鉄筋青春ロマンス

ルルオカ

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鉄筋青春ロマンス

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今日は工事が休みの日だったけど、五階から見下ろせば敷地内に十数人の姿があった。

作業服ではなくスーツを着た人が目立って、従業員が集まっているのとは雰囲気が違う。

物静かで場慣れしていないように佇み、その中でスーツ姿と作業服姿の二人だけが高らかに笑い声を響かせていた。

スーツ姿のほうの傍には半そでのシャツにネクタイをした、スーツや作業服を着たのとまた違った人種がいる。
両手を広げて笑っているスーツ姿のとは対照的に肩を縮こまらせて俯いているようだった。

「ほんと、猫を被ったように大人しいな」

そう言われて、隣で見下ろす男のほうを向き「はじめ、別人かと思ったよ」と応じてから、また地上のほうに目をやる。

半そでにネクタイをしているのは金森だった。
なんでも工事現場に市長が視察をしにきたのに、ついてきたという。

事前にその予定を知っていたからに会うつもりはなかったものを、男が働く建設会社の社長に強引に引き合わせられた。

屋上での一件があった後、金森から連絡がくることなく安堵していたところだ。
顔を合わせたら、問題が再燃するのではないかと不安に思ったのだけど、「やあ、君があいつの甥っ子か」と会うやいなや満面の笑みの市長に両手で握手をされた。

どうも叔父と市長は、二人ともこの町出身で幼馴染らしい。

大人になっても付き合いがあったものの、市長に就任してからは忙しく会えなくなり、ただ「甥っ子を引き取ったことは風の便りで知っていたよ」とのことだ。

「君を引き取る前からあいつ、甥っ子は世界一可愛いって、世界一の親馬鹿みたいなことを言っていたよ。
いや、実際会ってみると、そう自慢したくなるのも分からんでもないね!」

本当にこの人が、金森が脅迫するときに掲げていた悪の権化的な人物なのか。

権力を振りかざし、どこまでも子供を庇おうとする天下の親馬鹿というイメージを持っていただけに、実際に人懐こく鷹揚そうな市長を目の当たりにして、そりゃあ目が点になった。

市長は屋上の一件を知らないのだろうし、一市民への好感度を気にして、建前でふるまっているところもあるのだろう。
それにしたって「息子も君くらいしっかりしてくれていたらな!」と傍にいた金森の腹を、割と強めに叩いたのは演技には見えなかった。

大体、市長が腹を叩くまで金森が傍にいるのに気づかなかったほど、存在感がなかったこと自体、驚きだ。

腹を叩かれて「へへ」と卑屈に笑い、一言も返せないのを見たときは、本当にあの金森か?と目を疑ったほどで。

金森の父親は、基本的に市長としてサービス精神旺盛な人だったけど、建設会社の社長と絶えず笑い肩を叩き合っているあたりは、仕事を抜きにしても意気投合しているようだった。

社長と市長の仲睦まじいさまを見れば、金森が建設会社を人質にして脅迫していたのは、果たして有効だったのか?
と首を傾げたくもなる。
金森自身もそう思うのか、社長と市長が肩を寄せ合っている傍で、居たたまらなさそうにしていた。

「あれで、どうして自信満々に人を脅せていたんだろう」

「まあ、脅しってのは半分くらいはったりと思っていたほうがいいのかもな。

そういえば、万引き未遂をした奴はどうなったんだ?
もう、あいつらに絡まれていないのか?」

事の発端になった万引き未遂をした彼とは連絡先を交換して、金森が約束を守っているか(金森は鬼ごっこの間は彼に手を出さないと約束した)、定期的に連絡をして確認していた。

その彼の近況の報告によると、金森はちょっかいをかけてくるどころか、学校にきているのかも怪しく、とんと姿を見かけないという。

万引きを強要された彼や、不毛な鬼ごっこに付き合わされた俺、無関係なのに巻き込まれた男からすれば、金森がしっぺ返しを食らっても自業自得と見なして、気に病むなくてもいいだろう。

ただ、市長から何かと「うちの息子なんて」「息子に見習って欲しい」といちゃもんをつけられ、そのたびに肩を縮めていた金森を思い出すに、ざまあみろとも思い切れなかった。

「あいつ、大丈夫かな。喧嘩弱そうだし」

「あいつって、脅迫依存症野郎?」

「脅迫依存症っって・・・まあ、さっき見た限りは、大きな怪我はしてなさそうだったけど。
相手はばりばりの不良だから」

「あいつのことなんか、気にすんな」と言われるかと思いきや「なんなら、お前の叔父さんのジムに通うことを勧めてやったら?」と返ってきた。
とはいえ、口調は冷めていたし、振り向いて見れば男は苦い顔をしている。

おまけに、すぐに「あー、今のなし!」と慌てたように言う始末。

「仕事が落着いたら俺が通うから」

俺がいる反対のほうに顔を背けるのに、覗き込むようにして「大人気ない」と笑う。

肩を揺らしてから、ふてくされた顔をして振り返った男は「年はそんなに変わらないだろ」と俺の手を引いたのだった。



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