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おまえがネクタイをしめなかったワケ
しおりを挟む高校の制服はブレザーだったが、俺もオサナナジミの中也もノーネクタイ。
学則のゆるーい学校なので、お咎めなく、オキラクにノーネクタイですごしていたのが、入学して半年ごろ「そういえば」と中也が、あらためて質問。
「おまえ、どーしてノーネクタイなの。
入学前は、ちゃんと結べないと、恥ずかしいって、めちゃくちゃ練習してただろ。
自分のだけじゃなくて、人のもスマートに結んで褒められたいって、さんざん俺を練習台にしたくせに」
「う」と言葉につまりつつ、たしかに、練習につきあってもらった相手だし、オサナナジミのこいつならいっかと、「いやー、そのー」と。
「スキな子に、ネクタイを結んでほしいからだよ」
「は?」
「いやあ、なあ、妹が見ていた、少女漫画原作のアニメで、そういうシーンあったの。
『やべ、結べね』って慌ててると、女の子が『しかたないわね』って結んでくれるわけ。
それを男はじいっと見ていて『できたよ』って女の子が顔をあげたとき、ばっちり目があうのよ。
そしたら、ぽっと頬を赤らめて『な、なによ』ってぶっきらぼうに云いつつ、放れたり、目を逸らさなくて。
その反応に『おまえ、かわいいな』ってチュッてするっていうね!
俺、これ、したいの!」
「へー、あー、うん、その夢かなうといいなー」とツッコむのもメンドウとばかり、中也はあきれ顔。
むっとして「じゃあ、おまえは、とくに理由あんのかよ!」と噛みつく。
「よく云うじゃん?
ネクタイは外すためにあるって(そうか?)。
俺みたいな色男は、ネクタイしていると、外したがる女子がどっと押しよせて『わたしが!』『わたしが!』ってケンカになるから、大変だろ。
そういうのを見せつけると、モテない男子諸君がかわいそうだし、へたに女子の心を惑わすのも、罪だしな」
「おまえ!俺よりふざけているな!」と怒鳴りつつ「むかつくけど、ほんとうにモテるんだよなあ」と内心、不思議がったもので。
中学にあがったころから、女子にもてはやされるようになり、たくさんの手紙、バレンタインデーにはチョコをもらったのをソバで見てきた。
俺の知らない、告白を含めれば、女子からのアプローチは数えきれないだろう。
やっかむのを通り越し「少女漫画のモテキャラみたいのが、現実にいるんかい!」と呆れたが、漫画とちがって、中也には、まったく恋愛フラグが立たない。
モテるようになってから、一回も交際したことがないし、女子とはふつうに接しつつ、距離をとっている傾向が。
ネクタイをしないワケは鵜呑みにできないとはいえ、女子と恋愛沙汰にならないよう、気をつけているのはマジなのかも。
それにしても、モテ期にレッツパーリーしないなんて「同性がスキとか?」「やだ!まさか俺!?」と冗談ながらに思うほど、理解不能。
「ムダにしている分、俺にモテ期をよこせ!」と嫉妬するより、ぶーたれていたのが・・・。
それから、すこし経って、俺は中也のネクタイを結んでいた。
学校ではなく、俺の家で、だ。
結びおわっても顔をあげずに、伏せたままでいると、その頭に顎を乗せたようで、そのまま「ありがとな」と。
すぐに退いて「二人とも行くわよー!」との呼びかけに「わかったって!」と返し、階段を下りていった。
今日は俺の姉の結婚式。
俺たちは制服で参加することになり、さすがにネクタイをしないわけにいかず。
で、俺とちがい、ノー練習でノーネクタイだった中也は、お手上げ。
しかたなく、結んでやったところ、ダブルパンチで衝撃的事実が発覚するとは。
今まで見たことない、さびしそうな顔をした中也の恋心。
ネクタイを結ぶ独特な距離感に、どきりとして自覚したのもつかの間、その顔を見て、ヒビがはいった俺の恋心。
その心境からして、中也の失恋をよろこべばいいところ、そうもいかず。
学校でノーネクタイでいたワケを思い知ったから。
そう、高校入学のころには、すでに姉が婚約をしていたのだ。
それまで中也をノーネクタイでいさせた姉が妬ましく憎たらしくありながら、その一途さと健気さがあっての、今の傷心ぶりを見るに、泣きたくなるほど、哀れまずにはいられなかった。
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