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察しのいい俺と察しのわるい彼
しおりを挟む俺は察しがいい。
たぶん、血のつながりのない父との生活で培われたのだと思う。
母の再婚相手の義父はいい人なれど、なんだかんだ先読みしたり、気を回したり、相手の思考を見極め、シンチョウに判断していたから。
まあ、そうして鍛えられたおかげで、学校生活にも応用を利かせることができ、人間関係で困ることはなかった。
たとえば、友人にジュースを差しだされ「どっちがいい?」と聞かれたとき。
片方のジュースをちらちら見ているのに気づき、もう一つのを選ぶ。
たとえ、さして飲みたくないものでも。
こうやって一応、選択肢を与えつつも、相手が「どっちでもいい」わけでないことが多い。
そのことを踏まえ、本命を見極めて、ほぼ外すことなく、スムーズに快くユズルから、相手は大満足。
「俺が見ぬいたんだぞ」とひけらかさなくても「こいつ、いいやつだな」と好感を持ってくれる。
また、男子にとって扱いが難しいとされる、女子とのつきあいも、なんのその。
「もーこれだから、男子はー」と女子軍団が、不服を申し立てたとき。
ターゲットの相手にさほど非がない、女子の理不尽ないちゃもんでも、そのことをまっこうから指摘するのは、ましてや「これだから女子は―」とおうむ返しするのはご法度。
「もーほんとだよなー」「俺ら男子が情けなくて、マジごめんー」とここは一旦、降参。
女子とイッショになってターゲットを吊し上げるのは、裏切りのように思えるが、そのあとに相手にあらためて聞いてみる。
「おまえ、ほかに、あの子を怒らせるようなこと、したんじゃないか?
で、そんとき、謝らなかったんじゃないか?」
たいてい、相手には心当りがあり「だからかあ」と天を仰ぐ。
気まぐれに女子が男子を火あぶりにしているように思えても、なんらかの理由がある。
そのことに気がつけば、ターゲットはナットクするし、女子もおさまりがつくというもの。
そのことを心得え、これまで何回も女子と男子のトラブルを解決したに「高木くんって女心、分かっているよねー」と女子に慕われ、男子からも(女子と揉めたときの)相談役として頼りにされ、クラスの居心地はいい。
いわゆる空気を読めるのが、秀でているあたり「空気清浄機」と呼ばれていたのが、クラスには俺のように空気を浄化する者がいれば、ぶち壊す者もいる。
俺とは対照的に、ずばぬけて察しのワルイ、坂本だ。
まえ二つの例でいうと「どっちがいい?」と聞かれて(イジワルをするように)ほぼ相手の欲しいのを選んでしまうし。
複雑な女心を汲みとらないで「多勢に無勢は卑怯だろ。女子だからって大目に見られると思うなよ」と正論を噛ますから、女子を敵に回すし。
「人の気もちが分からない冷たいヤツ」「ノリも感じも性格もワルー」とけちをつけられても、澄まし顔で聞き流し、そのマイペースぶりにぶれがない。
空気を読まず、ずばずば物を云うので、オソレラレテいるところもあり、イジメられはしていないが、親しい人は限られていた。
俺とは真逆な性格だからか、どうにも相手にするのが得意でなく、それまで近寄らなかったのが。
国語の課題提出が遅れ、職員室にプリントを持っていったところ。
いつも、ぶっきらぼうな国語教師が、あきらかに不機嫌そうで「先生、課題を」と呼びかけても、見向きもせず「そこに置いとけ」と。
触らぬ神に祟りなしと、そそくさと退散しようとしたら、どうもプリントを見たらしく「おい、おまえはどう思う?」と顎をしゃくられた。
「どうして、Kが自殺したのか」
題材、夏目漱石の「こころ」についての問いだ。
正直な答えは「分からない」だったが、腹の虫の居所がワルイ先生は、お気に召さず「おまえ生意気だな」と理由もなく殴るような暴言を吐くかもしれない。
賢くぶってもアウトだろうと、短い間にあれこれ考えて、結果、ブナンな答えを。
「先生に裏切られたと思ってショックだったんじゃないですか」
