デイジーの受難

ルルオカ

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デイジーの受難

三村くんの憂鬱①

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「じゃ、俺、次の仕事あるから」

楽屋で大路がそう言って、立ち上がったのに、俺はつい目を向けてしまった。
顔をあげてから、「しまった」と思ったものを、時すでに遅し。

気がついた大路が「げ」というような顔をしたのもつかの間そっぽを向いて、そのまま楽屋からとんずらをした。

荒々しく扉が閉められたことに、スマホをいじっていたり、脚本を読んでいたり、寝ていたりするメンバーは気にしている風もなく、俺一人だけが肩を落としていた。

俺がメンバーの一人である「デイジー」は、人気急上昇中の二十代半ばの男性アイドルグループ。

ドラマ映画で主演をするメンバーの活躍に引っ張られて、グループとして注目されだし、ダンスや歌はもとより、メンバーの相性の良さを売りにしている。

幼いころから苦楽を共にしてきたメンバーなので、仕事以外でも仲がいい。
はず、だったのだが。

大路は幼いころから役者として活躍していて、今では主演を堂々と果たし、演技力を認められ賞までもらったことがある。

グループを引っ張るエース的存在であるものの、デイジーが売れていないころには、メンバーと共に仕事をする機会が少なかったのはもちろん、ドラマのエンドクレジットにグループ名が添えられていなかったり、番組出演するときも個人で活動しているように紹介されたり、デイジーから切り離しての活動をさせられていた。

このままデイジーが売れなければ、他の人気グループへの加入もあるのではないか。
グループに所属しているイメージがつかないまま独立させるのではないか、なんて一時期はまことしやかに噂されていたものだ。

なんとか、そうならずに済んだとはいえ、「他の人気グループに加する」「独立する」との噂を耳にしたとなれば、多少なり、わだかまりは残る。

事務所に逆らえなかった幼い大路に非がないのは、メンバーは分かっていたが、あらためてデイジーとして共に歩むことになって、関係がぎくしゃくとなった。

まあ、元々気の合うメンバーだったから、時間が解決してくれ、離れていた分の時間を埋め合わせていったことで、前のように遠慮なく物言い合える間柄になって、前より結束を強めることになった。

が、皆が皆というわけでない。俺と大路だけが、ぎくしゃくしたまま、何なら、関係を悪化させていっているかもしれない。

大路は他のメンバーには、末っ子らしく甘えて懐いている。
のに、俺に対してだけは、事務的なやりとり以外は話そうとしないし、目も合わさなければ、近寄ろうともしない。

仕事中はそうもいなかいとはいえ、頭が切れる奴なだけに、極力、俺と口を利かないでいいように、メンバーを誘導したり、話の流れを持っていったりする。
演技力も遺憾なく発揮しているおかげで、俺と大路が気まずくなっているのを誰も気づいていない。

一人を除いては、だ。

肩を叩かれて振り向くと、メンバーの一人、前林が気の毒そうにこちらを見ていた。

背の大きい大路と背の小さい前林は、仲良し同級生凸凹コンビとファンからは「かわいい」「尊い」ともてやはされている。
同じ高校に通っていただけに、幼馴染のようにプライベートでも親しく、だから、前林は大路の些細な変化にも気づけるのだろう。

「今、オージ、仕事で精いっぱいだから」

おそらく気づいているだけでなく、大路が俺を避けている理由も知っている。
でも、そのことは教えてくれないで、当たり障りのないフォローをしてくるだけだ。

もう何度もされたフォローが、このときは聞き入れられずに「あいつは、いつも仕事で精いっぱいだな」と皮肉を返してやる。

我ながら最年長なのに大人気ないと辟易したが、前林は目を丸くしながらも気を害した風ではなく、「三村くんは気まずくないの?」と聞いてきた。
「は?」と眉をしかめるも、興味津々といったように覗きこんでくる前林。

「だって、ほら、三村くん、ちっちゃいころのオージに兄貴面していたじゃない」

「兄貴面って・・・年上だから、面倒を見るのは当たり前だろ。
あのころの大路はやんちゃのくせに泣き虫で、手がかかったし」

「そうそう、そのころは、三村くんはしっかりもののお兄さん、オージは癇癪餅の問題児って見られていたよね。

オージも『三村くんが本物の兄ちゃんならいいのに』って慕ってたでしょ。
でも、今は立場が逆転した。

オージのほうが背が高くなったし、売れているし、もう昔みたいに三村くんを慕ってくれなくなったし」

前林が可愛らしい顔をして、耳に痛いような言葉を突きつけてくるのに、眉間の皺を深めつつ、でも、指摘されたように「立場が逆転した」ことを、さほど気にしてはいなかった。

そう、大路のほうは時を経て、見違えるように大人らしく見た目も心も変貌を遂げたというのに、俺の大路を見る目は、ほとんど変わっていない。
とっくに俺を追い越して長身になり売れたことに、屈辱や悔しさはなく、寂しさがあるだけだ。

前林に指摘されて、改めてそんなことを考えさせられていたら、「三村くんは、別にいいんだ」と呟かれた。

俺が何も口にしていないにも関わらず、一人で納得したように、うんうんと肯いてみせた前林は、背を向けて離れていった。
なにがなんだか分からなかったが、追いかけて問いただすまでの意気はなく、元々読んでいた雑誌に目を落とした。

「オージも馬鹿だなあ」と前林の独り言が耳に入ったとはいえ、聞かなかったことにした。




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