【大賞受賞】あしたの僕をさがさないで

潤井 紺

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第三章/出席番号二十九番・保戸田俊平

(二)

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 せっかく部活のないテスト期間に入ったというのに、小遣いという人質を取られているせいで遊べない。
 俺は渋々図書室に向かう。ぼっちとガリ勉の吹き溜まりみたいな場所なんて行きたくもないけれど、家だと妹がうるさいし、マックに行く金もない。テスト云々言うなら、まずは勉強に集中できる環境を作ってくれよと思う。
 知り合いに会いませんように。そう願いつつ入った矢先、トーマとばっちり目が合った。SHRが終わってすぐに教室を出たかと思ったら、図書室にいたのか。

「俊平が図書室なんて珍しいな。一人?」
「まーな。勉強は一人の方が集中できるし?」

 トーマの向かいに座る、神林さんと本宮を見ながら言う。トーマのこういう、本人にとっては何気ない、俺にとっては無神経なひと言にはたまにイラッとくる。嫌味にも気付かず「そっか」と笑って返してくるから尚更だ。
 隣に座らないかというトーマの誘いは断って、神林さんと本宮と背中合わせの席に座る。ここなら不快なものも視界に入らない。あとは耳を塞いでしまえば完璧だ。

「ほら、時野旅人も言ってたでしょう。死は人を強くするって」

 神林さんの囁きに、イヤホンを持つ手が止まる。

「あー、そんなこと言ってたかも。てかいずみ、よく覚えてるね」
「時野旅人の日記は全部バックアップしてるから」
「神林さん、本当に時野旅人のファンなんだね」

 図書室ではお静かに、って貼り紙が見えないのかよ。辺りを見渡すと、同じように勉強会をしているグループがいくつかある。どうやら囁き声は暗黙の了解、お一人様はイヤホンをしてくださいね、がここのルールらしい。俺は心の中で舌打ちをした。

「時野旅人は、この『羅生門』をリスペクトしているように思うの」
「そうなの? あたしには良さどころか、芥川龍之介がなにを言いたいのかもさっぱりなんだけど」
「俺も。神林さん、ご教授よろしくお願いします」
「喜んで」

 神林さんはテストのヤマを並べていく。ラッキー、と聞き耳を立てつつ、無関心を装ってペンを回していると、カツン、と机に落としてしまった。向かいの女子にじろりと睨まれる。なんだよ、故意の囁き声は良くて、過失の音はダメなのかよ。

「ここは――だから、――となるの。時野旅人も同じように捉えてると思う」
「いずみ、どんだけ時野旅人のことが好きなの」
「時野旅人の言葉には必ず裏があるでしょう? それを考えるのが楽しいの」
「それわかるかも。俺も最近、時野旅人のよさがわかってきた気がするんだ。胸にグサッとくるというか、自分のダメなところを教えてくれるというか。昨日ついに読者登録しちゃったよ」

 へぇ、つまりトーマは時野旅人……一位ではないということか。前に探りを入れたときは本宮に邪魔されてしまったけれど、これは思わぬ収穫だ。

「あたしは別にファンじゃないけど、時野旅人が誰なのかはちょっと気になるなー。男ってこと以外はまじで謎だし」
「チナ、男とは限らないよ」
「え? でも一人称が『僕』じゃん」
「女が『僕』を使ってはいけないってルールはないでしょう?」
「なるほど。『僕は僕じゃない人の話をします』には、そういう裏の意味もあるかもしれないってことか。神林さん、さすがだなぁ」
「もちろん可能性の話だけどね。でもせっかくの匿名制だし、そういう柔軟な発想はあってもいいと思う。時野旅人の、文豪の意思を日記に反映しているスタイルも、とても面白いと思う」

