デイジーの受難

ルルオカ

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デイジーの受難

大路の旅立ち①

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三村くんに怯えられても、拒まれてもかまわないから、幼い姿を重ねるのではなく、今の俺を見て欲しかった。

顔を強張らせ後ずさり、悲鳴を上げて突き放すのが、今の俺を見ている証だとしたら、むしろ是非、三村くんを泣かせてやりたかった。

ライブのバックヤードで深い口づけをして、途中で逃げられてから、しばらくは前と変わらず、三村くんに馬鹿っぽい犬のように懐いていた。

さすがに直後は、俺との距離をはかりかねていた三村くんだけど、何事もなかったように、「精通もまだです」とばかりに、いけしゃあしゃあと幼気なふりをすれば、すぐにまた、油断をするようになった。

抱きつかれて頬ずりされても「しかたないな」と苦笑する始末で、本当に三村くんの色眼鏡は分厚くて頑丈だと、感心するような苛立つような思いをしたもので。
まあ、警戒されないほうが、都合はよかったのだけど。

そのうち、天下のうっかり屋さんな三村くんは懲りずに、デイジーの持ち番組にて、ゲストの女性の頬を触りやがった。
そう、俺の目の前で。

一度、ライブで前林とキスするよう煽って、俺の怒りを買い、代償のようにディープキスを求められたのを、もう忘れていたというのか。

想像以上の三村くんの迂闊さに呆れたとはいえ、チャンスをずっと窺っていた俺は、罠にかかったとばかり、というか、自ら罠にかかりにいくように、収録後人気のない場所にあるトイレに駆けていった三村くんの背中を追いかけた。

トイレのドアを開けると、案の定、まるで警戒をしていなかったらしい三村くんが、蛇口から流れる水を手に当てたまま、ひたすら目を丸くしていた。

対して無表情でいるよう努めたものを、内心は「ついに触れてもらえる」と期待に胸が張り裂けそうでいて、「漏らしてもいいから、使いたくない」と自ら罵ったトイレで行為に及ぶというシチュエーションに、やたらと奮い立ってもいた。
まだテントを張っていなかったとはいえ、掻きむしりたいほど、そこは熱く疼いていて、辛抱堪らなかった。

ドアから踏みだして、歩み寄っても三村くんは、まだ飲みこめていなかった。

流水から手を外すこともしなかったから、その片手を取って、俺の頬に触らせてやった。
恋愛音痴な三村くん相手なので、慎重にムードを保って、アプローチをしようとしたのだけど、濡れた手を頬に当てただけで、目が眩んで、まんまとテントを張った下半身を揺らしてしまった。

テントの先っぽが太ももに当たったら、ムードもへったくれもなかったとはいえ、その前に三村くんは、自分の失態に気づいたようだった。
まつ毛を跳ねて、しばし目を見開いなたら、あちゃあという顔をして、それから心持、眉尻を下げて、見上げてきた。

心許なさそうに上目遣いをされては、もう我慢が利かず、下半身を摺り寄せつつ、上気した頬を濡れた手に擦りつけ、掌に口付けもした。
それに合わせて肩を跳ねながらも、三村くんは頬を染めたり、もじもじすることはなかった。

反応が良くないのに、「この期に及んで、最年長のプライドが捨てられないのか」とむっとしたものの、余裕をかませるのは今だけだと歯噛みをして、三村くんの濡れた手を掴んだまま、顔から首を伝って胸、胸から腹、腹から股間と、やおら俺の体に滑らせていった。

その手を追って三村くんが視線を落としたのはよかった。
服の上からといはいえ、三村くんの手つきに俺は感じいってしまって、きっとみっともない顔をしていたから。

なるべく、焦っているのがばれないように、もう片手で下着ごとズボンを下ろして、とうとう三村くんの指先に触れてもらった。

表情やふるまいは、誤魔化せても、股間のそれは包み隠せないで、トイレにきたときから、いや、トイレにくるまで、いかに俺が発情をしていたのか、まざまざと見せつけた思う。
「まさか収録していたときから?」と疑われても、否定しきれない有様だったもので。

仕事中に自分をおかずに、股間を膨らませられていたのだろうかと、三村くんの立場だったら、考えずにいられないとところだ。

バラエティ番組出演に慣れていなく、玉を縮こまらせていた、あのころからは想像だにできない、それを目の当たりにしては、ブラコン体質な三村くんもさすがに、男の俺を意識する、はず。

少なくとも、動揺を隠せないようで、顔を俯けたまま、そこを見入っていたけど、その反応だけでは足らずに、歪になっているだろう表情を拝みたくて。
呼びかけて、こちらに向かせようとしたら、その前に三村くんが顔を上げて。

