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鬼の知が浮かび軽快に鬼は笑う
魄は先祖がえりをする②
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十メートル前方に羅刹が二体、立っている。少々疲れたような表情だったが、魄を見るなりみるみる凶悪な笑みを浮かべた。
「まじ、いった、ちょ、ほんとに、まじか……うそだろ、はー、核を壊し損ねた」
腕を支えにして体を起こそうとするが、その前に羅刹たちが魄の肩を持ち上げ宙に浮かす。びっくりして目を見開くと、地面に叩きつけられた。
「う!」
頭を強打してしまい意識が混濁する。
一体の羅刹が人間の核となる心臓を取り出そうと手を振り上げた。
このままでは負ける。と感じた魄は……人をやめることにした。培った善意を捨てて本能の悪意に飲まれる。
凶悪な意思が瞳に宿ると、模様が眩しく輝いた。口が少し裂けて大きな上の八重歯が唇からはみ出してくる。めきめきと全身の筋肉の筋が発達して硬くなり、手の爪が青く伸びて水滴を纏った。
瞬きの間に夜叉へ変化した魄は、ふっと、唇を歪ませた。
「は、ははは。ははははは」
嘲るように笑いながら、羅刹の腕を掴んで止める。腕を軸にして上に飛び上がり、羅刹の首に足先を突き刺しながら乗っかった。ゴキンと岩にひびが入る音がして、羅刹が前のめりになりながら頭から地面にめり込む。土砂がいくつか宙を舞った。
羅刹の背中に着地して押さえつけながら、肩甲骨下の肉をえぐり取って核を取り出した。
「全く冗談じゃない」
大きい飴玉のような艶々した核を、魄は躊躇いもなしに口の中にいれてかみ砕く。羅刹が幻のように霧散した。
さて、と呟きながらもう一体の羅刹をみると、それは背を向けて、この場から離脱しようと全走力で走っていた。逃げる羅刹は恐怖に引きつっており体は小刻みに震えている。逆らってはならない相手だと本能的に悟り、なんとか逃げ延びようとしている。
「雑魚め。そんな鈍くさい動きで逃げられると思ってるのか?」
魄はゆっくりと立ち上がると髪をかき上げて、そのまま腕を空に向けた。
「水を以て火を滅す 湯を以て雪に沃ぐ 激流に砕かれろ」
魄に右手が神々しく輝いた。一筋の水流が槍のように飛び出し、羅刹の肩に突き刺さる。核が体から押し出された。すぐに核を握ろうと羅刹が手を伸ばすが、刺さったままの水がしなり別の方向へふっ飛ばされる。
「ざーんねん」
魄は高速で走って核を手で掴むと、急ブレーキをして立ち止まった。踏み込んだ衝撃で地面に靴跡がいくつか残っている。魄は核をかみ砕いた。
気に激突した瞬間に霧散した羅刹を眺めながら、ペロリと舌で唇を舐めてゆっくりと背伸びをする。
そしてすぐに渋い表情になり、腕に伸ばした両腕を腰に添えた。
「腹減った。なんの足しにもならない。人でも食いに行くか」
きょろり、とあたりを見渡した魄だが、ここが山中だったことに気づき垂直に飛翔した。20メートルほど飛んで四方を確認する。遠くにポツポツと家の明かりが見えた。着地してから、町の方角に顔を向ける。
「あっちの方向か。契約によりジュウソウ一族に手出しはできないから、それ以外の人間を一人か二人……誰にしようかなー。身が引き締まってて美味いのは若い男だが、中が柔らかい女もいいよなぁ。痩せていると霜降りで、硬いと歯ごたえがある。迷うなぁ」
涎を垂らしながら人間を思い浮かべていると、
「んあ?」
木々の隙間を縫うように一枚の形代が飛んできて、魄の腕に巻き付いた。
「っく!?」
