チャラ男なんか死ねばいい

ルルオカ

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晴れに傘をさす彼

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親がはじめて、赤ん坊の俺を外にだそうとしたとき、発作を起こし、呼吸困難になって失神したという。

そのあとも、いろいろ試してみたが、体は過剰な拒絶反応をしつづけて。

ただ、俺がよちよち歩きができるようになり、雨の日、傘を持たせたところ、あっさりと玄関の扉を突破。
それまでの外出アレルギーが嘘のように、雨が打つなか、奇声をあげて走りまわったとか。

といって、晴れの日は相変わらずだったのが、ふと親が思いつき、傘を持たせたなら。

傘をくるくる回しながら、生まれてはじめて、燦燦と太陽がそそぐ、光とヌクモリに満ちた世界に踏みだせたとのこと。

理由も原因も分からないが、傘をさせば外出ができるらしい。

傘なら、どんなものでもよく、透明のビニールでもいいに、陽光が眩しくてイヤとか、顔を隠したいとか、バリアのようなものが欲しいとか、ではないのだろう。

こういう特異な性質をもつ子供は、ふつう厄介がられるものの、なにせ、俺の親は二人とも科学者だったから。

「研究しがいのあるユニークな体質に生まれてきて、親孝行だね!」と諸手をあげて歓迎し、なんなら、俺より傘選びに熱心だったり、とことん傘の性能について調べたり、まあ、日々、タノシソウ。

なんて、好奇心旺盛な子供のように研究に没頭するだけでなく、大人らしく、まわりへの配慮も徹底してくれた。

幼稚園、小学校、中学校、高校では、入学するまえに、教員たちに事情を説明し、理解を得て、なにかあるごとに、まめに話しあいや相談。

おかげで高校まで、さほど学校側と揉めることはなく、先生から不当な扱いを受ける、イジメにあうなどの問題も起こらなかったもので。

日常の外出でも、幼いころは親も晴れの日に傘を差してくれたり、とにかく堂堂と快活にふるまってくれたから、まわりの白い目を気にしないで済んだし。

親を含めたまわりに恵まれ、人並みに平穏無事に暮せていたものの、高校になるとすこし同世代の意識や感覚がちがってくる。

とくに男子は体がむくむく成長して、女子を圧倒する筋力がついてくること、そして変にイキガルことで、意味なく、むやみやたら暴力的な行為に走りがち。

ある日の登校時。
雲一つない快晴に、傘をさして友人と話しながら、玄関にむかっていたのが、男子の集団が押しよせ、気がつけば、俺一人とり囲まれていた。

「キモイのをもっと自覚しろよ!」「このあざとい目立ちたがり屋が!」と四方から罵られつつ、傘を引っぱられて、ついには奪われてしまい。
とたんに俺は発作発動。

まえに発作を起こしたのは十年まえ以上と、久しぶりの再発とあって、俺は一人で対処しきれず、まわりも然りで、救急車呼ぶ事態になったらしい。

目撃証言によると、白目を剥いて、仰け反り、卒倒。
口から泡を吹いたまま、救急車がくるまで、水から上げられた魚のように、ずっと地面にのた打っていたという。

そりゃあ、災難な目にあったが、ホラーな発作ぶりを目の当たりにした連中も不運だったよう。
晴れの日に傘をさすのに、そこまで深刻な理由があるとは、というか「傘がないと外出できない体質」との説明を嘘だと思っていたとか。

それ以来(俺も親もオオゴトになるのを望まず、とくにお咎めを受けなかった)彼らはリベンジしてくるところか、怯えるように寄りつかなくなって。

「トラウマにならなければいいけど」と同情したほどだったので、この強襲を俺はまったく引きずらず。

以前のように晴れでも雨でも気にしないで傘を差しながら、支障なく学校生活を送っていたものを。
修学旅行にいったとき、まさか、この件が再燃しようとは・・・。

宿泊した旅館の広い畳の部屋で、雑魚寝をしていて、ふと目を覚ましたら。
だれかが起きて、布団のわきにある鞄をごごそごそ。

「盗みか?」とつい見いったものの、とりだしたのは、くたびれた犬のヌイグルミ。

へ?と思う間もなく、彼はヌイグルミに顔を埋め、心からほっとしたような吐息を。

ああ、そういえば、母から聞いたな。
俺が幼いころ、お気にいりのタオルケットを、なにがなんでも手放さかったと。

涎まみれで不衛生なのを放っておけず、一回、俺の目を盗んで洗ったら、その日は朝から晩まで口を利かなかったとか。
で、そのあとタオルケットをひしと抱きしめながらも、自分の匂いが染みこむまでは、よく眠れないでいたとか。

そういうのと同じか?
ふーん、高校生になっても、赤ちゃんみたいに繊細な心理の人もいるんだ。

そう興味深く眺めていて、その視線を覚えてか、ふりかえった相手。
目が合ったとたん、ヌイグルミを背に隠して、そのまま後ずさり、部屋からでていった。

「やべ、ワルイことしたかな」と反省しつつ「まあいいや」とうとうとして、すぐに就寝。

翌日、おそらく眠れなかっただろう、彼は青白い顔をして、あきらかに俺の目を意識し、こそこそ、おどおど。
そのくせ、ちこちらを、ちらちら窺うのがウザかったが、せっかくの旅行のルンルン気分を、台なしにしたくなくガンムシ。