 ――柔軟な発想。文豪の意思を日記に反映。
 神林さんの言葉を反芻して、妙案を思いついた。これは……俺の時代がきたかもしれない!
 閉室時間がせまり、三人が図書室を出ていくのを見届けてすぐに席を立つ。『総記』『哲学』『歴史』……本棚の迷路をさまよって、ようやく『文学』の棚に辿り着いた。あ、あ、あ。お目当ての作家を見つけて、けれどどの作品がいいのかわからず、スマホを取り出す。

【芥川龍之介 おすすめ】

 一番最初のリンクに飛んで、そこに記載されていた五冊を本棚から抜き出し、カウンターに持って行った。これだけあれば十分だろう。

「貸出は三冊までです、保戸田君」

 え、と口に出してから気が付いた。野暮ったい黒髪に地味なメガネ……こいつ、同じクラスの巻島莉歩だ。

「へぇ、そーなんだ。図書室なんて使ったことないから知らなかったわ」
「いいえ、去年の夏休みに一冊だけ借りています」

 巻島は俺の名前が書かれたカードを取り出す。
 こいつ、噂に違わず気味が悪いな。気が付いたら後ろにいた、本人も覚えていない情報を知っている。巻島が裏で黒子と呼ばれている所以ゆえんだ。存在感がないという皮肉も利いているし、最初に名付けた奴はなかなかセンスがある。

「どれを借りますか?」
「あー、んじゃこれで」

 正直どれでもよかったので、左から三冊を指差して言う。

「破損や水没があった場合は、弁償になる場合もありますので、注意してください。返却期限は二週間です。この本は、学校の財産です。最近は借りパク行為も増えていますので、その、くれぐれも……」
「わかってるっつーの」

 誰が図書室の本なんかパクるかよ。




 帰宅してすぐ、『オープン・ダイアリー』を開く。マイページに表示されたのは【二十位】の文字だ。今の俺はランキングのど真ん中にいる。いや、こーちゃんを含めて四十一人だから、正確にはど真ん中から〇.五位上だけれど。
 個の存在は、基準と比べることで初めて成り立つ。イケメン、天才、人気者、そして一位、世の中に溢れる数多の称賛は、すべて凡才に比べて優れていることを示す語だ。
 一位の人間が褒められることはあっても、ど真ん中の人間が褒められることはない。当然だ。ど真ん中は比べられる側であって、比べる対象がないのだから。
 俺は比べられる側なんてまっぴらごめんだ。評価されないということは、人の意識にいないということ。そんなの、この世に存在していないも同然だ。

 トーマも、俺をバカにする女子も、みんな見てろよ。俺は上位五人、そして時野旅人も蹴散らして、みんなを見返してやる。
 俺はスマホを片手に、借りてきた本をパラパラとめくってメモを取る。夕食も忘れて下書きに没頭し、ようやく投稿ボタンを押せたのは、いつも時野旅人が投稿している時間と同じ、二十三時ぴったりだった。


◆十月二十日『矛盾』

 仕事で失敗した、と相談してきた同期Aに、同期Bは、君は少しも悪くない、気にせずこのまま頑張ろう、と言った。
 人間の心には互いに矛盾した二つの感情がある。そう、僕は思っている。
 他人の不幸に同情しない者はない。ところがその人がその不幸を切りぬけることができると、今度は物足りないような気持ちになる。ちょっと大げさに言うなら、もう一度その人を、同じ不幸におとしいれてみたくなって、そうしていつの間にか、ある敵意をその人に対して抱くようなことになる。
 Bは先に出世したAのことが羨ましくて、敵意はそれの裏返しなのだろう。Bは本当は努力家で、頑張ってる奴なのに、もったいないなぁ。

◆ハンドルネーム/賢者


 俺の逆転の一手。それは、文豪の言葉を借りることだ。
 芥川龍之介の重みのある言葉を社会に投影することで、リアリティーと共感を生む。確実に人の心を掴む、合理的な作戦だ。
 今回は『鼻』という作品から目に留まった表現を抜き出した。ファンには人気がある作品らしいけれど、俺は全く知らなかったし、たとえ読んだことある奴がいたとしても、表現を変えているから気付かないだろう。それに万が一指摘されても、芥川龍之介は没後五十年が経っているから著作権は消滅している。ゆえに咎められる理由がない。