ビリビリとした電気が全身に走ったので、魄は腕から形代を引きはがして破いた。埃でも払うように腕を撫でていると、二つの気配がすぐそこに居ると気づいた。何者かと凝視すると、形代と同じ道筋を辿りながら、森の木々の間をすり抜けた炎が青龍のように迫ってくる。
「水を以て水を救うべし 波を描け」
魄の前面に水壁ができて青炎を遮った。密着した面から水蒸気が上がる。なんだかデジャヴを感じるなと思っていたら、すぐ目の前に魁が来ている。炎と一緒に走って来たようだ。魁が水の壁を殴ると一気に水が蒸発する。阻むものがなくなったので、魁はもう一度炎を出した。
「火を以て 火を救う 求火!」
先に発した炎が魁の左手に集まり激しい火柱が上がる。魁の全身を激しい炎が包むと全て両手に集中する。
「水を以て火を滅す 湯を以て雪に沃ぐ 激流に砕かれろ」
魄も水の繭に包まると、腕ほどの水流を魁に放ちながら後退する。
「おおおおおお!」
魁は向かってくる水流を片っ端から殴って軌道を外していく。水蒸気が二人を包むがお互いの位置はしっかりわかっていた。すべての水流が明後日の方向へ流れて地面をえぐる。魁が更に前進すると、魄は面倒臭そうにジト目になる。
「執念深いモノは嫌われるぞ」
後方に逃げるのをやめて迎え撃つことにした。足を大きく開いて魁の右拳を手のひらで受け止める。ドッと魄の足元が二センチほど沈んだ。
「火を以て 火を救う 求火!」
魁の拳からでる青炎がさらに増しながら左拳をぶつける。魄は手で受け止めた。そのまま力が均衡する。十数秒経過すると、ジュっと、魄の手が火傷したように赤くなった。魁の目に戸惑いがうまれる。
しかし魄は自らの手を意に介さず、逆に魁の拳をグッと握りしめた。
「水を以て火を滅す 湯を以て雪に沃ぐ 激流に砕かれろ」
水柱が近距離から放たれる。
「活きる火は激発する!」
ドォン、と魄と魁の間で爆発がおこる。二人の手が離れてそれぞれ反対方向に飛んで行った。数メートルふっ飛ばされた魄は両腕に火傷を負いながら難なく着地する。魁もくるりと一回転しながら着地した。爆発によって起こった火柱が魁に集まり左腕に収束していく。模様が脈打ちそこだけマグマのようだった。
魄の腕が修復されて、右腕の模様が脈打ち、水が滴り落ちていた。
「おぬし主を変えたか? タカオか? あいつどこに隠れてる?」
夜叉になったとはいえ記憶は魄のままだ。相手が誰でどんな関係は覚えている。
「魄を止めるために一時的に主従関係を結んだ」
魁の返答に、一瞬だけ魄の視線が鋭くなるが、すぐに下衆な笑みを浮かべた。
「それは好都合。縁が切れてしまえば御の字だ。縛られるのは不自由で敵わん。カイもそう思うだろ?」
「思わない」
「鬼の威厳がないのか。腹の底からばかばかしいことだ」
魄は歯を見せながら笑い、右手を魁に向ける。
「水を以て水を救うべし 波を描け」
分厚い水の壁が出現する。高さ三メートル。幅五メートル。厚み十センチだ。それが三つ。激流のような速さで魁に向かって迫って来た。
「活きる火は激発する!」
魁は両手を前に伸ばしながら炎を爆発させた。水壁の中央が割れるように吹っ吹っ飛んだが、魄に焦りはない。あれは時間稼ぎで本命はこっちだ。
「光陰流水風に乗り波を破る山高く水低し心を椎ちて泣血す水面を 水を以て水を救うべし 無情を招く水火」
ぎゅる、と周囲の音が止んだ。
魁が怪訝そうに眉をひそめたその瞬間、ドッと大量の水が魄からあふれ出した。
あっという間に魁の腰まで水位が上がり、水が木々をなぎ倒して平地を水に沈めていく。
「火を以て 火を救う 求火!」
激流に動きをからめとられないよう、魁は体に火を纏わせて水の拘束を回避する。
「これは……」
周りに壁がないのにどんどん水位が上がっていく。魁が焦る表情を浮かべると、魄は満足そうな笑みを浮かべた。
「タカオと一緒に死ね」
