チャラ男なんか死ねばいい

ルルオカ

文字の大きさ
16 / 35

髪を切りすぎた今日は憂鬱だ

しおりを挟む





しばらく忙しくて、髪を切りにいけず。

「もー限界!」と思い、なんとか時間をつくって、行きつけの理容店に行ったところ。

いつも切ってくれているオヤジさんは、ぎっくり腰でお休み中。
「あと一週間、お休みかな」と見習い中の息子に云われた。

「見習いで、店の手伝いをはじめたばかりの人に切らせるのは・・・。

でも、ぼさぼさの髪が鬱陶しくてしかたないし、とても一週間、待てないし、今も、時間がないし・・・」

「まあ、べつに、おしゃれヘアーは望んでないしな!」と割りきって、オヤジさんの息子さんであり、見習いのヒヨッコに切ってもらったのだが。

やっちまった。
いや、やられちまった。

「前髪は、眉毛を隠すテイドに」と伝えたつもりが、どこからどう見てもオン・ザ・眉毛。

おまけに見習い糞野郎は、注文ムシを悪びれるどころか「うん!きみ、眉毛だしだほうがいーよ!」と親指でグー!

まあ、けちをつけたり、責めたてても、どうしようもないから、きちんと代金を払い「ありがっした!また、よろしくう!」との(殺意が湧くような)チャライ挨拶に、かるく会釈し退店。

店をでて、すぐに額を手でおおい、あたりを見回した。

サイワイ、明日から二日連休だ。
たかが、二日とはいえ、すこしでも前髪が伸びるのを期待し、家族以外、会わないようにしよう!

そう心に決めて、額を隠したまま、走りだそうとしたら。

道の、壁の角を曲がろうとし、ちょうど人とばったり。
しかも、よりによって・・・。

「圭一?」

「げ」とあからさまに眉をしかめたのに、体格のいいガチムチは、気にせず、しげしげと見てくる。

見た目も中身も○ャイアンなこの男は、幼馴染の高志。

高校が別別になってからは、高志がガラのワルイ連中とつるむようになり疎遠に。
で、約一年ぶりに、まともに顔を合わせたもので。

「なにも、こんなときに・・・」と歯ぎしりしながらも、どうしたものかと惑ううちに「額、どーしたんだよ」とそりゃあ、指摘されて。
うまく、かわすスベが思いつかず、やけになって「なんでもない!」と声を張りあげ、走りだした。

喧嘩の武勇伝が漏れ聞こえてくる高志に、力で敵わないのは百も承知。

ただ、中学のころ、走る競技は俺が優っていたに「捕まらなければ、どうせ力勝負に持ちこめないしな!」とトンズラに専念。

己の脚力に懸けるだけでなく、家と家の隙間や、用水路のわき、車が入れない細い道など、裏ルートをジグザグに行き、どうにか高志をまいた。

人気のない、小さい空き地にでて、汗だくにゼエハアするのを、腕で口元をぬぐい、一息。

やや落ちつくと「俺、なにやってんだ」と我ながら、ほとほと呆れて。

こんなガチで拒絶反応をするなんて、自意識過剰だし。
なにより、つい逃げてしまうほど、いまだ過去に囚われているのが、なんとも恥ずかしい。

物心がつくか、つかないころ。

首輪がぬけた犬が襲いかかってきたのに、高志が助けてくれてことがあった。
そのころは、俺より背が低く、華奢だったのに。

感動した俺は、見惚れたまま、思わず「俺と結婚して・・・」と。

冗談でも本気でもなく、たぶん、覚えたての言葉を使いたがって「ここだ!」と思ってのこと。
意味をきちんと理解していたかは、あやしい。

しょせん、幼児の考えなしの放言だったが、それでも、高志の返事がいまだ忘れられない。

俺の乱れた前髪を両手でかきあげ「やだよ!」と満面の笑みで。

「おまえの顔、マヌケだもん!
俺、かわいー顔の子がスキだし!」

記憶をかき消すように「バカらしい」と頭をふって、上体を起し、歩きだそうとしたら。
「待てって!」と頭上から声が。

ふり返る間もなく、高いブロック塀から跳びおり、目のまえに参上した高志。

「こちとら、殺気溢れる鬼ごっこを毎日、やってんだ」

「なめるなよ?」と両手で壁ドン。

「く・・・!」と額を隠す手に力をこめるも、あっさりと手首をつかまれ、剥がされて。

顔を逸らそうとしたのを、顎を鷲ヅカミにされて、がっちり固定。
せめて目を瞑ったところで、顔を寄せられ「瞼、上げろ」と低く囁かれて、心拍数が爆上がりだは、心が揺れに揺れるは。

どうして、あの黒歴史を忘れられないんだ・・・!

あらためてクヤシサを噛みしめつつ、おそるおそる目を開けると。

「なんだ、かわいーじゃねえか」

俺の求婚を一蹴したときと、重なるような屈託ない笑顔。

たんに冷かしているのか、記憶があったうえでバカにしているのか。

どうしても、スナオに受けとめきれなくて、その表情や言葉を深読みしつつ、でも、体は正直だ。

とたんに、顔を沸騰させて硬直。
腰が抜けたようになり、壁にもたれて体を支えるのに精一杯で、ろくに口を利けず。

この場合「はあ!?」と笑いとばすか「ふざけんなよ!」と怒鳴りつけるかが、正解のところ。
茹蛸のまま、すっかり放心しては、ふつう、相手はトマドウか「キモ」と身を引くだろうに。

奥歯まで覗かせて、目がつぶれそうなほど眩い笑みを見せたなら、乱れた前髪をすこし整え、頭をぽんぽん。
その手を振りながら、背をむけ、去っていった。

しばらく、ぽかんとしてから「あ、あんにゃろおおおおおお!」と怒髪天に。
そのくせ、全身火照った体は脱力するばかりで、ずるずるとへたりこんだ。

十年も忘れられなかっただけでも充分だろ!
まだ満足しないで、俺の心を弄ぶつもりか!

胸の内で、さんざん文句をつけつつ、さっき触られた前髪を、つい、いじってしまい。

ああ、これから長いこと、たとえ高志が忘れても、オン・ザ・眉毛でいつづけるんだろうなあ・・・。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

ないない

一ノ瀬麻紀
BL
エルドと過ごす週末が、トアの何よりの楽しみだった。 もうすぐ一緒に暮らせる──そう思っていた矢先、エルドに遠征依頼が下る。 守りたい気持ちが、かつての記憶を呼び覚ます。 ✤ 『ないない』をテーマに書いたお話です。 メリバです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

【完結済】どんな姿でも、あなたを愛している。

キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。 声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。 「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」 ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。 失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。 全8話

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

処理中です...