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十三
しおりを挟む義男を前にして、勃起するわけにいかなかったから、とはいえ、不甲斐ないものだ。
いくら「お前のせいではない」と訴えたところで、幼馴染セーラー服事件があって、学校から停学処分を食らう事態になり、その上で避けようとされれば、自分に原因があるのではないかと、考えるに決まっている。
義男が自責の念にかられるのは、不本意すぎるが、それでも、セーラー服への葛藤を捨てられない。
俺こそ自責の念にかられるべきとはいえ、いい加減、「心の弱さのせいだ」「根性が足らないからだ」と自分をいたぶって自己完結するのにも疲れて、内ばかりでなく外に目を向けたくなった。
そう、いっそ、誰かのせいにしたいと思って。
友人が告げたように、「俺がこうなったのは、親父のせいだ!」と洗いざらい吐きだしたら、ストレスフリーになれるのだろうか。
セーラー服への葛藤もなくなって、今回にしろ、いつものように、浮き浮きと義男の家に厄介になれたのかもしれない。
そうだとしても、できない。
俺は父親が嫌いでなかったから。
そのことを気づかせてくれたのが、義男だったから。
「親父が、あんなんだから・・・・!」
小学生のころ、一度だけ、悪態を吐いたことがある。
たちの悪い同級生を平手打ちしたときにだ。
どうして、罪を犯しても、人に危害を加えてもないのに、目障りだ、耳障りだ、いっそ息もするなとばかりに、追いつめられないといけないのか。
「あいつらの頭がおかしいから」と割り切れず、それ以外の答えを見いださないことには、やりきれなかった。
ただ、思いの丈をぶつけた相手は父親ではなく、義男だ。
八つ当たりではない。
義男の顔を見たら、比べて同級生が、より意地汚く思えて、あらためて胸糞悪くなったのだ。
といって、学校から呼びだしを食らったあとに、怒鳴りつければ、どんな理由があろうと、八つ当たりとしか思われない。
すぐに我に返った俺は、謝ろうとして、息を飲んだ。
てっきりチワワよろしく、瞳を潤ませ身をすくめていると思ったのが、無表情でいたからだ。
いつも、起動哀楽を分かりやすく見せる義男が、顔から感情を拭うことは、ほとんどない。
教師と相手の保護者に睨まれても、「自分は悪くない」と居直っていた俺が、目が据わった義男を前にして、肝を冷やしていたら、「ヒロちゃん」とこれまた、高くも低くもない調子で呼ばれた。
「ヒロちゃんは、お父さんが嫌いなの?」
あれほど、思いっきり、啖呵を切っていたはずが、「そうだ!」と即答できなければ、「ちがう」と首を振ることもできなかった。
いつになく、義男が白々しく語りかけてきたのに、動揺してしまったせいと考えたが、後になって、違うと、思った。
俺は父親が嫌いではなかった。
では、どうして、否定もしなかったのか。
義男は違うと、分かっていながら、頭によぎったのだ。
他の人が同じように聞いてきたとして、「ちがう」と応じたら、どう思うだろうかと。
父親も母親も平凡を愛している。
俺も同じというか、平凡になりたかった。
が、セーラー服を着る父親を、疎ましがったり、拒絶したり、そして、嫌ったりするのが「普通」の子供だった。
当てはまらない俺は、「普通でなかった」。
「普通でない子供」と思われるのを自覚する以上に、気にしていたらしい。
もしセーラー服姿の父親が迫害されたなら、排他的な世間や社会のほうが間違っていると憤慨するのが俺だ。
それでいて、その世間や社会から「普通の子供」と見なしてほしく、仲間の一員にしてほしいと望んでもいた。
セーラー服姿の父親を「なんて、ひどい親だ!」と糾弾して、アピールすれば「普通の子供」とお墨付きをもらえる。
との思いが逸って、「親父があんなんだから・・・・!」と口走ったのだろう。
両親やその友人、知り合い、近所の人と、周りに恵まれていた俺は、それまで、さほど、冷たい世間の風当たりを受けなかった。
だから、「普通でない」のを気にしないでいられたものを、そのときは同級生に「お前、やっぱ、普通じゃねーよ!」と高笑いされて、にわかに不安に襲われたのだと思う。
セーラー服姿の父親を嫌わない「普通でない子供」として生きていくのを、たちの悪い同級生のように、これから、世間や社会は踏みにじってくるのではないか、と。
このとき、俺は人生の岐路に立たされた。
「ヒロちゃんは、お父さんが嫌いなの?」と問われなければ「こんな父親を持った俺は、不幸だ!」と世間や社会に同情を求めて、保身に走る糞野郎になっていたかもしれない。
父親を嫌いでもないのに、だ。
義男のおかげで、道を踏み外さないで済んだとはいえ、当人は、そんな大それたことをしたつもりはないだろう。
俺が不正直でいたのが、見過ごせなかったのだと思う。
というのも、いつでも義男は自分に正直でいようと、心がけているからだ。
中学入学式で「キモ」に打ちのめされ、多少、妥協したとはいえ、自分の根っこに居座るチワワを捨てようとはしなかった。
「昔は、チワワなんて呼ばれてて、ださかったし、いやだった」と肩をそびやかし、格好をつけることもなかった。
俺のように、父親が嫌いでないのに、世間体を気にして、安きに流れ、不正直に生きる腰抜けは世に大勢いる。
比べたら、シェパードに見せかけつつ、もがき苦しみ踏んばっているチワワは、ずっと心根が強い。
友人がいうように、俺は俺が「いい奴」だとは思えない。
それでも、友人の目にそう写るのなら、義男を見習って、自分に正直に生きようと努めているからだろう。
義男のように生きたい。
そう思わせてくれるから、今の俺があるのだ。
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