ケラケラ笑いながら、魄は水の上を走って逃走を図った。
魁は「はぁ」とため息をつく。
ここまでの流れは鷹尾が言っていた通りである。
「まじ、いった、ちょ、ほんとに、まじか……うそだろ、はー、核を壊し損ねた」
腕を支えにして体を起こそうとするが、その前に羅刹たちが魄の肩を持ち上げ宙に浮かす。びっくりして目を見開くと、地面に叩きつけられた。
「う!」
頭を強打してしまい意識が混濁する。
一体の羅刹が人間の核となる心臓を取り出そうと手を振り上げた。
このままでは負ける。と感じた魄は……人をやめることにした。培った善意を捨てて本能の悪意に飲まれる。
凶悪な意思が瞳に宿ると、模様が眩しく輝いた。口が少し裂けて大きな上の八重歯が唇からはみ出してくる。めきめきと全身の筋肉の筋が発達して硬くなり、手の爪が青く伸びて水滴を纏った。
瞬きの間に夜叉へ変化した魄は、ふっと、唇を歪ませた。
「は、ははは。ははははは」
嘲るように笑いながら、羅刹の腕を掴んで止める。腕を軸にして上に飛び上がり、羅刹の首に足先を突き刺しながら乗っかった。ゴキンと岩にひびが入る音がして、羅刹が前のめりになりながら頭から地面にめり込む。土砂がいくつか宙を舞った。
羅刹の背中に着地して押さえつけながら、肩甲骨下の肉をえぐり取って核を取り出した。
「全く冗談じゃない」
大きい飴玉のような艶々した核を、魄は躊躇いもなしに口の中にいれてかみ砕く。羅刹が幻のように霧散した。
さて、と呟きながらもう一体の羅刹をみると、それは背を向けて、この場から離脱しようと全走力で走っていた。逃げる羅刹は恐怖に引きつっており体は小刻みに震えている。逆らってはならない相手だと本能的に悟り、なんとか逃げ延びようとしている。
「雑魚め。そんな鈍くさい動きで逃げられると思ってるのか?」
魄はゆっくりと立ち上がると髪をかき上げて、そのまま腕を空に向けた。
「水を以て火を滅す 湯を以て雪に沃ぐ 激流に砕かれろ」
魄に右手が神々しく輝いた。一筋の水流が槍のように飛び出し、羅刹の肩に突き刺さる。核が体から押し出された。すぐに核を握ろうと羅刹が手を伸ばすが、刺さったままの水がしなり別の方向へふっ飛ばされる。
「ざーんねん」
魄は高速で走って核を手で掴むと、急ブレーキをして立ち止まった。踏み込んだ衝撃で地面に靴跡がいくつか残っている。魄は核をかみ砕いた。
気に激突した瞬間に霧散した羅刹を眺めながら、ペロリと舌で唇を舐めてゆっくりと背伸びをする。
そしてすぐに渋い表情になり、腕に伸ばした両腕を腰に添えた。
「腹減った。なんの足しにもならない。人でも食いに行くか」
きょろり、とあたりを見渡した魄だが、ここが山中だったことに気づき垂直に飛翔した。20メートルほど飛んで四方を確認する。遠くにポツポツと家の明かりが見えた。着地してから、町の方角に顔を向ける。
「あっちの方向か。契約によりジュウソウ一族に手出しはできないから、それ以外の人間を一人か二人……誰にしようかなー。身が引き締まってて美味いのは若い男だが、中が柔らかい女もいいよなぁ。痩せていると霜降りで、硬いと歯ごたえがある。迷うなぁ」
涎を垂らしながら人間を思い浮かべていると、
「んあ?」
木々の隙間を縫うように一枚の形代が飛んできて、魄の腕に巻き付いた。
「っく!?」
ビリビリとした電気が全身に走ったので、魄は腕から形代を引きはがして破いた。埃でも払うように腕を撫でていると、二つの気配がすぐそこに居ると気づいた。何者かと凝視すると、形代と同じ道筋を辿りながら、森の木々の間をすり抜けた炎が青龍のように迫ってくる。
「水を以て水を救うべし 波を描け」
