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おまえだけは譲れない②
しおりを挟む漆原とあらためて話したいような、でも、どんな顔をしていいか分からず、気まずいような。
教室での再会を想像すると、頭がイタクなったが、いいのかワルイのか、翌日から土日、祝日と三連休。
ほっとしたような、もどかしいような、気もそぞろに休日を過ごし、三日目のこと。
大型スーパーに家族ででかけたら、弟が迷子に。
戦隊ヒーローのショーを見ていたら、突如、客席のうしろから下っ端の敵役「デンデラ」が奇声をあげ、マヌケなポーズを決めて登場。
客席の間を縫って、ステージに向かうつもりだったらしいのが、幼い子がギャン泣きしたのを皮切りに大パニックに。
泣き叫び暴れて、逃げようとする子たち、体を押さえつけたり、つかまえようとする大人たち、所在なさげに、うろうろするデンデラ。
弟ももらい泣きして、逃げまどう子につられるように腰を浮かせてしまったらしく。
抱きよせようとしたときに、だれかに肩をぶつけ、そのまま引っぱられていき、すっかり人混みに飲まれてしまった。
そりゃあ、俺と妹を抱えた父は、焦りに焦って探しまわって。
なにせ、弟は喘息もちだから。
「この状況では、発作を起こすかも!」と右往左往する人の荒波をかき分けて、あちこちに血走った目をやり、弟の名を叫んで。
そのうち動乱がおさまり、でも、付近に弟は見当たらず。
俺は捜索続行を、父は妹を連れて、迷子の呼びかけをしてもらうため、サービスカウンターへむかう。
そう決めて、別行動にうつった間もなく、なんと迷子のお知らせで、弟の名が店内に響きわたり。
サービスカウンターではなく、ちかくの洋服売り場のレジ内にいるというに急行。
「すいません!今、アナウンスされた子の家族です!」とレジにむかって叫び、店員さんが「ああよかった」と笑いかけ、目で示した、そこには・・・。
しゃがみこむ人の腕にしがみつき、顔を埋める、たしかに弟。
「喘息にならなかったようだな」と胸を撫でおろし、弟に腕を抱かせたままでいる、その人を見たところ。
なんと、漆原。
うつむいたままで、俺の来訪に気づかず「ほら、お迎えがきたよ」とそっと弟に囁きかけた。
駆けよろうとしたのを、つい踏みとどまったなら、ちょうど弟が顔をあげ、号泣しながら俺にタックル。
しゃがんで抱きしめ、宥めるうちに、漆原もこちらを見やり、目を丸くしたが、すぐに顔をそらして、無反応にして無言。
俺にしろ、とっさに言葉がでてこず「よかったわねえ」という店員さんに、気をとられてしまい。
泣きじゃくる弟から放れられなかったし、そそくさと去っていく漆原を追いかけられず。
せめて一言をと「あのときは、ワルかったよ」と。
「今、それ云う?」と自分のトンチンカンぶりに、自分でも呆れたものを、漆原は笑うことなく、足をとどめることなく。
顔だけ振りむけて「なにが?」としれっと応じて、おさらば。
え?まさか、あれだけ情熱的な悪口合戦をしたのに覚えてない?
それとも、一生、おまえを許さない的な反応なわけ?
だとしたら大人気なさすぎない?
なんてことがあり、疑心暗鬼に陥った俺は、結局、休み明けの教室で、漆原を遠目で眺めることしかできず。
もともと親しくなく、ムリに交流しなくても学校生活に支障はないとはいえ、胸がもやもやして、無性にイライラも。
蓄積する鬱憤を晴らしたくても、おかんポジション的に友人に相談はできず。
図書係の日だったので、人畜無害そうな司書のおっさんに、暇な時間がたっぷりあったし、つい事のはじまりから、長々とたべって。
相槌を打つだけで「ちゃんと、謝ったほうがいい」「お礼をしないままでは」と説教くさい助言などしてこたなかった、期待どおりのおっさんは、ただ一言、感想を。
「そりゃあ、漆原くんにおおきな貸しがきでたな」
聞いてくれただけでアリガタク、思いっきり、おしゃべりしてスッキリしたとはいえ、その言葉がさらなる疑念を生みだした。
迷子の弟を、発作を起こさせることなく、助けてくれた恩人に、どうして、俺は礼を云うのをためらうんだ・・・?
