとせず、その唇を舌先でくすぐるように舐めた。

抗いはせずとも、しきりに目を泳がせ、ひどく困っているようなのを薄目で見つつ、おもむろに太ももで股間を擦りあげる。
「っあ!」と声をあげたところで、舌を滑らせようとすれば、すかさず唇を噛まれた。

侵入はできなかったものの、口角を上げ、舌なめずりをしてから、膨らみをなぞるように、太ももをやんわりと揺する。

深い口づけも躊躇う義巳とあって、一足飛びに直接的な刺激を与えられては、そりゃあ困りものなのだろう。

順序が違うと、抗議するように睨んできたが、快感には抗えないようで、その瞳を潤ませ、頬を艶めかせ上気させている。

そのうち、恥じ入るように顔を伏せたなら「う、ふぅ、ん」とひたすら甘い声を飲み、暴れる気力もなさそうに肩を震わせた。

硬派っぽくありながらも、男前で物腰が柔らいとなれば、女が放っておきそうにないところ。
その割に手慣れいるように見えず、作業服に震える手ですがりついて、いじらしく息を殺すさまは、初心なようで、相手が未成年なのを痛感させられるようだが、背徳感に心がくすぐられもする。

俺は顔が老けているだけでなく、心も助平親父なのだろうか。

「金森」「金森」と耳障りなのに耐え切れず、黙らせてやると実力行使をしたはずが、いざ事に及んでみれば、いたいけな相手に手ほどきをする助平親父のような心境でいる。

興奮はしても、性急にすすめようとはせず、猫が擦り寄るような加減で太ももで焦らし、襟足から覗く薄紅のうなじに吸いつく。

幾度か口付けを落としてから、歯を当てないで首を食み、生ぬるい舌を這わせれば「ん、はっ」と逃げるように、義巳は上げた顔を逸らした。

手で片頬を覆い顔を振るのを阻止しながら、首にしゃぶりつき、膨らみの下のほうに膝を当てて揺さぶった。
前に首を吸ったら、ぐずるように声を漏らしていたから、弱いのだろう。

弱点をつかれ、同時に股間を固いところで擦られたら、もうお手上げのようで、頑なに目を瞑りつつ「う、ん、はあ、あっ」と涎と喘ぎを漏らしだした。

横目に薄く口が開いているのを見止めて、首から顔のほうに舌を滑らせ、太ももを股間に強く擦りつける。
「あ、あっ・・・!」と一段と高く鳴いたのを見計らって、口内に舌を滑りこませた。

咄嗟に口を閉じられるかと思いきや、むしろ迎え入れるような動きをされたから、奥に引っこんでいる舌、目がけて、舌をもぐりこませようとしたところ。

急激に入り口が閉ざされ、ついでに歯を立てられた。

暴れたり叫んだり、分かりやすく抵抗してこなかったものだから、すっかり油断していた。
舌に走る激痛は元より、あまりの驚きに玉が縮こまるほどのショックを受けて、顔面をぶたれたように仰け反った俺は、すぐに上体を前に倒し声もなくうずくまった。

図らずも柱に寄りかかって立つ義巳に、土下座するような格好になったが、無礼を働いた直後となれば、ちょうどいい。

布擦れの音がしたのに、顔を上げてみれば、義巳が柱に寄りかかりながらしゃがみこんでいた。

俺を見る目は、怒りに燃えても責めるようでもなく、ぼんやりとしていて「現場が汚れるよ」との発言も間が抜けたものだ。

前に鉄筋の骨組みに乗りこんできた不良どもに「現場に犬の糞をなすりつけるな!」と怒鳴りつけたのを覚えているのだろう。

それにしても、他に言うことがあるだろうと呆れ「お前は、少し怒れよ」とため息を吐けば、「その言葉、そのまま返す」とため息で返された。

「回りくどく言って、あんたを誤解させた俺も悪かったよ。
俺が言いたかったのは、金森と比べると俺は恵まれているなって、改めて知ったってことだ」

「そのまま返す」と言われたのにしろ、ぴんとこないで、顔をしかめる。

「んー、なんて言うのかな」と俯いたところで、ヘルメットが被さり、鬱陶しそうにそれを頭から外してから、あらためて俺と向き合った。

「俺が当たり前だと思っていたことが、金森には叔父が仏に見えるほど感動的なことだったんだ。

不思議なもんだよな。
両親がいない俺より、ずっと恵まれていそうな金森が、逆に周りの人間に恵まれていなかったのかなって、思えるっていうのは。

で、あんたにも、金森と似ているところがある」

あいつと一緒にするな。
と、表情から伝わったのだろう、義巳は苦笑しつつ、つづける。

「高校卒業して、きちんと働いているあんたは、年が近くても、ずっと大人で偉いと思っていた。

でも、あんたも金森みたいに、子供として、きちんと大人に甘えられたことがないんじゃないか?

あんたに乱暴されるまで、気がつかなかったよ。
気づかずに金森を同情するようなことを言って、あんたを傷つけた」

子供として、きちんと大人に甘える?

