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世間知らずな俺がおまえを見つけた
しおりを挟む俺の家は子だくさんで、裕福ではない。
おかげで一応、高校にはいりながらも、日々、バイト三昧。
且つ、落第を免れるため最低限の授業出席、勉強をしているので大忙し。
そうして忙殺されれば、いちいち細かいことを気にしていられず。
なにせ、スマホを持っていなければ、家にタブレット、パソコンなど、ネットにつながる機器がないといきたもんで。
学校の大小の情勢には無頓着、世事にも疎かった。
そりゃあ、同性代と話していても置いてけぼりを食うが、まあ、ゆっくりおしゃべりしている暇はないし、コミュ障ではないに、まわりと問題なく意思疎通はできるし。
今どきのご老人より情報弱者ながら、そう困るでなく、波風たたない学校生活を送っていたのが・・・。
掃除当番で、校舎裏にゴミだしにいったときのこと。
このあと、すぐバイトだったので、ゴミ置き場から、走ってもどろうとしたところ。
むかいから、ゴミ袋を持つ巨体の男が。
身長は百八十くらい?
その上背を誇るだけで、そこらの男子高生を威圧できそうだが、前髪で目元を隠し、猫背になって、ダンゴムシのように縮こまっている。
そういえば、うちのバスケ部が強豪らしく、今年は期待の大型新人が入ってきて、一段と盛りあがっていると聞いたような。
うつむいたまま歩く相手を横目に「こいつが?」と訝りながらも、バイトに急がねばと、走ったまま、すれちがった。
その直後、背後から、ばしゃり!とけたたましい水音が。
散った滴が首に当たったようで、肩を跳ね、振りかえれば、猫背の巨体が全身ずぶ濡れ。
ぎょっとする間もなく、頭上の窓から、はしゃいで笑うのが聞こえて察し。
「今もこんな稚拙なイジメすんのか!?」と驚きつつ、シャンプーされて途方にくれる猫のようにイタましいさまの猫背の巨体を見かねて「おまえ、着替え、ジャージあるか?」とつめ寄る。
一呼吸置き、やおら肯いたのに「じゃあ、すぐ着替えろ!風邪引くぞ!」とゴミ袋をつかもうとするも「でも・・・」と放してれず。
あらためて見あげた相手は、せっかく男として胸を張れる体格に恵まれているというに、雨に打たれる捨て犬のようなアリサマ。
「男だろ!しっかりしろ!」と苛だつような「なんか、かわいいな!」と切なくなるような、感情がない交ぜになって、無性に抱きしめたくなったものの、俺には時間がないから。
ゴミ袋を奪いとり「いいか!」と腕をつかんだ。
「イジメるあいつらが全面にワルイんだ!
自分に問題や原因があるなんて考えるなよ!
どうしても考えてしまうなら、長所を伸ばしまくって、イジメられても屁でもない頑丈な自分になれ!
おまえ、バスケ部なんだろ?
バスケにめちゃくちゃ励めば、イジメられなくなっから!」
バスケの情報はアイマイだったが、時間がないし、こういう叱咤激励は勢いがダイジ。
「いつか、おまえの活躍、俺にも見せてくれよ!」と別れのあいさつの代わりに喚きながら走っていき、ゴミ袋を放って、そのままの勢いでフェンスをのぼった。
きた道をもどっては間にあわないと、近道をしてのこと。
あとはガムシャラにクラスにもどって、バイト先にすべりこんだから、猫背の巨体がどんな反応をしたのか分からないし、忙しさのあまり、イジメ現場を目撃したのも忘れさってしまい。
それから二日後。
その日はバイトにはいるまでヨユウがあったに、放課後、教室の机で寝ていたら「なあ!なあ!」と騒音が。
この声は、情報通でゴシップズキな友人。
あることないこと噂を広めて騒ぎたてるのが生きがいとあって、俺が寝たままだろうとかまわず、声高に喧伝しつづける。
「ずっと部活を休んでいた笹倉七海がもどってきて、見ちがえるようなスーパープレイを披露してんだよ!
いやあ、もどってきたこと自体、驚きだよなあ!
だって、親父さんが不倫したことで、すっげえ世間から叩かれたじゃん?
そりゃあねえ、元バスケの日本代表で、引退後は女子バの監督になって世界二位に導いた、日本一の監督って讃えられたあとに、テレビ出演しまくってからの、共演者のグラドルと不倫だもん!
ワルイのは父親であって、息子に罪はないって、みんな分かってんだけどな?
なにせ父親は国民的に知名度があるし、息子も高身長で将来有望視されているとなっちゃあ、放っておかれなくてな。
疎まれたり、軽蔑されたり、笑いものにされたり・・・笹倉七海は体はおっきくても、気は小さいっていうから。
父親の不倫が報じられてから、部活に顔をださないで、そのまま辞めるんじゃないかって云われていたのに、なにがあったんだろうな!な!なあって!」
「気になるだろ!なあ!なあ!見にいこうよ!」と肩を揺さぶられ、いつもならムシを決めこむのが、むくりと上体を起こした。
自分でも、その気になった理由は分からないが、腕を引っぱられるまま、体育館へ。
バスケ部エリアのコートのぐるりには人だかり。
探し当てた入りこめるスペースは、ちょうどゴール下。
人垣があって見えないのを、背伸びして顔を覗かせたなら、風が吹きつけた。
だん!と聞こえて、逆光の影がかった跳びあがる巨体が目のまえに。
つづけて、があああん!とけたたましい音が耳をつんざき、ゴールが壊れそうに揺れまくり。
ボールが跳ねて、すぐあとに両足で床を踏みしめて。
かるい地震を起こした、その勢いのまま前進したのに、人垣が道をあけるように割れ、逃げおくれた俺に、伸びてきた両腕。
両手で壁ドンされて、見あげた顔は、汗ならぬ水も滴るなんとやら。
熱く息を切らす、雄々しい男前ながら、八の字の眉、丸めた背中には見覚えがあるような。
頭を混乱させつつ、ぼうっと見惚れるうちに、巨体は荒荒しく呼吸したまま耳に口を寄せ、かすれた声で囁いてきた。
「・・・先輩、どうか、コンドの試合、見にきてください」
「水をぶっかけられた、おまえだったんかーい!」と呆れるやら「なに、そのギャップ!」と胸をときめかせるやら、感情がない交ぜになって、口をぱくぱくさせるばかり。
いつものように「バイトだからムリ」と一蹴したくても、心臓が暴れて、頭が沸騰し、目眩がしてやまず、どうしても声を絞りだせなかった。
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