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髪を切りすぎた今日は憂鬱だ
しおりを挟むしばらく忙しくて、髪を切りにいけず。
「もー限界!」と思い、なんとか時間をつくって、行きつけの理容店に行ったところ。
いつも切ってくれているオヤジさんは、ぎっくり腰でお休み中。
「あと一週間、お休みかな」と見習い中の息子に云われた。
「見習いで、店の手伝いをはじめたばかりの人に切らせるのは・・・。
でも、ぼさぼさの髪が鬱陶しくてしかたないし、とても一週間、待てないし、今も、時間がないし・・・」
「まあ、べつに、おしゃれヘアーは望んでないしな!」と割りきって、オヤジさんの息子さんであり、見習いのヒヨッコに切ってもらったのだが。
やっちまった。
いや、やられちまった。
「前髪は、眉毛を隠すテイドに」と伝えたつもりが、どこからどう見てもオン・ザ・眉毛。
おまけに見習い糞野郎は、注文ムシを悪びれるどころか「うん!きみ、眉毛だしだほうがいーよ!」と親指でグー!
まあ、けちをつけたり、責めたてても、どうしようもないから、きちんと代金を払い「ありがっした!また、よろしくう!」との(殺意が湧くような)チャライ挨拶に、かるく会釈し退店。
店をでて、すぐに額を手でおおい、あたりを見回した。
サイワイ、明日から二日連休だ。
たかが、二日とはいえ、すこしでも前髪が伸びるのを期待し、家族以外、会わないようにしよう!
そう心に決めて、額を隠したまま、走りだそうとしたら。
道の、壁の角を曲がろうとし、ちょうど人とばったり。
しかも、よりによって・・・。
「圭一?」
「げ」とあからさまに眉をしかめたのに、体格のいいガチムチは、気にせず、しげしげと見てくる。
見た目も中身も○ャイアンなこの男は、幼馴染の高志。
高校が別別になってからは、高志がガラのワルイ連中とつるむようになり疎遠に。
で、約一年ぶりに、まともに顔を合わせたもので。
「なにも、こんなときに・・・」と歯ぎしりしながらも、どうしたものかと惑ううちに「額、どーしたんだよ」とそりゃあ、指摘されて。
うまく、かわすスベが思いつかず、やけになって「なんでもない!」と声を張りあげ、走りだした。
喧嘩の武勇伝が漏れ聞こえてくる高志に、力で敵わないのは百も承知。
ただ、中学のころ、走る競技は俺が優っていたに「捕まらなければ、どうせ力勝負に持ちこめないしな!」とトンズラに専念。
己の脚力に懸けるだけでなく、家と家の隙間や、用水路のわき、車が入れない細い道など、裏ルートをジグザグに行き、どうにか高志をまいた。
人気のない、小さい空き地にでて、汗だくにゼエハアするのを、腕で口元をぬぐい、一息。
やや落ちつくと「俺、なにやってんだ」と我ながら、ほとほと呆れて。
こんなガチで拒絶反応をするなんて、自意識過剰だし。
なにより、つい逃げてしまうほど、いまだ過去に囚われているのが、なんとも恥ずかしい。
物心がつくか、つかないころ。
首輪がぬけた犬が襲いかかってきたのに、高志が助けてくれてことがあった。
そのころは、俺より背が低く、華奢だったのに。
感動した俺は、見惚れたまま、思わず「俺と結婚して・・・」と。
冗談でも本気でもなく、たぶん、覚えたての言葉を使いたがって「ここだ!」と思ってのこと。
意味をきちんと理解していたかは、あやしい。
しょせん、幼児の考えなしの放言だったが、それでも、高志の返事がいまだ忘れられない。
俺の乱れた前髪を両手でかきあげ「やだよ!」と満面の笑みで。
「おまえの顔、マヌケだもん!
俺、かわいー顔の子がスキだし!」
記憶をかき消すように「バカらしい」と頭をふって、上体を起し、歩きだそうとしたら。
「待てって!」と頭上から声が。
ふり返る間もなく、高いブロック塀から跳びおり、目のまえに参上した高志。
「こちとら、殺気溢れる鬼ごっこを毎日、やってんだ」
「なめるなよ?」と両手で壁ドン。
「く・・・!」と額を隠す手に力をこめるも、あっさりと手首をつかまれ、剥がされて。
顔を逸らそうとしたのを、顎を鷲ヅカミにされて、がっちり固定。
せめて目を瞑ったところで、顔を寄せられ「瞼、上げろ」と低く囁かれて、心拍数が爆上がりだは、心が揺れに揺れるは。
どうして、あの黒歴史を忘れられないんだ・・・!
あらためてクヤシサを噛みしめつつ、おそるおそる目を開けると。
「なんだ、かわいーじゃねえか」
俺の求婚を一蹴したときと、重なるような屈託ない笑顔。
たんに冷かしているのか、記憶があったうえでバカにしているのか。
どうしても、スナオに受けとめきれなくて、その表情や言葉を深読みしつつ、でも、体は正直だ。
とたんに、顔を沸騰させて硬直。
腰が抜けたようになり、壁にもたれて体を支えるのに精一杯で、ろくに口を利けず。
この場合「はあ!?」と笑いとばすか「ふざけんなよ!」と怒鳴りつけるかが、正解のところ。
茹蛸のまま、すっかり放心しては、ふつう、相手はトマドウか「キモ」と身を引くだろうに。
奥歯まで覗かせて、目がつぶれそうなほど眩い笑みを見せたなら、乱れた前髪をすこし整え、頭をぽんぽん。
その手を振りながら、背をむけ、去っていった。
しばらく、ぽかんとしてから「あ、あんにゃろおおおおおお!」と怒髪天に。
そのくせ、全身火照った体は脱力するばかりで、ずるずるとへたりこんだ。
十年も忘れられなかっただけでも充分だろ!
まだ満足しないで、俺の心を弄ぶつもりか!
胸の内で、さんざん文句をつけつつ、さっき触られた前髪を、つい、いじってしまい。
ああ、これから長いこと、たとえ高志が忘れても、オン・ザ・眉毛でいつづけるんだろうなあ・・・。
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