 完璧だ。こんな簡単なことを、どうして今まで気が付かなかったのだろう。
 この作戦なら間違いなく一位を目指せる。俺をバカにした奴らを見返せる。時野旅人の薄っぺらい言葉なんてすぐに追い抜ける。
 確信にほくそ笑みながら、今日更新された時野旅人の日記を開いた。


◆十月二十日『死は人を強くする・二』

 では、死を恐れないものは弱いのか。
 それもまた違う。死を恐れるものが持つ力が、急流に抗う強さだとしたら、死を恐れないものが持つ力は、急流に飲まれる強さだ。
 頑張ることよりも、諦めることのほうが、得てして人を楽にさせる。
 それは決して怠けではない。引き際を正しく見極めることは、あしたの自分を救う手立てだ。

◆ハンドルネーム/時野旅人


 はい、出ました格言的なやつー。
 文豪の言葉を読んだあとだと、時野旅人の言葉がいかに陳腐かがよくわかる。
 格言は根拠となるストーリーがあってこそ、説得力が生まれるのだ。時野旅人はそのときに思いついたそれっぽい言葉を、それっぽく見えるように書いているだけ。話の流れなんてあったもんじゃない。

 さて、明日はどの言葉を使おうか。俺はスマホを放り投げて、今日使わなかった残りの二冊をわくわくした気持ちで捲っていく。今までは漫画しか読んでこなかったけれど、小説もなかなか面白い。絵でイメージを掴めない分、想像が膨らんで、事物の捉え方に奥行きが出る。
 そうして読書に没頭しているうちにいつの間にか眠ってしまって、起きたら朝になっていた。やべ、勉強してねー。つーか昨日なにも食ってねー。のそのそと起き上がると、床に本が開いた状態で落ちていた。紙に折りぐせがついている。

『破損や水没があった場合は、弁償になる場合もありますので、注意してください』

 黒子・巻島の言葉を思い出して、慌ててくせを直す。まぁこのくらいは許容範囲だろう。俺は本を閉じて机に置き、ぐぅぐぅ鳴る腹を満たそうと部屋を出た。




 借りた三冊はあっという間に読破した。次なるネタの調達のために図書室に行くと、カウンターにはまたしても巻島がいた。家守やもりならぬ図書守だな。

「他の当番の奴はいねーの?」
「当番は私が全て引き受けています。私は当番じゃなくても毎日図書室に来るので」
「へぇ。つまり仕事を押しつけられてるってことか」
「自らすすんでやっているので、押しつけられているわけでは……。それに当番を代わることで誰かが助かるのなら、喜んで引き受けます」

 万が一これが本音だとしたらお笑いだ。パシリにされている自覚がないだなんて。なんやかんや言って、自分がかわいそうな人間だと認めたくないだけだろう。

「ま、いいや。今回はこの三冊で」

 返却する三冊と、新たに借りる三冊を一緒に差し出す。巻島は返却の三冊をぱらぱら捲った。幸い、折りぐせは指摘されなかったけれど、

「破損や水没があった場合は、弁償になる場合もありますので、注意してください」

 前回と全く同じ説明を始める。融通の利かない奴だ。
 辟易して辺りを見渡すと、ちょうど図書室に入ってくる神林さんを見かけた。トーマと本宮の姿はない。

「返却期限は二週間です。この本は、学校の財産です」

 神林さんは図書室の奥にある部屋に入っていった。なんだ、あの部屋。

「最近は借りパク行為も増えていますので……」
「なぁ、あの奥の部屋ってなに?」

 巻島は俺が指差した方を見る。

「書庫です」

 なんで書庫に神林さんが? もしかしてあの中で、こっそりトーマと本宮と三人で勉強してるとか?

