チャラ男なんか死ねばいい

ルルオカ

文字の大きさ
28 / 35

察しのいい俺と察しのわるい彼

しおりを挟む



俺は察しがいい。

たぶん、血のつながりのない父との生活で培われたのだと思う。
母の再婚相手の義父はいい人なれど、なんだかんだ先読みしたり、気を回したり、相手の思考を見極め、シンチョウに判断していたから。

まあ、そうして鍛えられたおかげで、学校生活にも応用を利かせることができ、人間関係で困ることはなかった。

たとえば、友人にジュースを差しだされ「どっちがいい?」と聞かれたとき。

片方のジュースをちらちら見ているのに気づき、もう一つのを選ぶ。
たとえ、さして飲みたくないものでも。

こうやって一応、選択肢を与えつつも、相手が「どっちでもいい」わけでないことが多い。

そのことを踏まえ、本命を見極めて、ほぼ外すことなく、スムーズに快くユズルから、相手は大満足。
「俺が見ぬいたんだぞ」とひけらかさなくても「こいつ、いいやつだな」と好感を持ってくれる。

また、男子にとって扱いが難しいとされる、女子とのつきあいも、なんのその。

「もーこれだから、男子はー」と女子軍団が、不服を申し立てたとき。

ターゲットの相手にさほど非がない、女子の理不尽ないちゃもんでも、そのことをまっこうから指摘するのは、ましてや「これだから女子は―」とおうむ返しするのはご法度。

「もーほんとだよなー」「俺ら男子が情けなくて、マジごめんー」とここは一旦、降参。

女子とイッショになってターゲットを吊し上げるのは、裏切りのように思えるが、そのあとに相手にあらためて聞いてみる。

「おまえ、ほかに、あの子を怒らせるようなこと、したんじゃないか?
で、そんとき、謝らなかったんじゃないか?」

たいてい、相手には心当りがあり「だからかあ」と天を仰ぐ。

気まぐれに女子が男子を火あぶりにしているように思えても、なんらかの理由がある。
そのことに気がつけば、ターゲットはナットクするし、女子もおさまりがつくというもの。

そのことを心得え、これまで何回も女子と男子のトラブルを解決したに「高木くんって女心、分かっているよねー」と女子に慕われ、男子からも(女子と揉めたときの)相談役として頼りにされ、クラスの居心地はいい。

いわゆる空気を読めるのが、秀でているあたり「空気清浄機」と呼ばれていたのが、クラスには俺のように空気を浄化する者がいれば、ぶち壊す者もいる。

俺とは対照的に、ずばぬけて察しのワルイ、坂本だ。

まえ二つの例でいうと「どっちがいい?」と聞かれて(イジワルをするように)ほぼ相手の欲しいのを選んでしまうし。

複雑な女心を汲みとらないで「多勢に無勢は卑怯だろ。女子だからって大目に見られると思うなよ」と正論を噛ますから、女子を敵に回すし。

「人の気もちが分からない冷たいヤツ」「ノリも感じも性格もワルー」とけちをつけられても、澄まし顔で聞き流し、そのマイペースぶりにぶれがない。
空気を読まず、ずばずば物を云うので、オソレラレテいるところもあり、イジメられはしていないが、親しい人は限られていた。

俺とは真逆な性格だからか、どうにも相手にするのが得意でなく、それまで近寄らなかったのが。

国語の課題提出が遅れ、職員室にプリントを持っていったところ。

いつも、ぶっきらぼうな国語教師が、あきらかに不機嫌そうで「先生、課題を」と呼びかけても、見向きもせず「そこに置いとけ」と。

触らぬ神に祟りなしと、そそくさと退散しようとしたら、どうもプリントを見たらしく「おい、おまえはどう思う?」と顎をしゃくられた。

「どうして、Kが自殺したのか」

題材、夏目漱石の「こころ」についての問いだ。

正直な答えは「分からない」だったが、腹の虫の居所がワルイ先生は、お気に召さず「おまえ生意気だな」と理由もなく殴るような暴言を吐くかもしれない。

賢くぶってもアウトだろうと、短い間にあれこれ考えて、結果、ブナンな答えを。

「先生に裏切られたと思ってショックだったんじゃないですか」

癇に障らないよう、あえて飄々と云ったのが「おまえ、つまらないな!」とにわかに喚きたて、嘲られて。

「俺の顔色を窺ってんじゃねーよ!」

鼻を鳴らしたなら、すぐにデスクに向きなおり、俺を放置。

そりゃあ、呆気にとられたが、だんだん飲みこめてきて、さらに周囲の視線を覚えて、とたんに頭を沸騰。

真っ赤になっただろう顔をうつむけ、先生から背をむけて早足で去ろうとしたら、途中で、坂本とすれちがった。
その瞬間、ちらりと手に持つプリントが見えたに、俺と同じ用だろう。

「空気を読めない坂本はどうするかな」と気になったのと、むしゃくしゃしていたから「あいつも恥をかけばいい」と八つ当たり的に思い、職員室の出入り口付近で待機し、盗み聞き。

先生のデスクは職員室から近く、二人のやりとりは聞こえ、案の定「どうしてKが死んだと思う」と同じ問いを。
これまた俺と同じく、一呼吸おいてから坂本が答えたことには「分からないですね」と。

「俺、はっきりと分かりやすく言葉にして伝えてくれないと、人の感情や思考を理解できないんで。

だから、文学って得意じゃないんスよね。
回りくどくて、あいまいで、思わせぶりな書き方ばっかして『だから、なに?』ってチンプンカンプンで」

癇癪もちの気難しい国語の教師に、なんというオソレオオイ真正直な意見を。
「俺と同じ目にあえばいい」とほくそ笑んでいたのを、さすがにその身を案じたのだが「ははははは!」と耳をつんざいて。

「なんだ、おまえ、オモシレーやつじゃねえの!」

俺を蔑んだのとちがい、なんとも痛快げな笑い。

「心配して損した」とほっとするより、さらなる屈辱を覚えて、全身燃えるように発熱。
それでいて、さっきのように逃げないで、拳をにぎりしめ佇んだまま、坂本がきたら立ちふさがり「なあ」と睨みつけた。

「国語の先生に、国語がスキじゃないって、エンリョせず、そのまま伝えるのは失礼だと思うぞ」

俺が待ちかまえていたのに、驚いたようなものを、トマドウことなく、なんならダルそうにため息とつき「おまえさあ」と。

「さっきの聞いていたんなら、俺の理解力の低さを考慮してくれよ。
ほんとうに云いたいことを云わないと、分かってやれないからな」

あいかわらず、にべもなく筋のとおった言い分。
クヤシイかな、ごもっともだったので、目に涙をにじませ、歯ぎしりするように、こぼした。

「察しのいい俺がバカにされて、察しのワルイおまえが、褒められるなんてズルい・・・」

なんとも惨めで不恰好な本音。

恥ずかしいのを通りこし「笑いたければ、笑え」と開きなおったものの、坂本は真顔のまま、両手を差しだして。
俺の頬を包みこみ「熱っ」と意外にも、屈託のない笑みを。

「・・・俺だって、おまえみたいに察しがよければ、いいなって、いつも羨んでいるんだ。
でも、こればかりは、なりたくても、できない。

クヤシイあまりに、カッテに妬んで、憎たらしく思ってたよ。
さぞ、察しのワルイ俺を見下して、笑いものにしているんだろうなってな」

まったく、その発想がなかっただけに、目を丸くしてしまう。
俺の反応を可笑しがってか、ふっと吐息し「なのに」と顔を近づけた。

「逆に察しのワルイことを羨まれるなんて。
おまえ、バカだけど、かわいーところあるじゃん」

「な・・・!」と頭に血をのぼらせつつ、絶句。
そのまま硬直すると、身を引いた坂本は「変なヤツ」と肩をすくめ、去っていった。

さらにコケにされ侮辱されたようなものを、心臓を暴走させるのは、怒りより、胸の高鳴り。

だって、だって、カワイーなんて云われたことがないんだもん!

察しのよさを人に好まれながらも、カワイゲがないように思われていたのだろう。
国語の先生が「つまらないな!」と笑いとばされたように。

「カワイー」と評されて浮かれるのを「女子か!」と自分にツッコみつつ、吊り橋効果上等に、恋しそうだった。

察しのワルイ坂本なればこそ、その一言はフォローでも、お世辞でもないないだろうから。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

ボーダーライン

瑞原唯子
BL
最初に好きになったのは隣の席の美少女だった。しかし、彼女と瓜二つの双子の兄に報復でキスされて以降、彼のことばかりが気になるようになり――。

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ

樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー 消えない思いをまだ読んでおられない方は 、 続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。 消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が 高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、 それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。 消えない思いに比べると、 更新はゆっくりになると思いますが、 またまた宜しくお願い致します。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...