2 / 12
第2話 今年は
しおりを挟む
朝の仕事が一段落したころ、私は桶を元の場所に戻した。
水の跳ねた手を布で拭いながら、家の中に入る。
仕立て屋へ行く準備を始める。
普段着よりは少しだけましな服を引っ張り出し、埃を払う。
壁に掛けた金属板に映る自分は、特別でもなんでもない、いつもの私だった。
靴を履こうとして、片方の紐に指をかけたまま動きを止めた。
レオンの誕生日が、もうすぐだ。
私とレオンの間では、誕生日を改まって祝うことはなかった。
祝おうとすると、レオンは決まって同じ反応をした。
困ったように口元を緩めて、視線を外す。
それから、話題を変える。
そんなこと、わざわざしなくていいと言わんばかりに、会話は終わってしまう。
嫌がっているわけではないのだと思う。
ただ、自分のために向けられた気持ちを、どう受け取ればいいのか分からないだけで。
でも、今年は少し事情が違う。
この国では、二十になる年を境に、責任を持つ者として扱われることになる。
私は、まだ十九だ。
同じ年に生まれたが、レオンは私よりも先にその年を迎える。
だから、今年は何か形に残るものを渡すつもりだった。
町へ行けば、なにか見つかるかもしれない。
しかし、剣や道具は彼のほうが目利きだ。
中途半端なものを渡すわけにはいかない。
どんなものでも、彼はきっと大切にしてくれるはずだが、だからこそ、選び方を間違えたくなかった。
役に立つものか。
それとも、役に立たなくても残るものか。
靴紐を結び直し、立ち上がる。
答えは出ないままだった。
外から、控えめに戸を叩く音がする。
「準備できたか」
レオンの声だった。
戸を開けると、彼は壁にもたれて立っている。
深い赤の髪は整えられていて、いつもより少しだけきちんとして見えた。
「今ちょうど」
「じゃあ行くぞ」
それだけ言って、先に歩き出す。
町へ行く日は、いつもこうだった。
約束をしていなくても、気付けば隣にいる。
村の外れへ向かう道を並んで歩く。
踏み固められた土の感触も、景色も、変わらない。
「仕立て屋だけでいいのか」
「んー、どうでしょう?」
「……仕方ねえな。気が済むまで付き合う。」
余計なことは聞かない。
それが、昔からの距離感だった。
水の跳ねた手を布で拭いながら、家の中に入る。
仕立て屋へ行く準備を始める。
普段着よりは少しだけましな服を引っ張り出し、埃を払う。
壁に掛けた金属板に映る自分は、特別でもなんでもない、いつもの私だった。
靴を履こうとして、片方の紐に指をかけたまま動きを止めた。
レオンの誕生日が、もうすぐだ。
私とレオンの間では、誕生日を改まって祝うことはなかった。
祝おうとすると、レオンは決まって同じ反応をした。
困ったように口元を緩めて、視線を外す。
それから、話題を変える。
そんなこと、わざわざしなくていいと言わんばかりに、会話は終わってしまう。
嫌がっているわけではないのだと思う。
ただ、自分のために向けられた気持ちを、どう受け取ればいいのか分からないだけで。
でも、今年は少し事情が違う。
この国では、二十になる年を境に、責任を持つ者として扱われることになる。
私は、まだ十九だ。
同じ年に生まれたが、レオンは私よりも先にその年を迎える。
だから、今年は何か形に残るものを渡すつもりだった。
町へ行けば、なにか見つかるかもしれない。
しかし、剣や道具は彼のほうが目利きだ。
中途半端なものを渡すわけにはいかない。
どんなものでも、彼はきっと大切にしてくれるはずだが、だからこそ、選び方を間違えたくなかった。
役に立つものか。
それとも、役に立たなくても残るものか。
靴紐を結び直し、立ち上がる。
答えは出ないままだった。
外から、控えめに戸を叩く音がする。
「準備できたか」
レオンの声だった。
戸を開けると、彼は壁にもたれて立っている。
深い赤の髪は整えられていて、いつもより少しだけきちんとして見えた。
「今ちょうど」
「じゃあ行くぞ」
それだけ言って、先に歩き出す。
町へ行く日は、いつもこうだった。
約束をしていなくても、気付けば隣にいる。
村の外れへ向かう道を並んで歩く。
踏み固められた土の感触も、景色も、変わらない。
「仕立て屋だけでいいのか」
「んー、どうでしょう?」
「……仕方ねえな。気が済むまで付き合う。」
余計なことは聞かない。
それが、昔からの距離感だった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない
橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。
そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。
1~2万文字の短編予定→中編に変更します。
いつもながらの溺愛執着ものです。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
いつか彼女を手に入れる日まで〜after story〜
月山 歩
恋愛
幼い頃から相思相愛の婚約者がいる私は、医師で侯爵の父が、令嬢に毒を盛ったと疑われて、捕らえられたことから、婚約者と結婚できないかもしれない危機に直面する。私はどうなってしまうの?
「いつかあなたを手に入れる日まで」のその後のお話です。単独でもわかる内容になっていますが、できればそちらから読んでいただけると、より理解していただけると思います。
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる