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おまえだけは譲れない①
しおりを挟む俺のあだ名は「おかん」だ。
なにかとお節介で口うるさく、いろいろと気をまわしてしまう心配性。
友人らとドンチャン騒ぎをすることもあるが、どこか羽目を外しきれなくて「これ以上、やったら洒落にならなくなる」「いい加減、女子に愛想をつかされるぞ」とストッパーになりがち。
父子家庭で幼い弟と妹がいるせいか、おかん気質になったのだろうし、一歩引いて見守る癖がついたのだろう。
家に母親のような叱ったり宥めてくれる大人がいない以上、弟と妹とむきになって衝突しても埒がなく、俺が譲るしかないから。
家の外でも、俺が折れたり、妥協案を示したり、友人と喧嘩をするに至らない。
たとえ理不尽なしうちをされても、相手が年上や大人だろうと「たまたま機嫌がワルイのだろう」「事情があるのだろう」と同情して、まともに取りあわず、受け流す。
よく云えば、思慮深く、わるいく云えば、冷めている。
「ノリがワルイ」とけちをつけられやすい性分ながら、まわりに恵まれて「おかん」「おかん」となにかと持てはやされ、慕われているし、そのポジションに甘んじるのが、そう不服でないと思っていた。
の、だが。
高校二年になり、漆原と同じクラスになった。
始業式後のクラスでの自己紹介ではじめて知った相手で、そのあと一週間、接点がなく「なんとなく知っているクラスメイトの一人」でしかなかったのが。
帰宅途中、駄菓子屋のまえで、俺の友人と揉めているのを発見。
今にも、お互い、つかみかかりそうな剣幕だったに、慌てて走っていき「なになに!どうしたの!」とそのまま二人の間に滑りこみ。
まず、友人を見やると、一瞬、声をつまらせたものを、すぐに前のめりに「こいつ、どうかしているぜ!」と逆上。
「俺が万引きしたなんて、云いがかりをつけやがって!
なにか証拠があるのか?って聞いたら、こいつ、自分で目撃もしていないっつうんだよ!
なのに、俺が犯人だと決めつけて『百パー絶対だ!』って聞く耳もたないんだぞ!?
頭がおかしーか、なにか目的があって、俺を万引き犯にしたてあげたいんじゃねえの!
はっ、そうだ!俺の彼女がスキで、別れさせるためとかな!
告白もできなかった、てめえが糞チキンなだけで、彼女とラブラブな俺を逆恨みすんじゃねえよ!」
たしかに目撃もしてないのに、断罪しようとするのは、いかがなものか。
ただ「自分の評判を落とし彼女と別れさせたいんだろ!」との友人の訴えも、また突拍子もない云いがかりだ。
「今のところ、どっちもどっちだな」ととりあえず、落ちつかせようとしたら「はあああああ!?」と鼓膜を突き破るような漆原のシャウトが
「おまえこそ、よくもまあ、根も葉もないことを、こうも、おもしろおかしく妄想できるもんだな!?
ていうか、自分の非を認めないどころか、相手に非があるように見せかけて、罪を着せようなんざ、最悪最低だしよ!
いいか!どれだけ、小賢しくゴマカそうとしても正真正銘におまえは、みみっちい万引き犯だ!
その真実はなにがなんでも捻じ曲げられてはいけないし、ましてや嘘に覆されるわけにいかない!」
犯人逮捕に執念を燃やすさまが、すさまじく、怯みつつ「どうして、そこまで?」と不思議にも思う。
が、あれこれ考える暇はなく、身を乗りだす漆原を押しとどめて「まあまあ」と。
「二人とも、このまま主張しあってても平行線だから、一旦、頭を冷やせって。
とにかく漆原は、こいつが万引きしたと判断した、その根拠を示さないと。
目撃もしていないってんじゃあ、説得力がなくて、どれだけ怒鳴ろうが、こいつは頑固になるだけなし、まわりも信じないよ。
で、おまえも、頭にくるのは分かるとはいえ、むきになってトンチンカンに責めたてても、なんの解決にもならないから。
ちょっとした誤解かもしれないんだし、お互いの言い分をちゃんと聞けば、こじらせないで済む・・・」
友人のほうは、むっつりしつつ、口をつぐんだというのに、漆原のほうは「ふざけんな!」とだまっちゃいなく、怒るままに、俺の肩を小突いたもので。
「このエセ民主主義者のチョー偽善的日和見野郎が!