またもや、ぴんとこなかったが、舌を痺れさせながらも「い、いや、気づかなかった、から、って」と言ってやる。

「気づかなかったことを言い訳にしたり正当化できない。じゃないの?」と話を蒸し返し茶化されて、う、と言葉を詰まらせたものを「人は誰しも人を傷つけないことはないんだ」とつづいたのには黙っていられなかった。

「だから、ひ、人を、恨む、なと?」

「逆だ。
あんたは人を恨めないんじゃないか?

自分に原因があるからって、考えてる。
傷つく資格はないって」

咄嗟に反論しようとして「分かるよ」とふと、寂しげな顔をされて、言葉を飲んだ。

俺が義巳を柱に押さえつけたときに、足に当たって電気式のカンテラは倒れたままでいる。
その明かりに照らされた義巳の表情は、無機質な冷たさを覚えさせ、迂闊に声をかけられないような雰囲気を醸していた。

「叔父に聞いたことがある。
母親がいなくなったのは、俺のせいなのかって。

叔父はなんて応えたと思う?
そう、お前のせいだって」

義巳の話から聞き伝わってくる叔父のイメージにはそぐわない、非情な一言だ。

傷ついている子供をさらに痛めつけるようなことをして、ひどい大人だと思ったが、義巳は首を横に振る。

「他の大人は『君のせいではない』としきりに言っていた。
でも、そう言われても、なんだか納得できなくて、叔父に聞いたのだと思う。

だから、悲しくはなくて、ただただ驚いたというか。
それに、叔父は言ってくれたんだ」

「お前が悲しいのは、お前の母親のせいだって」の一言に、何故だか胸を突かれた。

そんな俺の表情を見て、義巳はふ、と笑いを漏らし「もっと驚いたよ」と小さく肩をすくめる。

「母さんが不機嫌だったり怒ったりするときは、俺のせいだと思うことはあったけど、俺が苦しかったり辛かったりするのが、母さんのせいだと思ったことはなかったから。

ずっと、俺『だけ』が邪魔な存在だと思っていた」

人はお互いさまで、一方的に誰かが悪いことはないと、それは当たり前のはずだが、案外、気づきにくいものなのだろうか。

義巳の言うことに、腑に落ちないような、心が揺らぐような思いがして、そんな飲みこみきれない心情を見抜かれてか「叔父はこうも言ったよ」と念押しされた。

「他人というのは、身内だろうと友人だろうと、そんないいもんじゃない。
生きているだけで人を傷つけずにはいられない存在でもあるって」

「そ、そんな、こと、ないだろ。
誰にでも、す、好かれ、る、聖人のような、奴、だって、いる」

「叔父が言うには、そんなことはあるって。
聖人だって、人に劣等感や引け目を覚えさせることで傷つけている。

だから、ほら、いい人のほうが、案外、悪口を言われたりするだろ?」

舌が痺れて回らないせいもありつつ、俺はもう、何も言葉がでてこなかった。

「分かるよ」と義巳が言ったのが、身に染みたのだ。
俺も義巳のように、俺「だけ」が、邪魔な存在だと思っていたのだろう。

弟が死んだのは、俺が女をふったせいではない。
ただ、柄の悪い連中を引き寄せてしまう俺の存在そのものが、大元の原因ではあるのかもしれない。

俺が積極的に事態を悪化させたわけでないからこそ、俺の言動ではなく、俺の存在が火種になったように思えた。

極端に言えば、俺は生きているだけで、周りに悪影響を与えるのではないかと。
少なくとも、母親は俺をそういう風に見ていたようだった。

俺が災いの元であるなら、弟を追いかけまわした連中も、そいつらを野放しにした連中も、欠陥工事を隠蔽しようとした建築会社も巻きこまれたものと思えなくもなく、だから母親のように恨めなかったのだろう。

義巳の話を聞くまで気づかなかったとはいえ、今から思えば、馬鹿げた話だ。
俺が弟の死に悲しみや、やるせなさを覚えるのは、当然、そいつらのせいだというのに。

たとえ、俺が災いの元であるのに違いないとして、人のせいにできないわけではない。

誰しも人を傷つけずにいられないというのなら、俺も所詮、そのうちの一人でしかないのだから。

「この世に、俺が、いても、いいのか」

おそらく、これまでずっと、人に問いかけたく訴えたかったその言葉を、大分時間が経ちながらも、弟の死にまつわる場所、近い時間帯の暗い鉄筋の骨組みでやっと吐きだせた。

目を見張った義巳は、やおら瞼を下ろしていく合間に無表情になって「いや、あんたの存在は罪だ」と目を瞑った。

「俺、精通もまだなんだ。
でも、あんたに触られてから、その感覚が忘れられない。

あんたと出会わなければ、一生、きれいな体のままでいられたかもしれないのに」

僅かに目を開けて薄く笑いながら、手を伸ばしてくる。
頬に触れられ撫でらて、俺は肩を揺らし生唾を飲みこんだ。

今更とはいえ、義巳と弟を重ねて見るのには無理があったことを思い知らされた。

陰のある表情一つで人の劣情を掻き立てるような、俺の弟がこんなにエロいわけがなかった。





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