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死んだハムスターに似ているお前を奪われたくない
しおりを挟む会社の後輩の窪田は小柄で、言動やふるまい、雰囲気が小動物っぽい。
あまり要領がよくなく、仕事が遅いながら、何事にも懸命に打ちこむひたむきさに「ええ子やー」とまわりはすっかり絆されて。
まだ新人だし、戦力にはならないが、その見た目と性格からして部署の人間を癒してくれる貴重な人材。
そんな窪田の教育係として、はじめのころ、つきっきりだった俺はとくに思いれが。
忘れもしない、はじめて社食で昼食をとったとき。
小柄で華奢なわりに、ボリュームのある定食を頼み、小さい口にできるだけご飯を詰めこみ、頬をぱんぱんに。
その顔が、俺の飼っていたハムスター、今は亡き食い意地のはったハム次郎にそっくり。
おかげで「はは、すごい顔だな」と笑うべきところ、不覚にも涙がこみあげてトイレに逃げてしまう始末。
それ以降、窪田がハム次郎に見えてしかたなく。
鼻の下を伸ばして、ハム次郎を指で撫でまわしていたように「よーしよしよし!」と可愛がりたくてしかたなく。
とはいえ、部署のリーダーとなれば、一人の部下を贔屓したり特別視するのはよろしくない。
「ああ!ハム次郎!」と抱きしめたくなる衝動を抑えて、リーダーらしく厳しい指導をしていたのだが。
すこしして「営業部の部長が狙っているらしいよ」との噂が耳につくように。
だけでなく、その部長がなにかと窪田を呼びよせ、談笑してお菓子をあげているのを何回か目撃。
部長は老け顔で、窪田は童顔だから、祖父と孫の交流のようなれど、噂では「窪田の愛嬌が営業で活かせると見こんで、引きぬきたいのでは?」と。
そりゃあ、俺は気が気ではなく。
自販機のある休憩場で窪田に探りをいれようとしたとき。
「やあ窪田くん!このまえの話は考えてくれたかな!」と例の部長の横やりが。
思わず振りむいた窪田の横顔が、死む直前のハム次郎のそれと重なって。
べつに窪田は部長のもとに行こうとはしなかったが、焦った俺は両手で壁ドン。
「行くな」と怒っているような泣きそうな思いで、腕で囲う窪田に訴えたもので。
今の時代、ハラスメント判定されそうな行為に、でも、窪田は頬を染めて「はひ・・・」と舌足らずに返事を。
以降、部長は窪田にかまわなくなった。
ただ、その理由として「リーダーが『窪田は俺のものだ』と見せつけたから」との噂が立ってしまい。
本当は「ハム次郎の死ぬときを思いだしたから」なのだが、まあ、窪田を引きとめられたからよしとしよう。
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