「中辻君と本宮さんはいませんよ。今日は二人とも帰りました」

 え、と思わず声に出た。こいつ、なんで俺の考えてることがわかったんだ? つーかなんで帰ったことを知ってるんだ?

「書庫には逢坂君がいます」
「逢坂? って、あの猫背の奴か。あいつ図書委員だっけ?」
「はい。二人は本の虫同士、話が合うみたいですよ。一緒に帰ってるみたいですし」
「冗談だろ? 神林さんと根暗野郎の組み合わせなんて、うなぎと梅干しじゃん」
「合食禁ですか。でも実はそれ、迷信なんですよ。本当はとても相性のいい食べ合わせで……あぁ、言い得て妙ですね。しかし鰻にはやはり山椒。梅干しは気まぐれでしょう」

 こいつ、なに言ってんの? 薄ら笑いを浮かべてるし、まじで気味が悪い。
 というか、うっかり巻島と話してしまったけれど、これ以上一緒にいるとぼっち仲間だと思われそうだ。

「つーか本、早くして」
「あっ、すみません。ええと、最近は借りパク行為も増えていますので……」
「それさっきも聞いたっつーの」

 巻島の手から奪うように本を受け取ると、空いていた席に座る。教科書を捲りつつ書庫を注意して見ていたけれど、閉室時間になっても扉が開くことはなかった。
 まさか中でやましいことでも起きているのでは、と一瞬頭をよぎったけれど、神林さんに限ってそれはない。しかも相手は逢坂だ、不相応にも程がある。きっと本の整理でも手伝っているのだろうと思うことにして、俺は図書室を後にした。

 帰宅したらすぐ机に向かって、本を開く。
 日記を書く作業はパズルに似ている。文豪の言葉を、どのようにして日記の流れに組み込んでいくか。簡単なようで難しく、すんなりハマったときはとても気持ちが良くて、俺自身がすっかりこの作戦の虜になっていた。テスト勉強は三十分そこそこで飽きてしまうのに、読書と執筆は一時間でも二時間でも集中できた。
 日記の順位は日を追うごとに上がっていった。作戦を始めて一週間で早くも七位、読者登録数も十五人になっている。計画通りだ。

「ねぇ、賢者の日記読んでる? 最近、毎日更新されてるやつ」
「読んでる読んでる。言ってることが深いよねぇ!」

 休み時間、女子たちのひそひそ話が聞こえてきた。
 きたきたきた! 全身の細胞がぶわっと踊るような感覚が湧き上がって、たまらず机に突っ伏する。やばい、顔がにやけて止まらない。
 人に認められるということは、こんなにも快感なのか。相手が俺をさげすんでいた女子たちだからひとしおだ。

 今この場で、俺が賢者だと宣言できないのが煩わしい。さり気なくにおわせてみようか。いっそ意図的に口を滑らせてしまうとか。
 ……いや、まだだ。まだ最大のライバル、時野旅人を越えていない。
 俺は修学旅行までに一位を取ることを目標に、日記の更新を続けた。テスト期間が終わればまた部活が始まって、十分な時間が確保できないだろう。今が勝負時だ。
 芥川龍之介の作品は短編が多く、主要なものはあっという間に読んでしまったので、次は芥川龍之介を慕っていたという太宰治の作品を借りることにした。

「よー巻島、次はこの三冊な!」
「ごきげんですね、保戸田君」

 まずい、顔に出ていただろうか。んなことねーよと咳払いをして、図書室をぐるりと見回す。明日からテストが始まることもあり、今日は満席だ。

「お節介かもしれませんが……勉強、大丈夫ですか?」

 巻島はペンを動かしながら言う。ついこの間までほぼ真っ白だった俺の貸し出しカードは、巻島の几帳面な字で半分ほどまで埋まっている。

「巻島こそ、毎日図書室にいるけど大丈夫なのかよ」
「私はここで勉強していますので」
「仕事中に勉強してんのかよ」
「司書の先生の許可は取っています。それにこの学校には二宮金次郎の像があります。彼は薪を背負い、働きながら学んでいました。学校側がそれを称えるならば、私の行動を咎めることはできません」

