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文芸部美女トリオ
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美矢城県青葉市、青梛大学三内キャンパス。そのサークル棟二階の一室に、私たちの城はある。
青梛大学文芸部。発足当初は単なる同好会レベルの集まりだったものの、メンバーの増加によって今年から正式に文芸部を名乗り、晴れてサークル棟に部室まで獲得した、新進気鋭、目下赤マル急上昇中のサークルだ。
「あら、コーヒー切れとるよ、小雨ちゃん」
部室のコーヒーメーカーの前でそう呟くのは、若干二年にして文芸部の部長を務める、堀江梨子ちゃん。我が文芸部の繁栄は、梨子ちゃんの類まれなるオタサーの姫としての才能によるものと言っていい。ライトブラウンの髪にくるくるとパーマをかけ、ギャル風のメイクに服装というおよそ文芸部らしからぬ出で立ちの彼女。だからこそ、既存の文芸クラスタに留まらぬ幅広いジャンルの部員(主に男)を集めることができたのかもしれない。
北九州出身で全く方言が抜ける気配のない梨子ちゃんには、目上の人に対しても敬語が全く使えないという欠点があるのだが、彼女のバイト先であるデリヘル、そして文芸部では、それを『親しみやすい』という長所に変えている。
そして、『小雨ちゃん』と呼ばれた私、京谷小雨。青梛大学三年、『ちゃん』付けで呼ばれているが、私から見れば梨子ちゃんは一年下の下級生である。
私は文芸部の前身となる同好会発足当初からのメンバーであり、今の文芸部の部員の中では一応最古参なのだが、梨子ちゃんの前では全く頭が上がらない。
実を言うと、その同好会自体、私が級友の女子二人に誘われて何となく参加しただけで、こんなに長く続けるつもりは毛頭なかった。その上、後に加入した梨子ちゃんと二人の息が合わず、私以外の設立時からのメンバーはすぐにやめてしまった。私はどうしようかなあ、まあどうせこのサークルは自然消滅だろうなあと思っていたところで、姫としての天性の才能を発揮し始めた梨子ちゃんが、驚くべき速さで男子部員を集め始めたのだ。
そんなわけだから、今の文芸部員の大半は男子であり、男子のうち約半分は梨子ちゃん目当てで集まってきた連中である。梨子ちゃん曰く、『小雨ちゃんも眼鏡が似合うクール系のボインだから、露出増やせばイケる』そうなのだが、生憎その予定はない。つーか、なんだよ、クール系のボインて。
「いつから切れとったっちゃね」
「わかんない。あたしが昨日の昼飲もうと思ったときには、もう切れてたよ」
「また買ってこなならんね」
私と梨子ちゃんがそんな話をしていると、部室にもう一人の姫がやってきた。
「小雨さん、梨子っち、こんにちは」
彼女の名前は袴田心美。最近文芸部に入部した一年生である。艶のある長い黒髪と可憐なワンピースがトレードマーク。清楚でお淑やかで人当たりのいい、梨子ちゃんとも違うタイプの正統派の姫キャラだ。
ところで、一応私も腰まで伸ばした黒髪ロングではあるのだが、心美ちゃんが文芸部に加入して以降、『キャラが被る』という梨子ちゃんの鶴の一声によって、部活動中はポニーテールに纏めることを義務付けられてしまった。トホホ。
実は、心美ちゃんと私は彼女が青梛大学に入る以前から面識があった(※1)のだが、説明すると長くなるので、今は省こう。
入学当初から大学の新たなマドンナとして有名だった心美ちゃんの加入は、織原さんと諸星くんの抜けた穴(※2)を埋めるどころか更なる新規部員を呼び込み、若者の活字離れが叫ばれる昨今の風潮の中で、我が文芸部は青梛大学の中でも有数の巨大サークルへと成長したのである。先程男子部員の半数は梨子ちゃん目当てで集まった連中と述べたが、お察しの通り、残りの半数は心美ちゃんの加入後に寄ってきた連中だ。