その日の夜、べつの旅館での雑魚寝では、相手の位置をカクニンし、背をむけ寝てやった。

そうやって気を使いながらも、ヌイグルミについては、なんとも思っていなかったのだが。

翌朝、早く目が覚めて「そういえば、ここ立派な庭園あったな」とジャージのまま散歩へと。

うす明るい朝焼けの空のもと、傘を差したところで、例のヌイグルミのやつが「俺もいっしょにいいか」と背後から出現。

「うわ、せっかく見て見ぬふりをしたのにウザイなあ」と眉をしかめながらも、断るのもワズラワしく「いいよ」とうなずいて、早足ですたすた。

思わせぶりな態度を見せても、俺からは切りださないからな。
との思いをこめて、歩調をあわせず、見向きもせず歩いていくと、しばらくして、やっと観念したように「な、なあ・・・」と。

「どうして、みんなにヌイグルミのこと、ばらさなかったんだ?」

まえを向いたまま、ため息をし、苛ただしげに返す。

「そんなことしたって、なにがタノシイよ。
むしろ、旅行のオタノシミタイムに水をさすだけだろ」

「・・・いや、だって」ともじもじするのに、いい加減、じれったくて睨みつければ、肩を跳ねつつ「だ、だって!」と声を張りあげて曰く。

「俺、おまえから傘を奪って、失神させたから・・・!」

ぎょっと目を丸くすることしばし。
「ああ!あのときの!?」と指を差し、あらためて驚けば「ええ・・・」と呆れられて。

「おいおい、救急車までくる大騒動になったのに、覚えてなかったのか?」

「いやいや、傘を引っぱられて身を守るのに精一杯だったし。
そのあとは、すぐに意識が遠のいたし。

襲ってきたヤツの顔、いちいち、はっきりと拝む暇なんてなかったんだよ」

「あ、ああ・・・そ、そうだったな、ごめん」

あの騒動を、自ら望んでウヤムヤにして、謝罪も求めなかったのが、今更、頭を下げられるとは。

意外な相手のしおらしさに「わるいヤツじゃないのかも」と認識を改めながらも、どうにも、気まずくて「・・・にしたってさ」と話をそらす。

「おまえも、ヌイグルミのこと触れられたくないなら、こうやって仕返しされるような、結局、自分で自分の首を絞めるバカをやらかすなよ」

さらに彼はしょんぼりするも「そうだよな」と返事はしっかりとした口調。

「今となっちゃあ、もっともだと思うけど・・・。

たぶん、おまえが羨ましかったんだ。

ばれたら死ぬと思って、俺は日々、葛藤しながら自分を偽っているのに、おまえは屁でもなさそうに異常さをさらけだして、しかも、まわりに認めてもらっていたから。

俺がコワイのは、まわりにバカにされたり、ヒかれたりすることだけじゃない。
隠しごとをしているのが、まわりを、だましているようで、いつも、後ろめたいんだ。

・・・おまえには分からないだろうな」

最後に余計な一言を、と舌打ちし「バカだな、おまえ」と鼻を鳴らしながらも、傘をくるくる。

「云っとくけど、隠しごとがあるのは、おまえだけじゃないからな。
だれだって、世間さまに顔むけできないような一面、やばい秘密を抱えているんだ。

秘密を持つもの同士、お互いさまであって、一方的にだましているわけじゃないんだから、気がねしなくていいんだよ」

回る傘を見やり、眉間の皺を深めたに「おまえに云われてもな」と不服のよう。
すこしは生意気な調子をとりもどしたらしく「じゃあ」と挑発的に。

「おまえにも、晴れの日に傘をさす以外に、異常性があって、それを秘密にしているっていうのか?」

俺が言葉をつまらせるものと予想していたのだろう。
が、とたんに「あるある!」と鼻息荒く、つめ寄ってやって。

「美術の大丸先生を見るたびブチ〇したいって、興奮してしかたないんだから!
のぼせて、息を切らして、舌なめずりするの、ばれないようにゴマカスのすっげえ大変だし!

あ、これは、マジ秘密にしてくれよ。
晴れに傘を差すだけならまだしも、ガチホモって個性が合体したら、箔がつきすぎて、メンドウだからな」

「そ、そうだな・・・分かった」と頬を引きつらせつつ、うなずいた彼は、心からナットクしてくれたよう。

証拠に、約束どおり、ガチホモについて口外せず、なんなら美術の時間には、心配そうに見守って。
俺がばれそうな反応をするのと、先生の身の危険を案じ、ハラハラしているのが、もろバレ。

修学旅行で打ちあけた秘密は嘘ではないが、このごろは彼の反応を見るのがユカイなあまり、あえて、慌てさせるような挙動をしたり。

教師に劣情を抱くのと、そのことを知る彼をからかうのと・・・人目をはばからず、晴れに傘をさす俺でも、いくらだって秘密を持っているのだ。




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