 巻島は意外とよく喋る上に、いちいち論理的だ。鼻につく。

「そーですか。じゃあとっとと帰って勉強するんで、早くして」
「あ、すみません。破損や水没があった場合は……」
「もういいから、その説明」

 巻島の手から本を奪うと、あ、と声を漏らした。なにか言いたげに俺を見上げてくるので、なんだよ、と返す。

「保戸田君がいま向き合うべきは、いまの保戸田君だと、私は思います」

 は? こいつ、なに言ってんの?

「説教垂れんなよ。巻島のくせに」

 言い捨ててカウンターから立ち去る。図書室の扉を開けたら、バンと大きな音が立ってしまった。鋭い視線を背中に感じて、逃げるように図書室を後にする。
 なんだよ、あの諭すような言葉は。イライラしながらイヤホンを耳にはめて、緩やかな坂道を下っていく。行きは億劫だけれど、帰りは自然と歩調が早くなる。背中を押されるように、嫌いな学校から逃げるように、早足で帰路につく。

『保戸田君がいま向き合うべきは、いまの保戸田君だと、私は思います』

 巻島の言葉が耳に貼りついている。俺は音楽の音量を上げた。
 あれはテスト勉強をしたほうがいいという進言だったのだろうか。だとしたら余計なお世話だ。勉強だってまったくしてないわけじゃないし、明日のテストは得意な地理と日本史だし。……いや、そういえば前回もそう思って手を抜いたら、平均点を取れなかったんだっけ。
 途端に不安になってくる。数学、範囲どこまでだっけ? 英語はリスニングもあるんだっけ? そういえば今回のテストには小遣いがかかっているんだった。認めたくはないけれど、巻島の言うことも一理あるかもしれない。

 ああもう、どうしてこううまくいかないのか。日記のおかげで少し減っていたイライラが、また募っていく。
 時野旅人は今まで、日記の更新を一日も休んだことはない。テスト期間であってもだ。追いかけるこちらは、息継ぎしている暇なんかないのに。
 仕方がないので、テストが終わるまでは、一言二言の簡単な内容の日記を更新することにした。メモ帳にストックしておいた文章をコピー&ペーストする。そのまま使うのは少し気が引けたけれど、背に腹はかえられない。
 そうしてどうにかテストと日記を両立させ、迎えたテスト最終日の夜。時野旅人の日記を読んだ俺は、スマホを床に落とした。


◆十月三十日『愚か者』

 動物は、しばしば体色変化を見せることがある。
 捕食者から身を守るために、あるいは被食者に気づかれないために、背景そっくりに自分の身体の色を変える。カモフラージュと呼ばれる現象だ。
 便利な力に溺れたカメレオンは気付かない。世界を生き抜くためのその手段は、この世界から自分を消すということだ。
 消えてしまった自分は、もう仲間にさえ見つけてもらえない。

◆ハンドルネーム/時野旅人


 バレた。そう直感した。
 一見すればいつものひねくれた日記だけれど、便利な力、世界を生き抜くための手段、といった表現しかり、なによりタイトルの『愚か者』が、俺に向けられた敵意のように思えてならなかった。
 なぜバレたのか。いやでも、バレたからなんだ。文豪の言葉を借りることは、あくまでも作戦だ。咎められるようなことはなに一つしていない。

 時野旅人は急激に追い上げてくる俺の存在を恐れているのだろう。だから一位を奪われる前に脅しをかけて、俺を排除しようとしている。
 乗ってやるよ、その挑発。俺の日記はいま四位だ。修学旅行まであと一週間と少し。それまでに絶対に抜いてやる。
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