「コーヒー、切れてたんですか?」
「ああ、うん、実は昨日からね」
「じゃあ私、買ってきましょうか」
清純派の美貌に加えて、この真面目さと気配り。そして、笑ったときにできる小さな笑窪。文学青年の理想を体現したような女の子だよなあ、とつくづく思う。童貞を殺す云々ってのは、本来こういう子のためにあるはずの言葉なのだ。
「ああ、帰りにうちが買ってくるけ、よかよ。心美ちゃんはここでじっと本読んどいてくれたらいいっちゃ」
「いいの? なんだかいつも本当に本を読んでるだけだから、申し訳なくて……」
「心美ちゃんが本読んでる姿は、それだけででたん絵になるけ。その姿を文芸部のインスタに載せたら、またそーとー部員増えるやん?」
自身が敬語を全く使えない梨子ちゃんは、下級生である心美ちゃんに対してもそれを求めない。このフレンドリーさが、梨子ちゃんの最大の魅力と言えるかもしれない。
私、梨子ちゃん、心美ちゃん。今日はたまたま他の部員がおらず、気心の知れた三人だけでゆったりと過ごすことができた。テーブルを囲んで椅子に腰掛け、思い思いの本を開きながら、静かな時が流れる。窓から差し込む心地よい日光、パラパラと響く紙の音。落ち着いたいつもの午後――のはずだった。
手持ちの本を読み終えた梨子ちゃんが、部室の書架の前に立ち、蔵書に手をかける。次の瞬間、平穏な時間は、梨子ちゃんの絶叫によって破られた。
「あーーーーーっ!!! ドグラ・マグラの初版本に、コーヒーの染みがついとる!!!」
!i!i!i!i!i!i!i!i
作者より後書き
本作は、『アンダンテ』に纏めてあるSシリーズ、および第10回ミステリー小説大賞にエントリー中の『桜の樹の下に君を埋めるといふこと』に登場するキャラクターの中から、小雨、心美、梨子を中心として展開していくライトミステリになります。
『アンダンテ』及び『桜の樹の下に~』を必ずしも読んで頂く必要はありませんが、過去作のネタがところどころに出てきますので、読んで頂ければより一層理解が深まることと存じます。
青梛大学文芸部。発足当初は単なる同好会レベルの集まりだったものの、メンバーの増加によって今年から正式に文芸部を名乗り、晴れてサークル棟に部室まで獲得した、新進気鋭、目下赤マル急上昇中のサークルだ。
「あら、コーヒー切れとるよ、小雨ちゃん」
部室のコーヒーメーカーの前でそう呟くのは、若干二年にして文芸部の部長を務める、堀江梨子ちゃん。我が文芸部の繁栄は、梨子ちゃんの類まれなるオタサーの姫としての才能によるものと言っていい。ライトブラウンの髪にくるくるとパーマをかけ、ギャル風のメイクに服装というおよそ文芸部らしからぬ出で立ちの彼女。だからこそ、既存の文芸クラスタに留まらぬ幅広いジャンルの部員(主に男)を集めることができたのかもしれない。
北九州出身で全く方言が抜ける気配のない梨子ちゃんには、目上の人に対しても敬語が全く使えないという欠点があるのだが、彼女のバイト先であるデリヘル、そして文芸部では、それを『親しみやすい』という長所に変えている。
そして、『小雨ちゃん』と呼ばれた私、京谷小雨。青梛大学三年、『ちゃん』付けで呼ばれているが、私から見れば梨子ちゃんは一年下の下級生である。
私は文芸部の前身となる同好会発足当初からのメンバーであり、今の文芸部の部員の中では一応最古参なのだが、梨子ちゃんの前では全く頭が上がらない。
実を言うと、その同好会自体、私が級友の女子二人に誘われて何となく参加しただけで、こんなに長く続けるつもりは毛頭なかった。その上、後に加入した梨子ちゃんと二人の息が合わず、私以外の設立時からのメンバーはすぐにやめてしまった。私はどうしようかなあ、まあどうせこのサークルは自然消滅だろうなあと思っていたところで、姫としての天性の才能を発揮し始めた梨子ちゃんが、驚くべき速さで男子部員を集め始めたのだ。