癇に障らないよう、あえて飄々と云ったのが「おまえ、つまらないな!」とにわかに喚きたて、嘲られて。
「俺の顔色を窺ってんじゃねーよ!」
鼻を鳴らしたなら、すぐにデスクに向きなおり、俺を放置。
そりゃあ、呆気にとられたが、だんだん飲みこめてきて、さらに周囲の視線を覚えて、とたんに頭を沸騰。
真っ赤になっただろう顔をうつむけ、先生から背をむけて早足で去ろうとしたら、途中で、坂本とすれちがった。
その瞬間、ちらりと手に持つプリントが見えたに、俺と同じ用だろう。
「空気を読めない坂本はどうするかな」と気になったのと、むしゃくしゃしていたから「あいつも恥をかけばいい」と八つ当たり的に思い、職員室の出入り口付近で待機し、盗み聞き。
先生のデスクは職員室から近く、二人のやりとりは聞こえ、案の定「どうしてKが死んだと思う」と同じ問いを。
これまた俺と同じく、一呼吸おいてから坂本が答えたことには「分からないですね」と。
「俺、はっきりと分かりやすく言葉にして伝えてくれないと、人の感情や思考を理解できないんで。
だから、文学って得意じゃないんスよね。
回りくどくて、あいまいで、思わせぶりな書き方ばっかして『だから、なに?』ってチンプンカンプンで」
癇癪もちの気難しい国語の教師に、なんというオソレオオイ真正直な意見を。
「俺と同じ目にあえばいい」とほくそ笑んでいたのを、さすがにその身を案じたのだが「ははははは!」と耳をつんざいて。
「なんだ、おまえ、オモシレーやつじゃねえの!」
俺を蔑んだのとちがい、なんとも痛快げな笑い。
「心配して損した」とほっとするより、さらなる屈辱を覚えて、全身燃えるように発熱。
それでいて、さっきのように逃げないで、拳をにぎりしめ佇んだまま、坂本がきたら立ちふさがり「なあ」と睨みつけた。
「国語の先生に、国語がスキじゃないって、エンリョせず、そのまま伝えるのは失礼だと思うぞ」
俺が待ちかまえていたのに、驚いたようなものを、トマドウことなく、なんならダルそうにため息とつき「おまえさあ」と。
「さっきの聞いていたんなら、俺の理解力の低さを考慮してくれよ。
ほんとうに云いたいことを云わないと、分かってやれないからな」
あいかわらず、にべもなく筋のとおった言い分。
クヤシイかな、ごもっともだったので、目に涙をにじませ、歯ぎしりするように、こぼした。
「察しのいい俺がバカにされて、察しのワルイおまえが、褒められるなんてズルい・・・」
なんとも惨めで不恰好な本音。
恥ずかしいのを通りこし「笑いたければ、笑え」と開きなおったものの、坂本は真顔のまま、両手を差しだして。
俺の頬を包みこみ「熱っ」と意外にも、屈託のない笑みを。
「・・・俺だって、おまえみたいに察しがよければ、いいなって、いつも羨んでいるんだ。
でも、こればかりは、なりたくても、できない。
クヤシイあまりに、カッテに妬んで、憎たらしく思ってたよ。
さぞ、察しのワルイ俺を見下して、笑いものにしているんだろうなってな」
まったく、その発想がなかっただけに、目を丸くしてしまう。
俺の反応を可笑しがってか、ふっと吐息し「なのに」と顔を近づけた。
「逆に察しのワルイことを羨まれるなんて。
おまえ、バカだけど、かわいーところあるじゃん」
「な・・・!」と頭に血をのぼらせつつ、絶句。
そのまま硬直すると、身を引いた坂本は「変なヤツ」と肩をすくめ、去っていった。
さらにコケにされ侮辱されたようなものを、心臓を暴走させるのは、怒りより、胸の高鳴り。
だって、だって、カワイーなんて云われたことがないんだもん!
察しのよさを人に好まれながらも、カワイゲがないように思われていたのだろう。
国語の先生が「つまらないな!」と笑いとばされたように。
「カワイー」と評されて浮かれるのを「女子か!」と自分にツッコみつつ、吊り橋効果上等に、恋しそうだった。
察しのワルイ坂本なればこそ、その一言はフォローでも、お世辞でもないないだろうから。
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