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スキャンダラスで破滅的な恋を
二人のスキャンダルで破滅的な恋③
しおりを挟む大スキャンダルの内容を本人が認めたと、報道されて大騒ぎになってから一ヵ月。
テレビのワイドショーは未だ、そのときの取材映像を流しつつ、といって、僕の同性愛を匂わす情報が他にないせいか、俳優の中で、あの人やこの人が怪しいといった、魔女狩りならぬ、同性愛狩りのようなことをしていた。
業界は火消しに回っているだろうものを、視聴率がいいのと、僕を干したような状況であるのに、「差別だ!」と怒る世間の風当たりが厳しく、強気にでられないのかもしれない。
今日も今日とて。
同性愛狩りがされているワイドショーにあって、やや色合いの違う情報が流された。
僕が出演していた「どら息子と箱入り娘」が一話から一挙公開されることになり、取り扱っているビデオオンデマンドに入会の申しこみが殺到したというのだ。
そう、僕の大スキャンダルが発覚した翌日に最終回が放送されたドラマは、そりゃあ大注目され、視聴率、四十パーセントを叩きだした。
もちろん、スキャンダルを通して色眼鏡で見て「キモイ」「吐き気がする」「共演者もそういう目で見てたんじゃ?」と冷やかされもしたけど、「改めて見ると、どら息子との絡みやばい」「犬飼君がお守刑事を抱きとめるの尊い」「どら息子と結婚してほしい。というか、もやは夫婦」なんて、冗談も含めてだろうとはいえ、一部ではお祭り騒ぎにはしゃがれたとか、なかったとか。
スキャンダルが報じられたときは、ドラマに悪く響かないかと不安だったものを、取り越し苦労だったようで、最終回が放送された後も、非公式のドラマの動画がネットでアップされたり、録画したのをダビングしてくれるよう請う人が絶えなかったり、まだ発売が決まっていないDVDの予約をしようと頻繁に問い合わせがきているとのこと。
おそらく、はじめはバッシングを恐れていたテレビ局は、予想外に需要が高まったことで、今回のビデオオンデマンドの一挙公開に踏み切ったのだろう。
僕のスキャンダルで、ドラマのディレクターやスタッフ、共演者が、とばっちりを食ったとは思う。
その責任を負わずに逃げたことだけが気がかりだったので、スキャンダルが思わぬ効能をもたらしたと知って、もう思い残すことはなくなった。
事務所と話をつけていないので、まだ正式に退所していないし、俳優を引退したといえる状態でもない。
が、マンションの前で取材に応じてから、社長にも大川にも、誰にも行き先を知らせることなくマンションから消えた僕は事実上、隠居生活のような日々を過ごしていた。
引っ越したのは、下町の住宅街にある古びた木造アパート。
改装をほぼしていなく、築六十年の原型を保っている。
風呂なし、トイレと洗面所、炊事場は共同、部屋は六畳一間。
昔の漫画家の半生を描いたドラマ撮影をしたときに使われたところで、気に入った僕は、空き部屋が多かったから、その一部屋を長く借りていた。
たまに、仕事中に時間が空くと立ち寄り、空気の入れ替えや掃除をして気分転換をしていたもので。
必要最低限の生活用品は置いてあったから、布団一式を買って持っていっただけで、その日から、とくに不便もなく暮らしている。
前から、時々立ち寄って、近所やアパートの人に姿を見られていただろうけど、あらためて居つくようになっても、今更じろじろと見られることはなく、詮索もされなかった。
というか、こういった変哲のない住宅街にいる人は、日々の生活に追い立てられ、隣のアパートに渦中の俳優がいようと、気にかける暇はないし、どうでもいいのだろう。
世間で俳優が国民的スターともてはやされようと、スキャンダルで断罪されようと、思ったより人の日常は左右されることはない。
そう思わせてくれる現実的な場所だから、いつ取り壊しになるとも知れない、ぼろアパートを僕はわざわざ借りたのだと思う。
図らずも功を奏して、探し回っているだろう社長や大川、マスコミの目くらましにもなったし。
ドラマの行方が気になったので、チェックをしていたものを、発売未定のDVDの予約をしたがる人が大勢いるのなら大丈夫だろうと、思い、オンデマンドの申し込みが殺到しているとの情報を目にしたのを最後に、テレビを見ることはなくなった。
スマホを置いてきたから、ネットが使えないどころか、誰とも連絡が取れない状態になり、世間に流れる有象無象の情報から完全に遮断されたなら、いよいよ平凡な日常に埋没していった。
朝昼晩、炊事したり、布団を干したり、スーパーやドラッグストアへ買い出しにいったり、銭湯に向かうついでにコインランドリーに行ったり。
炊事場で顔を合わせる古株の住人、芳江さんと親しくなり、おかずをおそそわけしたり、おそそわけされたり。
芳江さんが入っている婦人会で男手が必要な時に手伝いをしたり、まったりとお茶をしたり。
家事や近所づきあいをする以外は、図書館で借りれるだけ借りた本をひたすら読んでいた。
元々閑静な住宅街だし、アパートは空き部屋が多く芳江さん以外の住人は日中、出払っているとあって、読書に没頭することができた。
わけでもない。
ページの文字に目を走らせ、一定間隔でページをめくりながらも、内容は頭に入ってこなかった。
部屋の出入り口に佇む、どす黒く影がかった人間の気配や、恨み節のような呟きを気にしないでいられなかったからだ。
悪霊や亡霊といった類ではなく、僕の幻覚と幻聴なのは分かっていた。
といって、スキャンダル騒動で心の病になったのが原因でなければ、今更のことでもない。
十八歳のときの別れを経て、おそらく、その人影はずっとそばに寄り添いつづけ、スキャンダルを機にここまで具現化するに至ったのだろう。
マンションの中庭で取材を受けたときも、頭の中で喚き散らしていたけど、このアパートに引きこもってからは、ストーカーよろしく陰険な存在になって、薄ぼんやりとしながら姿形まで見せるようになった。
二十年間の芸能活動も、先のスキャンダルも夢物語のように思えてくるほど、代わり映えない日常に馴染んでいる僕に、人影はけちをつけ、後ろ向きな言葉ばかり投げかけてくる。
「二十年も芸能界にいて、世間知らずもいいところで、再出発できるはずがない」
「無欲なふりをしていても、必ずそのうち、きらびやかな芸能界が恋しくなる」
「捨てた地位は、ほんの一握りの人間しか掴めないものだ。
逃がした魚が大きいことを思い知れ」
「まだ間に合う。あのときは、スキャンダルで頭が混乱して口が滑ったと訂正をすればいい」
「戻るなら、早ければ早いほうがいい。
明日には取り返しがつかなくなるかもしれない」
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