最大のチャンスだった、あのときも、的外れなことを口走ったし。
弟や妹、クラスメイトや友人に「礼儀を弁えなさい!」と口うるさい、おかん的な俺らしくもない・・・。
いや、そも、俺らしいとは?と頭をひねりすぎて哲学までしだし思考が迷子。
そんな帰宅途中に、コンビニを見かけ「一旦保留!」と急ぎ足で入店した。
妹がスキな魔法少女のカードいりチョコを買うため、その棚に向かったのが、再三、まさかまさかの漆原との遭遇。
しかも、俺の所望するチョコに手を伸ばそうとして。
しかもしかも、棚にある最後の一個!
なんと切りだしたものかと、考えがまとまらないまま「あ」と踏みだし、ふりむいた漆原を見たとたん、どうしてか、駄菓子屋でハッスルした感覚が甦って。
おまえが犯人だ!とばかり「それは譲れない!」と指を差し、きんきん声で豪語。
「はあ?」と応じた口調も、劣らず刺刺しく。
「俺こそ譲れないっつーの。
初恋が初代魔法少女のチナツちゃんで、それからずっとシリーズ応援している筋金入りのオタクを舐めんなよ?」
「ファン歴長いのを鼻にかけて、マウントとるなんてダサいんだよ。
そのチョコを求める思いでいえば、俺のほうが切実なんだからな。
明日から新バージョンになるの知っているのか?
ほんとうに最後の一つかもしれない、それに、ずっと欲しかったカードゲットを、こっちは懸けてんだ」
魔法少女が描かれたパッケージのチョコをまえにして、各各、熱き思いを拮抗させ、しばし二人で睨みあい。
そのうち漆原が顎をそらし、鼻で笑って。
「高校生にもなって、魔法少女なんかスキなのかよ。
それこそダッセーし、あんな幼い弟がいて、ガキくせーの」
「・・・おまえが偉そうに云えることか?
ついさっき、魔法少女が初恋で、今も熱狂的ファンだって胸をはってアピールした、おまえが?」
呆れかえって「おまえ阿呆か?」と茶化すというよりは、大真面目に諭してしまう。
てっきり駄菓子屋の喧嘩のように「阿呆いうヤツが阿呆じゃ!」と食ってかかってくるかと思いきや。
頬を膨らませて「ぶっ」と噴きだし、破顔。
むっつりとしていない表情をはじめて見たに、意外に、あどけない。
「おまえ、意外にマヌケなんだな。
本当だろうと嘘だろうと『ちっちゃい妹がほしがっているから』って同情を引けばいいのに。
真正面から『それは俺のだ!』って挑みかかってくるなんて・・・くく、魔法少女オタクなの冷やかされるかもしんないのに」
「お、おまえこそ・・・しょっぱなから、ファンなのを隠そうとしなかっただろ。
大体、俺だって、おまえの家族構成を知らないんだし。
どんだけだって嘘を吐けたじゃないか・・・」
緊張がゆるんだことで、我の返る思いがし、やや決まりのワルサを覚えながらも、司書のおっさんの一言「漆原におおきな貸しがきでたな」が浮かんで。
今が貸しを返すチャンスなんじゃね?と切りだそうとするも、漆原がチョコを手に取ったのに「あ」と漏らし、そのあとがつづかず。
口を開けたまま、呆けるうちに、胸元にそのチョコが押しつけられた。
手を放し落としたのに、慌ててチョコをつかむと、小首をかしげ、ほほ笑んだ漆原曰く。
「俺も云いすぎた。
あんときは、ごめん」
「やっぱ覚えてたんかーい!」と胸の内で雄たけびをあげつつ、目を見張って硬直。
照れがあってか、漆原はすぐに背をむけて、なにも買わずにコンビニから退店。
それから長いこと、棚の間の通路に突っ立って、気がつけば、胸を熱くし、涙をこみあげていた。
震える声で呟いたことには「なんだ、譲らないことを俺もできるんだ・・・」と。
どれだけ頭に血をのぼらせ、主張したり訴えようとしても、相手が意地になるのに対し、つい身を引いてしまうのは、おかん気質だからだと思っていた。
が、漆原が罵ったように「臆病」なだけかもしれない。
みんなのワガママに目をつぶりながらも、俺がワガママするのは、みんなに目をつぶってもらえず、許されないのではないか・・・。
そんな頑強な思いこみがある。
どうして、そういう心理に至るのかは、自分でも分からないが、その分厚い殻をなかなか、破ることができなくて。
「ほんと、なんなんだよ、おまえ・・・」とぼろぼろ泣いて、チョコを握りこんだ。
漆原との関係は、こんがらがったままとはいえ、礼儀として、チョコを半分こにするか、カードによっては譲渡すべきところ。
ウェハースは粉々、カードもぐちゃぐちゃでは「いるか、バーカ」と笑われることだろう。
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