そんなわけだから、今の文芸部員の大半は男子であり、男子のうち約半分は梨子ちゃん目当てで集まってきた連中である。梨子ちゃん曰く、『小雨ちゃんも眼鏡が似合うクール系のボインだから、露出増やせばイケる』そうなのだが、生憎その予定はない。つーか、なんだよ、クール系のボインて。
「いつから切れとったっちゃね」
「わかんない。あたしが昨日の昼飲もうと思ったときには、もう切れてたよ」
「また買ってこなならんね」
私と梨子ちゃんがそんな話をしていると、部室にもう一人の姫がやってきた。
「小雨さん、梨子っち、こんにちは」
彼女の名前は袴田心美。最近文芸部に入部した一年生である。艶のある長い黒髪と可憐なワンピースがトレードマーク。清楚でお淑やかで人当たりのいい、梨子ちゃんとも違うタイプの正統派の姫キャラだ。
ところで、一応私も腰まで伸ばした黒髪ロングではあるのだが、心美ちゃんが文芸部に加入して以降、『キャラが被る』という梨子ちゃんの鶴の一声によって、部活動中はポニーテールに纏めることを義務付けられてしまった。トホホ。
実は、心美ちゃんと私は彼女が青梛大学に入る以前から面識があった(※1)のだが、説明すると長くなるので、今は省こう。
入学当初から大学の新たなマドンナとして有名だった心美ちゃんの加入は、織原さんと諸星くんの抜けた穴(※2)を埋めるどころか更なる新規部員を呼び込み、若者の活字離れが叫ばれる昨今の風潮の中で、我が文芸部は青梛大学の中でも有数の巨大サークルへと成長したのである。先程男子部員の半数は梨子ちゃん目当てで集まった連中と述べたが、お察しの通り、残りの半数は心美ちゃんの加入後に寄ってきた連中だ。
「コーヒー、切れてたんですか?」
「ああ、うん、実は昨日からね」
「じゃあ私、買ってきましょうか」
清純派の美貌に加えて、この真面目さと気配り。そして、笑ったときにできる小さな笑窪。文学青年の理想を体現したような女の子だよなあ、とつくづく思う。童貞を殺す云々ってのは、本来こういう子のためにあるはずの言葉なのだ。
「ああ、帰りにうちが買ってくるけ、よかよ。心美ちゃんはここでじっと本読んどいてくれたらいいっちゃ」
「いいの? なんだかいつも本当に本を読んでるだけだから、申し訳なくて……」
「心美ちゃんが本読んでる姿は、それだけででたん絵になるけ。その姿を文芸部のインスタに載せたら、またそーとー部員増えるやん?」
自身が敬語を全く使えない梨子ちゃんは、下級生である心美ちゃんに対してもそれを求めない。このフレンドリーさが、梨子ちゃんの最大の魅力と言えるかもしれない。
私、梨子ちゃん、心美ちゃん。今日はたまたま他の部員がおらず、気心の知れた三人だけでゆったりと過ごすことができた。テーブルを囲んで椅子に腰掛け、思い思いの本を開きながら、静かな時が流れる。窓から差し込む心地よい日光、パラパラと響く紙の音。落ち着いたいつもの午後――のはずだった。
手持ちの本を読み終えた梨子ちゃんが、部室の書架の前に立ち、蔵書に手をかける。次の瞬間、平穏な時間は、梨子ちゃんの絶叫によって破られた。
「あーーーーーっ!!! ドグラ・マグラの初版本に、コーヒーの染みがついとる!!!」
!i!i!i!i!i!i!i!i
作者より後書き
本作は、『アンダンテ』に纏めてあるSシリーズ、および第10回ミステリー小説大賞にエントリー中の『桜の樹の下に君を埋めるといふこと』に登場するキャラクターの中から、小雨、心美、梨子を中心として展開していくライトミステリになります。
『アンダンテ』及び『桜の樹の下に~』を必ずしも読んで頂く必要はありませんが、過去作のネタがところどころに出てきますので、読んで頂ければより一層理解が深まることと存じます。
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