「どうした?」と幼いころに、背を屈めて下から覗きこむようにして問いかけてきた、そのときと変わらない顔つきだった。

成熟した男の生々しい即物的な肉の棒を、白濁の液がかかりそうな距離で見ながら、三村くんの瞳には幼い俺が頑固に張りついていた。

「ここまでしてもか」と心が折れそうになった。

目的のためなら、嫌がるのを犯して泣かせることも辞さないでいたつもりが、不感症並みに反応が絶望的だと、さすがに意欲が失せる、というのもある。
それだけでなく、身も心も汚れていないままの俺をその瞳に写されるのに、思いがけず、胸が強く揺さぶれた。

俺にも未練があるのだろうかと、惑わされそうになったものを、三村くんが目を伏せたなら、俄然、獲物を目の前にして退くなんて考えられないとばかりに、欲が溢れてきて、熱情の赴くままに、手を当てがった。

これまで男のに直に触れたことがないだろう、一度も汚されたことのない掌が、すこし掠めただけで、口から涎を垂らしそうになって、やんわりと握られたともなれば、脳天に突き上げるように快感が走った。

精神的には達したようで、すぐには身動きできず、できたら三村くんに自主的に扱いてほしたっかとはいえ、やんわり握った形で指を固くしているようだったから、望めそうになかった。

善がっている俺に「うわあ」と興ざめしたり、幻滅しているのかもしれない。
と考えると、下半身が再燃して、その後は恥も何もあったものではなく、三村くんの手を借りた自慰に、遮二無二に勤しんだ。

もうすこしで絶頂を迎えそうになり、その前に三村くん顔を拝みたく、「ね、顔を、見せて」と額に口をつけて、熱く湿った息を吐き囁いた。

びくりとした三村くんは、逆に顔をうつむけた。

アイドルともなれば、ぶさいくな顔や、みっともないふるまいを人前でさらさないよう、人一倍気をつけているのは分かる。
職業病のようなものなかのか、それにしても、この期に及んでまで、中々顔を上げようとしなかった。

同性愛者でなければ、自分の手を貸しての自慰を間近で見せられるなんて、拷問のようなものだ。
ポークビッツサイズのまま、記憶を留めている三村くんなら尚更だろう。

達しそうで、余裕がないながらに俺は笑いたくなって、その衝動を噛み殺しつつ、三村くんの頬を撫でて、指で顎をすくい、上向かせた。

すこし抵抗したような三村くんは、でも、逃げだすことはなく、途中で諦めたように、すんなりと顔を上げた。

三村くんは嫌がっていなかった。
動揺していなければ、つられて興奮もしていなく、顔は赤くもなく青くもなく、通常も通常も、やや白めの肌色だった。

俺を幼く見立てて、慈しむようにしたり微笑ましげにするでもない。
呆けて歩いていて、呼びかけられ、「え?」と振り返ったような、なんの気負いも感情もないさまで。

ある可能性が頭に浮かびかけたところで、タイミングがいいのか悪いのか、俺は達した。

なんとか、お茶ならぬ、射精で濁したわけだけど、再び三村くんと向き合う意気はなく、すぐさま背を向けて、ズボンを直しつつ怒ったような足取りでトイレを後にした。

物置場になっている狭い通路を、地に足がついていないような気分で歩きながら「まだだ、まだ足りない、足りないんだ」と呟きつづけた。

三村くんの色眼鏡は、思った以上も以上に強固に据えられて、目の前で自慰を手伝ってもらうくらいでは、びくともしないらしい。
と、先の反応ぶりから、分析して色々と考えていた。また俺にも覚悟が足りなく、未練に阻まれているのだろうと。

だったら、「デイジー内で強姦未遂事件」と報じられるのを恐れていられず、最後まで心を鬼にしてやるしかない。

さっきみたいに、間の抜けた顔をさせる暇を与えることなく、ひたすら泣き叫び助けを請わせ、強姦魔に襲われているが如く錯覚させ絶望させるほどに、追い詰めなければ。

と、スタジオに戻るまでに、決意を新たにしたのだけど、後から思えば、俺はこのときに、考えをすり替えようとしていたのだと思う。

目的は今の俺を見てもらうことで、拒絶的な態度を示すがどうかは、あくまで、三村くんが俺をどう見ているかの目安にしようと考えていたはずだ。
のに、そのときは三村くんに死に物狂いで拒絶させることが、すっかり目的化してしまっていた。

心のどこかで、うすうす気づいていたのだろう。
問題は三村くんの顔つきや態度ではなく、体にあったということを。

ただ、あまりに身も蓋もなく如実な回答が突きつけられては、目を逸らしたくもなるし、だからといって、諦めるのはもったいなかった。

一生、秘めておくつもりだった恋を、折角、三村くんに知ってもらい、足蹴にされることもなかったのだから。
おかげで、欲がでてきてしまった俺は、引き下がれなくなった。

セックスができる可能性もゼロでないのではないかと。
そして、こう考えたのだ。

最悪、相手が反応しなくても、セックスはできるなんて、アイドルにあるまじき下劣極まりないことを。





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