魄の前面に水壁ができて青炎を遮った。密着した面から水蒸気が上がる。なんだかデジャヴを感じるなと思っていたら、すぐ目の前に魁が来ている。炎と一緒に走って来たようだ。魁が水の壁を殴ると一気に水が蒸発する。阻むものがなくなったので、魁はもう一度炎を出した。
「火を以て 火を救う 求火!」
先に発した炎が魁の左手に集まり激しい火柱が上がる。魁の全身を激しい炎が包むと全て両手に集中する。
「水を以て火を滅す 湯を以て雪に沃ぐ 激流に砕かれろ」
魄も水の繭に包まると、腕ほどの水流を魁に放ちながら後退する。
「おおおおおお!」
魁は向かってくる水流を片っ端から殴って軌道を外していく。水蒸気が二人を包むがお互いの位置はしっかりわかっていた。すべての水流が明後日の方向へ流れて地面をえぐる。魁が更に前進すると、魄は面倒臭そうにジト目になる。
「執念深いモノは嫌われるぞ」
後方に逃げるのをやめて迎え撃つことにした。足を大きく開いて魁の右拳を手のひらで受け止める。ドッと魄の足元が二センチほど沈んだ。
「火を以て 火を救う 求火!」
魁の拳からでる青炎がさらに増しながら左拳をぶつける。魄は手で受け止めた。そのまま力が均衡する。十数秒経過すると、ジュっと、魄の手が火傷したように赤くなった。魁の目に戸惑いがうまれる。
しかし魄は自らの手を意に介さず、逆に魁の拳をグッと握りしめた。
「水を以て火を滅す 湯を以て雪に沃ぐ 激流に砕かれろ」
水柱が近距離から放たれる。
「活きる火は激発する!」
ドォン、と魄と魁の間で爆発がおこる。二人の手が離れてそれぞれ反対方向に飛んで行った。数メートルふっ飛ばされた魄は両腕に火傷を負いながら難なく着地する。魁もくるりと一回転しながら着地した。爆発によって起こった火柱が魁に集まり左腕に収束していく。模様が脈打ちそこだけマグマのようだった。
魄の腕が修復されて、右腕の模様が脈打ち、水が滴り落ちていた。
「おぬし主を変えたか? タカオか? あいつどこに隠れてる?」
夜叉になったとはいえ記憶は魄のままだ。相手が誰でどんな関係は覚えている。
「魄を止めるために一時的に主従関係を結んだ」
魁の返答に、一瞬だけ魄の視線が鋭くなるが、すぐに下衆な笑みを浮かべた。
「それは好都合。縁が切れてしまえば御の字だ。縛られるのは不自由で敵わん。カイもそう思うだろ?」
「思わない」
「鬼の威厳がないのか。腹の底からばかばかしいことだ」
魄は歯を見せながら笑い、右手を魁に向ける。
「水を以て水を救うべし 波を描け」
分厚い水の壁が出現する。高さ三メートル。幅五メートル。厚み十センチだ。それが三つ。激流のような速さで魁に向かって迫って来た。
「活きる火は激発する!」
魁は両手を前に伸ばしながら炎を爆発させた。水壁の中央が割れるように吹っ吹っ飛んだが、魄に焦りはない。あれは時間稼ぎで本命はこっちだ。
「光陰流水風に乗り波を破る山高く水低し心を椎ちて泣血す水面を 水を以て水を救うべし 無情を招く水火」
ぎゅる、と周囲の音が止んだ。
魁が怪訝そうに眉をひそめたその瞬間、ドッと大量の水が魄からあふれ出した。
あっという間に魁の腰まで水位が上がり、水が木々をなぎ倒して平地を水に沈めていく。
「火を以て 火を救う 求火!」
激流に動きをからめとられないよう、魁は体に火を纏わせて水の拘束を回避する。
「これは……」
周りに壁がないのにどんどん水位が上がっていく。魁が焦る表情を浮かべると、魄は満足そうな笑みを浮かべた。
「タカオと一緒に死ね」
ケラケラ笑いながら、魄は水の上を走って逃走を図った。
魁は「はぁ」とため息をつく。
ここまでの流れは鷹尾が言っていた通りである。
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