前提が、なんで『誤解』なんだよ!
ははっ、お互いの言い分をちゃんと聞くだあ!?
結局、おまえだって、なにも聞いていない段階で『こいつが万引きをするはずがない』ってオトモダチの肩を持っちまくってんじゃねーか!
そのことを反省できる頭があんなら、誤解って口走ったのを謝れ!
誤解を訂正しないと、ぶっとばすぞ!このぶりっ子ファシストが!」
漆原のことをよく知らないが、それにしても、これほどバラエティに富んだ悪口を、マシンガンを撃ちこむように、まくしたててくるとは予想外。
いっそ感心したし、難解な言葉遣いを理解しきれなかったものを。
「日和見」がやけに引っかかって、それがトリガーとなり、にわかに堪忍袋の緒がブッチーンと。
気がつけば、胸を押しかえし「うるさい!この害悪脳筋正義漢が!」と劣らない語彙力を発揮して反撃を。
「自分が正しいと思いこむのはカッテだけどな、人に分かってもらうには、忍耐やテクニックがいるんだよ!
時間や手間をかけるべきなのを省いて、感情的に主張を通そうとするのは、怠慢でしかないし、濡れ衣を着せられても、自業自得だ!ボケ!
ほんと、いやになる!どうして、みんな努力せず労力も費やさないで、ワガママを通そうとするのかな!?
ワガママだとも思わず、息をするようにワガママを謳歌して、その裏に人の犠牲があるのも気づかず、オコガマシクないかなあ!?
こっちがどんだけ、目をつむって歯噛みして、もろもろ飲みこんで腹にためこんで意をきりきりさせて譲歩してやっているの分からないかなあ!?」
激情に駆られるまま、つい愚痴をぶちまけたものだが「はあ!?んなの、てめえが、臆病なだけだろ!」と煽られたのに、まんまと乗っかってしまい、それからは、もう大喧嘩。
論点をずらしながら、お互いにお互いの悪口を浴びせるだけで、一向に決着がつかず。
ついには友人が「いや、もう、やめろよお・・・認める、認めるからなあ」と涙目で音をあげた。
それはそれで「ほら、俺が正しかったろ!土下座しろ!」「ばーか!おまえの対応が正しければ、もっと早く解決してたんだよ!」と火に油を注ぐ始末。
腹痛でトイレにこもっていた、駄菓子屋店主のオバサンがでてきて「小さい子たちが困ったりコワがっているでしょ!」とたしなめたことで、やっと収束。
オバサンに万引きしたものを返し、頭をさげる友人をソバで見守りつつ、横目で漆原の動向もチェック。
なぜか、店の端にいて「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きじゃくる男の子。
その子の前でしゃがんで「謝ることない」と頭を撫でて。
「おまえの云っていたことは正しかったんだ。
そのことが、ちゃんと認められて、よかったよ」
泣くのを宥めてから、立ちあがったところで目があったものを、お互い深々と眉間に皺をよせ、顔をぷいっ。
そのまま漆原は店をでていき、一方で悔しいかな、ミレンがあった俺は、近くでひそひそしていた女の子二人に「ねえ、あの男の子、なにがあったの?」と聞きこみを。
「あの子、おにーちゃんが、ポケットにお菓子いれるの見たらしくて。
レジにオバチャンがいなかったといっても、お金払わないで、自分のものにするのはダメでしょ?
だから、あの子、注意した。
というよりは『一回、レジに持っていかなくちゃいけないんだよ』って教えてあげたの」
「そしたら、おにーちゃん『なんて、ひどい嘘つきで、ワルイ子なんだ!』って怒りまくって。
あの子、怯えちゃって、なにも云い返せなかったのを、もう一人のおにーちゃんが『嘘のわけないだろ!』ってかばってくれたんだよ」
話を聞いて、すぐに店を跳びだしたとはいえ、どこにも漆原は見当たらなく。
店主のオバサンには謝ったものを、お互い「いや、俺、ワルクないだろ」と拗ねたまま、そのあと口を利かずに、おさらばになってしまい。
まだまだ、さっきの喧嘩の後味のワルさがありつつ「なんなんだ、あいつ・・・」とそわそわと好奇心のようなものが疼いてやまなったものだ。
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